百日咳|clila疾患情報

目次

百日咳とは

原因

相談の目安

疫学的整理

海外動向

症状(潜伏期間・感染経路等)

重症化しやすい場合

感染予防対策

診断・検査の方法

診断・検査の流れ

診断・検査の難しさ

治療

 

百日咳とは

百日咳は、特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴とする急性気道感染症です。母親からの免疫(経胎盤移行抗体)が十分でなく、乳児期早期から罹患する可能性があり、1歳以下の乳児、特に生後6か月以下では死に至る危険性も高い疾患です。

元来乳幼児の疾患として知られていましたが、最近では思春期以降においても患者が増加していることが報告され、注目を集めています。思春期以降の百日咳は乳幼児の感染源となっている場合があり、ワクチン未接種の乳児が百日咳に感染すると無呼吸や肺炎などを合併し、重篤となる危険性が高いとされます。従って、思春期以降の百日咳を早期診断し、抗菌薬を早期に投与することが重要です。

 

原因

百日咳は、グラム陰性桿菌である百日咳菌Bordetella pertussisによって引き起こされる急性の気道感染症です。百日咳菌は、気道上皮細胞、主として線毛細胞に付着して百日咳毒素を産生し、その結果激しい咳を生じるとされています。

 

相談の目安

ワクチン未接種の乳児を百日咳の感染から守ることが重要です。乳児への感染源として両親、兄弟など家族内感染が多いことが報告されていますが、思春期や成人では軽い咳程度の症状のみで受診、診断に至らないことが多いと推察されます。知らないうちに感染源になってしまう可能性あがるので、早期診断が必要です。

 

疫学的整理 

わが国では、百日咳の感染症発生動向調査が開始された1982年以降、百日咳患者は当時の約10分の1に減っています。一方、患者の年齢構成は、2005年頃までは4歳以下が中心でしたが、2005年以降は5歳以上、特に15歳以上の割合が増加し2010年には48.2%と、患者の約半数が15歳以上となりました。2018年の報告では、乳幼児は1割程度で、5~15歳未満が約6割を占め、20歳以上の成人は25%であり、成人にとっても身近な疾患であることが示されました。

思春期以降の百日咳患者の増加で危惧されるのは、ワクチン未接種の乳児への感染源になり得るという点です。思春期以降の感染者では小児のような典型的な咳の症状は少なく、入院に至るようなことも少ないため、百日咳と診断されないままワクチン未接種の乳児に感染させてしまう可能性があります。

百日咳はこれまで、感染症法に基づいて5類感染症の小児科定点把握の対象疾患に定められ、全国約3000の指定された医療機関には届け出が義務付けられていました。しかし小児科定点にもかかわらず、近年の患者増加の特徴として小学校高学年以上の患者が多くなっており、2016年は小児科定点からの報告ではあるものの15歳以上の報告が全体の25%を占めました。つまり現実には成人の患者が相当いることが推測されたため、2018年1月よりすべての医師が届け出を行う全数把握の対象疾患に変更されました。

 

海外動向 

百日咳は世界的にみられる疾患で、いずれの年齢でもかかりますが、小児が中心です。また、重症化しやすく死亡者の大半を占めるのは1歳未満の乳児、特に生後6か月未満の乳児です。2008年の推計で、世界の百日咳患者数は年間1600万人で、その95%は発展途上国の小児であり、百日咳関連死は19.5万人にのぼるとされています。

米国の年齢群別百日咳関連死における3か月以下の乳児は、1980~1989年で63.6%(49/77)、1990~1999年で81.6%(84/103)、2000~2009年で90.2%(175/194)と報告されています。百日咳ワクチン接種は世界各国で実施されており、その普及とともに各国で百日咳の発生数は激減していますが、いまだに全世界で問題となっています。

 

症状(潜伏期間・感染経路等)

