軟骨無形成症|clila疾患情報

【目次】

1.軟骨無形成症とは
2.軟骨無形成症の原因
3.疫学
4.軟骨無形成症の症状
5.軟骨無形成症の診断方法
6.軟骨無形成症の治療
7.軟骨無形成症の経過

 

1.軟骨無形成症とは

 軟骨無形成症は四肢短縮型の著しい低身長を主症状とした先天的な骨系統疾患※1です。遺伝子の異常によって成長軟骨の成長に異常をきたすため、骨が成長せず低身長となります。また後述するような特徴的顔貌、身体所見を呈すことから診断は比較的容易とされます。また低身長以外にも脊椎の成長も障害されるため脊柱管狭窄による神経症状や、下肢アライメントの異常による変形性関節症を経年的に発症することがあるため、成長終了後も専門医によって経過を見てもらう必要があります。

※1 骨系統疾患とは、骨や軟骨などの骨格を形成する組織の障害により、骨格の異常をきたす疾患の総称です。骨系統疾患の数は非常に多く450以上が登録されています。

 

2.軟骨無形成症の原因

 本症は、遺伝子の異常による発症する疾患です。原因遺伝子は染色体領域4p16.3に存在するFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)であることが特定されています。FGFR3のシグナルは軟骨細胞の増殖に対し抑制的に作用しますが、本症の原因となる変異型FGFR3は受容体シグナルが恒常的に活性化される機能獲得型変異であり、軟骨細胞の分化が促進され内軟骨性骨化※2の異常を来し長管骨の成長障害、頭蓋底の低形成などを生じると考えられています。
遺伝様式は常染色体優性遺伝です。しかし、新規患者の約90%は遺伝子の突然変異によるとされ、健常な両親から生まれています。

※2 内軟骨性骨化とは、軟骨を経由して起こる骨形成の様式で脊椎、四肢の長管骨などはこの様式で骨化します。

 

3.疫学

 全世界で約25万人以上が罹患しているとされ、発症頻度は出生10,000~30,000に1人と報告されています。
日本国内での患者数は推定6000人ほどとされています。

 

4.軟骨無形成症の症状

・低身長(成人身長:男性130cm程度、女性124cm程度)

出生時から四肢短縮を認めますが、出生身長はそれほど小さくないとされます。成長に伴って低身長が目立つようになり、思春期の成長スパートがみられません。
乳児期に運動発達の遅延はあるものの知能の発達は正常であると言われています。

 

・特徴的顔貌

体に比べ大きな頭、前額部の突出、低い鼻根部といった顔面中央部の低形成がみられます。

 

・大後頭孔狭窄

頭・頸部移行部の大後頭孔の狭窄による脊髄圧迫によって頚部の屈曲制限、後弓反張、四肢麻痺、深部腱反射の亢進、下肢のクローヌス、中枢性無呼吸、水頭症、突然死などがみられます。これにより引き起こされる突然死が、本症の5-10%に見られると報告されています。
また、2歳までに6.7~13.3%の本症患者で、大後頭孔減圧術が必要であったと報告されています。
このため、乳児早期は頭・頸部領域を丁寧に扱うこと、早期に座位型の歩行器や抱っこ紐を使用しないことが望まれます。

 

・水頭症

頭蓋底形成不全のため脳脊髄液の灌流不全が生じることによります。
症状としては易刺激性、大泉門膨隆、頭痛、嘔吐、うっ血乳頭、外転神経麻痺、片麻痺、意識障害、血圧上昇、徐脈などがあります。特に1歳ごろまでは注意深い観察が推奨されます。

 

・無呼吸、呼吸障害、閉塞性睡眠時無呼吸

大後頭孔狭窄などによる中枢性のものと、鼻咽頭狭窄による閉塞性の要因から起こります。また胸郭の形成が高度な場合には、拘束性肺疾患、呼吸器感染症の反復などが問題となります。

 

・脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症は年長児や成人の本症患者でよく見られます。成長とともに狭窄が増強し、四肢の痛み、しびれ、筋力低下、間欠性跛行、膀胱直腸障害などを呈します。20歳までに6.5%の患者が、40歳までに17%の患者が脊柱管狭窄症の診断を受け、その内、約40%の患者が手術を受けていると報告されています。

