小児溶連菌感染症|clila疾患情報

目次

溶連菌感染症とは

小児におけるA群溶血性連鎖球菌咽頭炎

疫学的整理

海外動向

症状

重症化しやすい場合(合併症)

感染予防対策

検査・診断の方法

検査・診断の難しさ

治療

 

溶連菌感染症とは 

溶連菌とは溶血性連鎖球菌の略で、溶連菌感染症とは溶血性連鎖球菌に感染することによって引き起こされる感染症です。連鎖球菌は溶血のパターンによりβ、α、γの3種類に、また血清型によってA~HとK~Tに分類されます。

連鎖球菌のうち最も病原性が強いのはβ溶血性連鎖球菌で、α溶血性連鎖球菌はβ溶血性連鎖球菌に比較して病原性が弱く、γ溶血性連鎖球菌はさらに病原性が弱いとされます。さらに、β溶血性連鎖球菌のなかでも、A群β溶血性連鎖球菌は最も病原性が強いことが知られています。 

A群溶血性連鎖球菌による日常よくみられる疾患として急性咽頭炎の他、膿痂疹、蜂窩織炎、あるいは特殊な病型として猩紅熱があります。これら以外にも中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などを起こします。また、菌の直接の作用ではなく、免疫学的機序を介して、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすことが知られており、重篤な病態である劇症型溶血性連鎖球菌感染症を引き起こすこともあります。



小児におけるA群溶血性連鎖球菌咽頭炎 

厚生労働省から公開されている「抗微生物薬適正使用の手引き 第2版」では、小児を生後3か月以降~小学校入学前と、成人・学童期以降の小児に分け、指針を示しています。ここでは生後3か月以降~小学校入学前の小児におけるA群溶血性連鎖球菌咽頭炎を中心に述べていきます。 

急性咽頭炎とは、急性気道感染症(一般的に「風邪」、「感冒」などと表現される概念)のうち喉の痛みを主症状とするもので、上記手引きでは急性扁桃炎も急性咽頭炎に含まれています。 

感染症で起こる急性咽頭炎のうち、原因として最も多いものは成人と同様にウイルスですが、重要なのは、原因がA群β溶血性連鎖球菌であるかどうかを診断することです。その理由は、A群β溶血性連鎖球菌による急性咽頭炎は抗菌薬治療の適応となるからです。一方、A群β溶血性連鎖球菌が検出されない急性咽頭炎に対しては、抗菌薬投与を行わないことが推奨されます。つまり急性咽頭炎のうち、抗菌薬治療の適応となるのはA群β溶血性連鎖球菌による咽頭炎のみです。

 

疫学的整理

急性咽頭炎と診断された小児のうち、A群β溶血性連鎖球菌が陽性となる割合について、日本では16.3%、海外では27%との報告があります。A群β溶血性連鎖球菌による急性咽頭炎は5歳から12歳で頻度が高く、3歳未満児においては稀であるとされます。

 

海外動向

A群溶血性連鎖球菌により引き起こされ、発疹を特徴とする感染症を猩紅熱とよびます。5)2014年以降、イングランドでは猩紅熱の感染者が増加しており、1960年第以降で最大の幹線規模となっていると報告されています。

猩紅熱は全年齢で生じるが特に5-15歳の小児に多い疾患で、3歳未満の小児で生じることは稀です。猩紅熱の場合、発熱開始後12 〜24 時間すると点状紅斑様、日焼け様の皮疹が出現します。また、舌の変化として、発症早期には白い苔に覆われたような舌(white strawberry tongue )がみられ、その後苺のような舌(red strawberry tongue )となります。 合併症として、肺炎、髄膜炎、敗血症などの化膿性疾患、あるいはリウマチ熱、急性糸球体腎炎などの非化膿性疾患を生ずることもあります

イングランドでは、猩紅熱の感染者数は2014年の約1万5000人から2016年には1万9000人に増加しており、流行している猩紅熱の原因が新しい型のA群溶血性連鎖である可能性が報告さています。

 