臨床経過は3期に分けられます。

  1. カタル期(約2週間持続)                                        通常7-10日間程度の潜伏期を経て、一般にくしゃみ、流涙、その他の鼻の感冒の兆候、食欲不振、元気のなさ、煩わしい夜間の乾性咳嗽などがみられます。発熱は稀で、嗄声がみられることがあります。
  2. 痙咳期                                                 10-14日後には痙咳期に移行し、咳嗽の重症度と頻度が悪化します。1回の呼気の間に立て続けに5回以上の咳嗽が連続して起こり、最後に深い吸気と共に笛声(息を吸うときに笛の音のようなヒューッという音が出る)が聴かれます。このような咳嗽発作が繰り返すことをレプリーゼと言います。発作中または発作後の嘔吐が特徴的です。発作は夜間に多く、年齢が小さいほど、症状は非定型的であり、乳児では吸気性笛声よりも息を止めているような無呼吸発作の方がよくみられ、チアノーゼ、けいれん、呼吸停止と進展することがあります。発熱はないか、あっても微熱程度です。息を止めて咳をするため、顔面浮腫、点状出血、眼球結膜出血、鼻出血などがみられることがあります。
  3. 回復期(通常は発症から4週間以内)                                   症状は軽快します。平均的な罹病期間は約7週間(範囲は3週間から3か月以上)です。発作性の咳嗽が数か月にわたり反復することがあります。                                       成人の百日咳では咳が長期にわたって持続しますが、典型的な発作性の咳嗽を呈することはなく、やがて回復します。成人では特徴的な症状を生じない例が多いため、受診や診断に至らず見逃されやすいことが指摘されています。しかしながら周囲への感染力が強いため、ワクチン未接種の新生児。乳児に対する感染源として注意が必要です。

 

重症化しやすい場合

百日咳は合併症として二次性の肺炎やけいれん、脳症などを合併することがあり、特にワクチン未接種の乳幼児が罹患すると重症化しやすいとされます。新生児やワクチン未接種の乳児が発症すると咳が明確でないまま重篤な無呼吸発作などを起こし、それに伴いチアノーゼやけいれんを認めることがあります。 

乳児の2/3は入院治療が必要で、特に生後2か月未満の患者致死率はおよそ1%とされます。呼吸管理のため入院となった例や死亡例も報告されています。

 

感染防止対策 

標準的な小児予防接種の一環として、百日咳に対する予防接種が世界的に行われています。わが国では従来の定期接種であった沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPT)に加え、2012年11月から不活化ポリオワクチン(IPV)を加えたDPT-IPV(四種混合ワクチン)が定期接種に導入されました。四種混合ワクチンのスケジュールは、定期接種として生後3か月以上90か月未満で4回接種します。


百日せきワクチンの免疫効果は4-12年で減弱するとされており、乳児期の百日咳ワクチン接種のみでは乳児期以降の小児、成人での免疫が低下するため、これらの年齢層がワクチン接種できない乳児への感染源となっています。乳児の感染は、ほとんどが近親者からの感染です。米国での報告によると、1歳未満乳児での百日咳患者の感染源を調査したところ、66%が家族からの感染で、35.5%が兄弟、20.6%が母親、10.0%が父親であったとされています。

 

診断・検査の方法

百日咳菌の検査として、培養検査、遺伝子検査、血清学的検査があります。 

1、培養検査

培養検査は百日咳の病原体診断検査として長く用いられています。検査材料として、鼻咽腔からの吸引もしくはスワブ検体が用いられます。 ただし綿には百日咳菌発育阻害物質が含まれており、綿棒での採取検体では培養検査陽性率が著しく低下します。鼻咽頭用捲綿糸であれば検体採取は可能ですが、早急に培地への接種が必要です。百日咳菌の分離培養には特殊培地が必要です。Bordet-Gengou血液観点培地やRegan-Lowe培地などが用いられます。菌培養が陽性であれば、診断は確定となりますが、感染時の保菌量が多いとされる乳幼児でも菌分離成功率は60%以下と低く、ワクチン既接種者や菌量の低い成人患者からの百日咳菌分離はほとんど期待できません。菌はカタル期後半に検出されることが多いですが、痙咳期に入ると検出されにくくなるため、実際には分離同定は困難なことが多くなっています。

2、遺伝子検査

遺伝子検査は百日咳の病原体診断検査で最も高感度な検査法であり、LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法、PCR(polymerase chain reaction)法があります。他の検査方法に比べて極めて迅速に検査結果が得られる利点があります。 