 

・脊椎後弯

よくみられる合併症の一つで、後弯は小児期、思春期に進行し成人の15~30%に不可逆性の後弯変形が認められます。
早期の座位保持が椎体前縁の楔状変形、後弯、脊柱管狭窄症のリスク因子であると考えられています。独立して自ら座位が保持できるようになるまでは、無理に座位保持をさせないことが推奨されています。

 

・中耳炎、難聴

本症では中耳炎の合併を非常に多く認めます。本症の90%が2歳までに中耳炎を経験するといわれています。再発を繰り返す場合は難聴のリスクとなります。

 

・歯列不整

顔面中央部形成不全により歯列不整が生じ、治療が必要になることがあります。

 

・四肢の合併症

肘関節と股関節の伸展障害(しっかり伸ばせない)と膝関節と指関節の過伸展(反跳してしまう)がよく見られます。
また幼児期から学童期にかけて内反膝(O脚)が急速に進行し、成人の40%以上に認めます。膝関節痛、歩様異常の原因となります。

 

5.軟骨無形成症の診断方法

 本症は、特徴的な身体所見と骨レントゲン像から診断は容易であるとされるものの、約20%は出生時に診断されていないと報告されています。

<診断基準 > 難病情報センターより引用 

A.症状

  1. 近位肢節により強い四肢短縮型の著しい低身長(−3SD以下の低身長、指極/身長<0.96の四肢短縮)
  2. 特徴的な顔貌(頭蓋が相対的に大きい、前額部の突出、鼻根部の陥凹、顔面正中部の低形成、下顎が相対的に突出):頭囲>+1SD
  3. 三尖手(手指を広げた時に中指と環指の間が広がる指)

 

B.検査所見 単純 X 線検査

  1. 四肢(正面)管状骨は太く短い、長管骨の骨幹端は幅が広く不整で盃状変形(カッピング)、大腿骨頸部の短縮、大腿骨近位部の帯状透亮像、大腿 骨遠位骨端は特徴的な逆V字型、腓骨が脛骨より長い(腓骨長/脛骨長 >1.1、骨化が進行していないため乳幼児期には判定困難)
  2. 脊椎(正面、側面) 腰椎椎弓根間距離の狭小化(椎弓根間距離 L4/L1< 1.0)(乳児期には目立たない)、腰椎椎体後方の陥凹
  3. 骨盤(正面)坐骨切痕の狭小化、腸骨翼は低形成で方形あるいは円形、臼蓋は水平、小骨盤腔はシャンパングラス様
  4. 頭部(正面、側面)頭蓋底の短縮、顔面骨低形成
  5. 手(正面)三尖手、管状骨は太く短い

 

C.鑑別診断

以下の疾患を鑑別する。

骨系統疾患(軟骨低形成症、変容性骨異形成症、偽性軟骨無形成症など。臨床症状、X線所見で鑑別し、鑑別困難な場合、遺伝子診断を行う) 

 

D.遺伝学的検査

線維芽細胞増殖因子受容体3型(FGFR3)遺伝子のG380R変異を認める

 

<診断のカテゴリー> 
Definite:Aのうち3項目+Bのうち5項目全てを満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの
または、Probable、PossibleのうちDを満たしたもの
Probable:Aのうち2項目以上+、Bのうち3項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの
Possible:Aのうち2項目以上+、Bのうち2項目以上を満たしCの鑑別すべき疾患を除外したもの

 

6.軟骨無形成症の治療

 根本的な治療はなく、それぞれの症状に対する対症療法を行うことになります。

1. 成長ホルモン(GH)治療

低身長に対するGH治療の適応は、以下の①〜⑤を全て満たす必要があります。
①男子、女子とも3歳程度以上(立位の身長測定が可能のこと)
②骨年齢:男子17歳未満、女子15歳未満
③現在の身長が同性、同年齢の標準値-3SD以下
④本症の身体的特徴
⑤合併症:手術的治療を考慮する程の大孔狭窄、脊柱管狭窄、水頭症、脊髄・馬尾圧迫等が MRI ・CT上認められないこと。また、これらのための圧迫による臨床上問題となる神経症状が認められないこと

