ベーチェット病とは|clila疾患情報

目次

ベーチェット病とは

相談の目安

疫学的整理

病因

診断

症状

診断・治療の方法

診断・治療の難しさ

 

ベーチェット病とは

ベーチェット病は、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼のブドウ膜炎、外陰部潰瘍を主症状とし、急性炎症性発作を反復しつつ慢性に経過する炎症性疾患で、一部の症例には腸管、血管、神経など、難治性の臓器病変も生じます。

ベーチェット病に類似する疾病の記載はすでにヒポクラテスの著書にあると言われていますが、文献的には本症と考えられる症例が1924年に我が国で報告されています。その病名は最初に詳細な症例報告を行った、トルコのイスタンブール大学Behçet教授に由来するものです。

 

相談の目安

 ベーチェット病では口腔内アフタ性潰瘍、外陰部潰瘍を生じ、これらは頻度が高く、初発症状であることが多いです。ベーチェット病の再発性口腔内アフタ性潰瘍の頻度は90%以上と高く、しばしば長期にわたり消退・再燃を繰り返しながら継続します。

 

疫学的整理

本症はトルコ、イタリア、ギリシャ、アラブ連合などの中近東や地中海沿岸の諸国に多く、イギリス、ドイツでは少なく、アメリカ大陸では稀とされてきました。

現在は日本をはじめ韓国、中国、中近東、地中海沿岸諸国に多発し、かつてのシルクロード沿いに多く、シルクロード病と呼ばれることもあります。

本邦では1960年代から1970年代にかけて患者が急増し、北海道、青森で多く、沖縄で少ないという分布を示します。平成25年度の特定疾患医療受給者は19,147人(人口10万人対15例)です。発症のピークは30歳代にあり、男女比はほぼ1:1ですが、重症例は男性、特に若年発症者に多いとされます。

 

病因

わが国では1960年代以降、本症が多発し、失明率の高さや中枢神経・血管・脈管の病変が致死的原因となることから代表的難治性疾患として注目されるようになり、1972年に当時の厚生省が最も早くに難病に指定しました。以来、研究班が設置され、継続して研究がおこなわれてきましたが、原因は未だに不明です。

病因の強力な仮説として、遺伝素因に何らかの環境因子が加わり、発症に至ると考えられます。遺伝素因の中ではHLA-B51が特に重視されています。HLAとは白血球の血液型ともいえるヒト白血球抗原のことで、ベーチェット病でHLA-B51保有率が高いことが報告されています。本症とHLA-B51の相関は国や人種を問わず存在することが示され、遺伝的素因の存在が明らかになりましたが、本症の家族内発生は2%前後に過ぎず、米国在住日系人の発病はほとんどないことから、発病には遺伝的素因に何等かの環境因子の存在が加わる必要があると考えられました。

環境因子として考えられる代表的なものは病原微生物です。連鎖球菌やヘルペスウイルスの関与が疑われていますが、原因の同定には至っていません。

 

診断

厚生労働省診断基準では、頻度の高い4つを主症状、5つを副症状として、その組み合わせにより、完全型、不全型、疑い例と分類されます。以下に、診断基準に挙げられている1.主要項目および、2.検査所見を示します。

 

厚生労働省ベーチェット病診断基準

1.主要症状

(1)主症状

1.口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍

2.皮膚症状

   a. 結節性紅斑様皮疹

   b. 皮下の血栓性静脈炎

   c. 毛嚢炎様皮疹、痤瘡様皮疹

3.眼症状

   a. 虹彩毛様体炎

   b. 網膜ぶどう膜炎(脈絡膜炎)

   c. 以下の所見があれば(a)(b)に準じる

    (a)(b)を経過したと思われる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、脈絡膜委縮、視神経

委縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆

4.外陰部潰瘍

(2)副症状

1.変形や硬直を伴わない関節炎

2.精巣上体炎

3.回盲部潰瘍で代表される消化器病変

4.血管病変

5.中等度以上の中枢神経病変

(3)病型診断の基準

1.完全型:経過中に4主症状が出現したもの

2.不全型

   a. 経過中に3主症状、あるいは2主症状と2副症状が出現したもの

   b. 経過中に定型的眼症状とその他の1主症状、あるいは2副症状が出現したもの

3.疑い:主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの 

4.特殊病型:完全型または不全型の病型を満たし、下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し、以下のように分類する。

   a. 腸管(型)ベーチェット病―内視鏡で病変(部位を含む)を確認する。

 b. 血管(型)ベーチェット病―動脈瘤、動脈閉塞、深部静脈血栓症、肺塞栓のいずれ

かを確認する。

 c. 神経(型)ベーチェット病―髄膜炎、脳幹脳炎など急激な炎症性病態を呈する急性

型と体幹失調、神経症状が緩徐に進行する慢性進行型のいずれかを確認する。

 