3、血清学的検査

血清診断では世界的に抗百日咳毒素抗体(抗PT IgG)が測定されます。わが国では2016年より百日咳菌に対するIgMおよびIgA抗体を測定する検査キットが承認されています

 

診断・検査の流れ

2016年11月に「小児呼吸器感染症ガイドライン」が改訂され、百日咳の診断基準が見直されました。従来の診断基準や検査方法では、抗菌薬治療が有効なカタル期(発症から2週間以内)に診断、治療に至ることが難しいという問題が指摘されていました。確定診断される前の段階であっても、感染者は百日咳菌を排出し、感染源になっていますが、適切な抗菌薬治療を早期に始めることで蔓延を防ぐことができます。

2016年のガイドライン改定では、百日咳の新しい検査法を活用することで、早期に診断できるように診断基準が見直されました。

最も大きく変化したのは、咳の期間の取り扱いです。世界的には「2週間以上の咳」が百日咳を疑う一つの基準といわれていますが、2週間またなくとも百日咳の感染を確かめられる検査法が登場したことを受け、重症化しやすい1歳未満では咳の期間を限定せず、成人を含む1歳以上では1週間以上咳が続いた場合、百日咳を疑うことと改定されました。

新しい基準では、咳があり(1歳以上は1週間以上)、かつ典型的な症状の「吸気性笛声」「発作性の連続性の咳込み」「咳込み後の嘔吐」「無呼吸発作」がいずれか一つ以上認められれば、臨床診断例となり、確定のための検査を行います。

また、今回の改訂では典型的な症状が確認できない場合でも臨床医が百日咳を疑えば、「検査での確定」として診断できるとされました。百日咳が疑われるような咳をしている人との接触があったという場合には、典型的な症状がなくても検査を実施することが可能です。

2016年、LAMP法を用いる遺伝子検査が登場したことによって、発症4週間以内であれば、百日咳菌の有無を確かめることが可能になりました。LAMP法では、柔らかい綿がついたスワブを後鼻腔まで挿入し、10秒間留置して採取した検体からLAMP法で百日咳ゲノムDNAを検出します。院内に検査機器がそろっていれば1時間程度で結果が得られます。

2016年に発売されたもうひとつの新しい検査法は、百日咳菌に対するIgM抗体とIgA抗体を測定する血清学的検査です。LAMP法が陰性だった場合、もしくは発症から4週間過ぎている場合にはIgMとIgA抗体検査が行われます。

これまでも百日咳菌が産生する毒素(PT)に対するIgG抗体(抗PT-IgG)が測定されてきましたが、抗体価上昇までに時間がかかり、正確な診断にはペア血清を用いた測定が必要でした。またワクチン接種によっても抗体価は上昇します。

臨床診断例の検査による確定フローチャートは以下のようになっています。


 

 

 百日咳 臨床診断例の検査での確定フローチャート

(出典:『小児呼吸器感染症ガイドライン2017』)

 

診断・検査の難しさ

 百日咳は、典型的な症状として1)発作性の咳込み、2)吸気時笛声、3)咳込み後の嘔吐嗚咽が挙げられますが、成人百日咳患者のうち、約3割が特徴的な症状を生じていなかったとの報告があり、成人では見逃されている例が多いと考えられます。

 

治療

百日咳の発症メカニズムは明らかにされていませんが、カタル期での抗菌薬投与で病期の短縮が期待されます。またカタル期を過ぎて痙咳期になると、抗菌薬投与は症状の改善には有効ではないとされています。しかしながら痙咳期であっても百日咳発症者に対する抗菌薬投与により周囲への感染性を減弱できるため、周囲への感染予防として、抗菌薬投与は推奨されます。

百日咳菌に対する治療として、生後6か月以上の患者にはエリスロマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬が用いられます。

参考文献

1)手塚宜行 他 侮れない百日咳にたちむかうために 小児感染免疫 Vol.28 No.4 325-333 2016

2)野上裕子 他 成人百日咳の特徴と予後 日呼吸誌 3(5), 2014 665-570

3)国立感染症研究所 感染症疫学センター 

「2018年第一週から第26週までにNESIDに報告された百日咳患者のまとめ」

4)国立感染症研究所ホームページ 百日咳

5)MSDマニュアルプロフェッショナル版 百日咳

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