症状

A群溶血性連鎖球菌咽頭炎の潜伏期は2〜5日です。潜伏期での感染性についてははっきりしていません。突然の発熱と全身倦怠感、咽頭痛によって発症し、しばしば嘔吐を伴います。2)しかし、頚部リンパ節腫脹や発疹を主症状とし、熱や咽頭痛を主症状としないお子さんがいるため、A群溶血性連鎖球菌咽頭炎の診断は必ずしも容易ではありません。

 

重症化しやすい場合(合併症)

A群溶血性連鎖球菌による続発症として重要なのはリウマチ熱と急性糸球体腎炎です。

リウマチ熱は溶連菌感染症に続発して、心、関節、皮膚、腦などの諸症状を呈する疾患で、リウマチ熱に伴う心炎は後遺症を残したり心不全を起こして生命に関わる可能性があります。

 急性咽頭炎と診断され、溶連菌検査が陽性になったら、重篤な合併症であるリウマチ熱を予防するため、10日間抗菌薬を医師の指示通り飲み切る必要があります。解熱したからといって自己判断で内服を中止しないよう徹底が必要です。 

溶連菌感染後急性糸球体腎炎は、溶連菌による咽頭炎、扁桃炎などの1~3週間後に突然の血尿、蛋白尿、腎障害と、それに伴う浮腫や高血圧をおこす急性腎炎症候群として発症します。一般的に予後良好な疾患と考えられていますが、臨床像は軽症から重症まで多彩で、一部に急性腎不全や心不全で重篤になるものや、遷延するものもあり小児科領域における重要な疾患です。

リウマチ熱と異なって、抗菌薬の投与は溶連菌感染後糸球体腎炎の発症を予防できないとされています。溶連菌感染後には急性糸球体腎炎の症状出現に注意し、症状が出てきたときには小児科を受診することが大切です。

 

感染予防対策

主な感染経路は飛沫感染および接触感染です。食品を介して経口感染する場合もあります。ワクチンは開発されていません。飛沫感染や接触感染により感染するため、手洗いの励行等一般的な予防法を実施することが大切です。 

感染性は急性期に最も高く、その後徐々に減弱します。急性期の感染率については兄弟での間が最も高率で25%と報告されています。兄弟に対して予防的に抗菌薬を投与すべきかどうかの検討がなされましたが、結論としては予防投与はすべきでなく、発症してから治療すべきとされています。

 

検査・診断の方法

A群溶血性連鎖球菌咽頭炎の原因診断には咽頭の培養検査を行い、A群溶血性連鎖球菌を確認することが基本ですが、迅速抗原検査を利用することもできます。培養検査では結果が得られるまでに少なくとも2日を要しますが、迅速抗原検査では特殊な技術や機械がなくても10分かからずに結果が得られるというメリットがあります。A群溶血性連鎖球菌の迅速抗原検査は感度95%、特異度70~90%とされています。特異度が優れているので、迅速抗原検査で陽性であれば、追加の培養検査は不要といえます。

 A群溶血性連鎖球菌の迅速抗原検査の適応は、以下の1)、2)、3)を満たすものとされています。

  1. 急性咽頭炎の症状と症候があり、急性A群溶血性連鎖球菌咽頭炎が疑われる
  2. 急性A群溶血性連鎖球菌咽頭炎の身体所見を有する
  3. 原則、3歳以上(周囲で流行している場合はその限りではない)

 

検査・診断の方法

急性咽頭炎診療で重要なことは、自然治癒するウイルス性咽頭炎と治療可能なA群溶血性連鎖球菌咽頭炎を鑑別し、適切にフォローアップすることと、急性上気道閉塞性疾患をみのがさないことです。 

急性咽頭炎の診断の目的はA群溶血性連鎖球菌が起因微生物かどうかを判断することです。急性咽頭炎の感染性要因の中で最も多いのは成人と同様にウイルスであり、ウイルス性咽頭炎とA群溶血性連鎖球菌咽頭炎を鑑別することが必要です。

A群溶血性連鎖球菌による咽頭炎の可能性を判断する基準としては、以下のようなCentorの基準が用いられます。

  • 発熱38℃以上・・・1点
  • 咳がない・・・1点
  • 圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹・・・1点
  • 白苔を伴う扁桃炎・・・1点

 