2.検査所見

参考となる検査所見(必須ではない)

1.皮膚の針反応の陰・陽性

  20-22Gの比較的太い注射針を用いること

2.炎症反応 

  赤沈の亢進、血清CRPの陽性化、末梢白血球数の増加、補体価の情報

3.HLA-B51の陽性(約60%)、A26(約30%)

4.病理所見

  急性期の結節性紅斑様皮疹では中隔性脂肪組織炎で浸潤採苗は高く白血球と単核球の浸潤による。初期に多核球が多いが、単核球の浸潤が中心で、いわゆるリンパ球性血管炎の像をとる。全身的血管炎の可能性を示唆する壊死性血管炎を伴うこともあるので、その有無をみる。

5.神経型の診断においては髄液所見における細胞増多、IL-6増加、MRIの画像所見(フレア画像での高信号域や脳幹の萎縮像)を参考とする。

 

通常、再発性口腔内アフタが先行し、他の主症状が出現して診断に至るのが典型的な経過です。この基準で主症状に挙げられる4つの症状は頻度が高く、特に診断上重要ですが、これらの症状は必ずしもベーチェット病に特異的というわけではなく、多くの疾患との鑑別が必要です。

 

症状

1.口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍

口唇、頬粘膜、歯肉部、まれに口蓋に好発し、痛みを伴います。しつこく反復し、白くて周囲が赤く、面積が広い(小さいものも含む)潰瘍ができます。これはほぼ必発の症状ですが、これだけでベーチェット病の診断には至りません。ベーチェット病と関連のない再発性口腔内アフタやヘルペス性口内炎、カンジダ性口内炎、扁平苔癬、薬剤性口内炎、白板症などとの鑑別が必要です。

 

2.皮膚症状

a. 結節性紅斑様皮疹:下腿伸側に多く(時に大腿、前腕)、病変部は紅くなり、皮下に硬結を触れ、圧痛を伴います。

b. 痤瘡様皮疹:「にきび」に似た大き目の皮疹が、顔、頸、胸部、背部などにできます。採血などで針を刺したあと、発赤、膿を形成することがあり、傷が治りにくい現象をみています。これを検査に応用したのが針反応です。

c. 血栓性静脈炎:主に下腿の皮膚表面に近い血管に沿って紅くなります。

 

3.外陰部潰瘍

男性では陰嚢に多く、陰茎、亀頭に、女性では陰唇、膣粘膜にみられます。有痛性の潰瘍で瘢痕をのこすことがあります。

 

4.眼症状

この疾患において最大の問題です。罹患者の60%に眼症状、50%に後部ぶどう膜炎、20%に失明があると集計されています。生じるとほとんどの場合5年以内に両眼性になります。男性は女性の2倍、かつ重症例は男性に多くみられます。前眼部病変として虹彩毛様体炎がおこり、羞明、眼痛、などがみられます。炎症が後眼部に及ぶと脈絡膜炎となり、炎症は隣接する網膜に及びます。眼発作とよばれるように、時間の単位で視力、視野障害が増悪、また軽減します。発作をくりかえすうち、徐々に障害が蓄積し、視力が低下していき、ついには失明に至ることがあります。

 

5.関節炎

大関節(膝、手関節、足関節、肘、肩など)の関節炎をおこします。一般に非破壊性で変形や硬直は残さず、変動性、移動性の傾向があります。

 

6.血管病変

ベーチェット病の病態は基本的に微小血管系またはその周囲の炎症ですが、大中動脈、大中または深部静脈に病変があるとき、血管型ベーチェットといます。動脈壁の炎症、静脈血栓により、それぞれ閉塞、動脈瘤、静脈瘤を生じます。静脈系の病変の頻度がはるかに高く、血管病変は圧倒的に男性に多いとされています。

 

7.消化器病変

ベーチェット病では右下腹部の回盲部を中心に腸管潰瘍が生じることがあり、腸管型ベーチェット病とよばれています。潰瘍は食道から直腸までに生じる可能性があり、多発しやすいとされます。

特徴的な症状に乏しく、軽症の場合、無症状のこともあります。一般的な消化器症状としては腹痛で、病変の好発部位が回盲部であるため、右下腹部痛を伴うことが多いです。また、慢性下痢、血便、体重減少を伴う場合もあります。病変の炎症が周囲に波及すると発熱や全身倦怠感を伴い、病変に狭窄を合併すると腸閉塞症状を認めます。さらに病変が進行すると多量の消化管出血や穿孔がおこり、緊急手術を必要とすることもあります。

腸管型ベーチェット病では、特にクローン病が鑑別に困難な場合があるので注意が必要です。クローン病でも病変が口腔から直腸までに生じ、回盲部に好発し、穿孔することは共通点で、関節炎、結節性紅斑、虹彩炎などの共通した症状がみられることもあります。類上皮肉芽腫はベーチェット病ではみられず、鑑別の重要なマーカーのひとつになります。

 

8.神経症状

中枢神経症状が前面に出る病型を神経ベーチェット病といいます。神経ベーチェット病は急性型と慢性進行型の2つに分類されます。急性型は通常発熱を伴った髄膜脳炎の形をとります。これに片麻痺や脳神経麻痺など様々な脳局所兆候を伴うことが多く、障害部位はMRIのフレア画像において高信号域として描出されます。

一方、慢性進行型では、認知症様の精神神経症状や失調性歩行が徐々に進行し、ついには廃人同様になってしまうとされます。この型では急性型の発作が先行症状として出現した後に、数年の間をおいて認知症・精神症状や構語障害・体感失調が出現し、これが徐々に進行します。慢性進行型ではHLA-B51陽性の頻度が極めて高く(85.7%)、男女比が27:8と男性に多く、喫煙率が91.2%と極めて高いという疫学的特徴が報告されています。

 

9.副睾丸炎

再発性の睾丸の腫脹・疼痛を生じます。日本人ベーチェット病患者における副睾丸炎の頻度は6%とされています。ベーチェット病に比較的特異性の高い症状とされていますが、時に家族性地中海熱でも生じます。

 

 

3.重症度 

副症状に分類される症状は、必ず出現するというわけではありませんが、特に大血管、消化管、中枢神経(脳や脊椎)に病変が生じると症状は重篤化し、後遺症を残すこともあります。これらはそれぞれ、血管型、消化管型、神経型ベーチェット病とよばれ、特殊病型に分類されます。

 

ベーチェット病重症度基準は以下のように分類されています。

Stage内容 

I. 眼症状以外の主症状のみられるもの

II. StageIの症状に眼症状として虹彩毛様体炎が加わったもの

  StageI症状に関節炎や副睾丸炎が加わったもの

III. 脈絡膜炎がみられるもの

IV. 失明の可能性があるか、失明に至った脈絡膜炎およびその他の眼合併症を有するもの

  活動性、ないし重症の後遺症を残す特殊病型(腸管ベーチェット病、血管ベーチェット

病、神経ベーチェット病)である

V. 生命予後に危険のある特殊病型ベーチェット病である

  慢性進行型神経ベーチェット病である

 

診断・治療の方法

 ベーチェット病には診断に直結する特異的な検査所見はないので、症状の組み合わせを考慮した診断基準を用いて診断されます。しかしながら、世界中の専門家の意見が一致した疾患の定義は存在せず、International Study Groupにより作成された国際診断基準をはじめとする複数の診断基準が存在しています。

本邦では厚生労働省の診断基準が用いられることが多いですが、ベーチェット病の症状は多彩であり、症状の出現パターンもさまざまです。診断が難しくない典型的な例もありますが、副症状が主体である場合には必ずしも容易ではありません。

 

診断・治療の難しさ

ベーチェット病の病状は非常に多彩であるため、すべての病状に対応できる一律の治療法があるわけではありません。病型および重症度に応じた治療が必要です。

 

Reference

1)中村晃一郎 他 ベーチェット病の皮膚粘膜病変診療ガイドライン 日皮会誌:128(10)2087-2101、2018

2)岳野光洋 ベーチェット病の免疫病態 日医大医会誌 2016;12(1)15-25

3)厚生労働省科学研究費補助金 ベーチェット病に関する調査研究事務局 ベーチェット病研究班 ホームページhttp://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~behcet/index.html

4)日本ベーチェット病学会 ホームページ

http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~jbehcet/jigyou/shindan.html

5)International Study Group for Behçet’s disease: Criteria for diagnosis of Behçet’s disease. Lancet 335:1078-1080, 1990.

6)Hatemi G, et al.: EULAR Expert Committee. EULAR recommendations for the management of Behçet disease. Ann Rheum Dis 2008; 67: 1656-1662.

7)石ケ坪良明 他 自己炎症疾患としてのベーチェット病 Jpn. J. Clin. Immnol., 34(5) 408-419

8) 野上晃司 他 消化管ベーチェット病の診断と治療 Gastroenteological Endoscopy 54(9).Sep.2012 3115-3123

9)廣畑俊成 ベーチェット病の神経病変 Clin Rheumatol, 27: 288-295, 2015

10)橋本喬史 Behçet病 日本内科学会雑誌 91(9)94-98 2002

 

 

 

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