​​​しかし、4点の最高得点でもA群溶血性連鎖球菌は68%で、典型的な症状を示さない症例もあるため、迅速抗原検査は大きな参考になります。ただし、3歳未満ではA群溶血性連鎖球菌咽頭炎がそもそも少ないこと、続発する続発する急性リウマチ熱の合併が少ないために、A群溶血性連鎖球菌咽頭炎患者と濃厚接触があるときを除いて、検査しないことが推奨されます。

 見逃してはいけないのは、急性喉頭蓋炎、頸部膿瘍、扁桃周囲膿瘍など短時間で窒息に至る可能性のある疾患です。これらを起こすと急激に全身状態が悪化し、喘鳴、姿勢の異常や涎を垂らすといった状態に陥ります。これらの疾患においては、刺激するような診察や検査は避け、児の楽な姿勢のままで、安全に気道確保できる施設への転院を速やかに決断することが重要です。

 

治療

A群溶血性連鎖球菌による急性咽頭炎に対する抗菌薬の使用目的は3つあります。

  1. 急性リウマチ熱の予防                                         溶連菌感染症発症から9日以内の抗菌薬開始で急性リウマチ熱を予防効果が証明されています。一方、急性糸球体腎炎は抗菌薬使用しても予防できないため、感染から1~3週間後に突然の血尿、浮腫などに注意が必要です。

  2. 速やかな症状緩和                                            一般的にA群溶血性連鎖球菌咽頭炎による症状は3~4日で軽快しますが、抗菌薬はその有症状期間を半日から1日程度短くします。

  3. 周囲への感染伝播予防                                          適切な抗菌薬の投与により速やかに解熱し、24時間後には感染力がほとんど消失します。投与後24時間以上経過し全身状態が良ければ登園、登校は許可されます。 

A群溶血性連鎖球菌咽頭炎に対する治療として、米国感染症学会(IDSA)のガイドラインではペニシリン系抗菌薬が推奨されています。日本の「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」でも、A群溶血性連鎖球菌咽頭炎にはアモキシリンが第一選択の抗菌薬として推奨されています。

小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017ではアモキシリンの小児投与量は30~50mg/kg/日・分2~3とされています。小児外来抗菌薬治療において用法容量をしっかり守ることは重要です。A群溶血性連鎖球菌咽頭炎に対するペニシリン系抗菌薬での治療期間は10日間が推奨されます。抗菌薬治療によって、先進国ではリウマチ熱が激減しています。症状が改善傾向であっても医師の指示通りに抗菌剤を飲み切ることが大切です。 

重症ペニシリンアレルギーがある場合は、代替薬として第一世代セフェム、クリンダマイシン、マクロライド系が推奨されます。しかし、クリンダマイシン耐性は24%と高く、マクロライド薬への耐性率も61%と高くなっています。一方A群溶血性連鎖球菌はすべてのペニシリン系抗菌薬に対して感受性があります。

参考文献

1)青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版

2)A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは 国立感染症研究所ホームページ

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html

3)厚生労働省健康局結核感染症課「抗微生物薬適正使用の手引き 第二版」

4) Emergence of dominant toxigenic M1T1 Streptococcus pyogenes clone during increased scarlet fever activity in England: a population-based molecular epidemiological study. Lynskey NN, et al. Lancet Infect Dis. 2019 Sep 10.

5) Group A Streptococcal Disease  CDCホームページ

https://www.cdc.gov/groupastrep/diseases-hcp/scarlet-fever.html

6) 菊田英明 他; 小児科からみたA群β溶血性レンサ球菌による咽頭扁桃炎 日耳鼻 115:1-7,2012

7)大塚雄一郎 他; 真菌炎と扁桃周囲膿瘍で発症したリウマチ熱の1例 口咽科 2015:28(1):109-114

8)御手洗哲也 他; 溶連菌感染症後急性糸球体腎炎 医学と薬学 65:113-119,2011

9) 坂田宏 小児科における咽頭炎・扁桃炎:A群溶連菌感染症を中心に 口腔科23:1:11-16,2010)

10) 厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)」

11)  Catanzaro FJ, et al.Am J Med. 1954;17:749-56

12) Shulman, et al.Clin Infect Dis. 2012;55:e86-102

13) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017」協和企画、2016年

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