 一般的に、GHは治療開始の1、2年は身長がよく伸びるといわれています。しかし徐々に身長の伸びは減少していきます。また年齢が小さい時に治療を開始する方が、身長のよく伸びる期間が長くなる傾向にあるといわれています。

 GHは皮下注射での投与になります。注射の取り扱いの方法を主治医に習い、家庭内で投与することができます。健常児における成長ホルモンの分泌は一般的に、睡眠のはじめのころに大量に分泌されます。したがって生理的な分泌の状態に近づけるために、皮下注射は寝る前に行います。

 

2. 四肢延長手術

 これは身長や上肢を長くするための手術です。必須の治療ではないこと及び、手術による身体・精神的な負担、合併症もあるため、適応に関しては主治医とよく相談することが大切です。
身長が著しく低いことで、例えば、黒板に字が書けない、棚の上のものを自力で取れない、公共の場での手洗いが難しい、上肢が短いためにお尻を拭けない、精神的な負担になっているなど、個人差はありますが学校や日常生活に支障が生じることが予想されるような場合に手術が考慮されます。

 創外固定器を用いた延長術が一般的です。この方法は長期間にわたり固定器具が皮膚外に留置されるため、その管理や感染の問題があるため、近年プレートによる内固定を併用した延長術が普及してきています。これにより、創外固定器の留置期間の短縮が可能になってきています。

 本症に対する下肢延長術についてのある報告では、手術平均年齢は14.5歳、平均獲得身長は9.5cm、healing index(骨を1cm伸ばすのにかかる日数)は30.8 日/cmであったという結果があります。

 

3. 脊椎除圧術

 これは本症に合併しやすい脊柱管狭窄症に対する手術です。本症の患者ではもともとの脊柱管(脊髄神経の通り道)が狭い上に、経年的に靭帯の肥厚や椎間板の突出、椎体の不安定性によりさらに脊柱管が狭くなり脊髄神経を圧迫を来します。症状は、下肢の痛み・しびれ・筋力低下、間欠性跛行、直腸膀胱障害などがあります。手術により脊柱管を拡大し、神経の圧迫を解除します。本手術はさらなる脊髄神経の圧迫を予防することができますが、既存の神経症状を完全に回復させることは難しい場合があります。
 

4.大後頭孔減圧術、シャント手術

 大後頭孔狭窄による神経症状に対する手術です。また水頭症による頭蓋内圧亢進、脳室拡大に対してはシャント手術を行います。大後頭孔狭窄の症状としては、睡眠時無呼吸、呼吸障害、脊髄症、水頭症、突然死などがあります。
神経学的症状や神経学的異常所見、中枢性呼吸障害を伴う場合の大後頭孔減圧術は、多くの症例で症状の改善を認めています。しかし、治療介入が遅すぎると神経の回復が見込めず治療効果が乏しいため、手術適応のある患者を見逃さないために、神経症状、 神経学的所見や呼吸状態を定期的に評価することが大切です。

 

7.軟骨無形成症の経過

 本症では、ほとんどの患者が知能発達の面では正常であり、平均余命も正常であるとされています。しかし、積極的な医学的評価(大後頭孔狭窄や水頭症を見逃さないためのCT、MRI検査など)を行わない場合は乳幼児期に約2~5%の突然死が生じています。突然死の原因はおもに無呼吸であると考えられています。

 また、脊柱管狭窄による両下肢の麻痺、下肢アライメント異常による下肢変形が経年的に増加し日常生活に支障を生じることがあります。『厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)軟骨無形成症の病態解明と治療法の開発』の報告によると、歩行障害が6歳で2%、12歳で5%、20歳から60歳までの成人で17%と明らかに増加しており成長終了後早期からの下肢・脊椎病変による歩行障害が発生する頻度が高いと考えられます。その他、中耳炎や睡眠時無呼吸の発生に注意が必要です。

 

上野 ゆかり 整形外科医  2003年国立大学医学部卒業。整形外科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み、小児から高齢者まで幅広い年齢層に対応。家族の仕事により移住したフィリピンにて、邦人に対する医療アドバイス、健康診断フォローアップ事業を開始。現在はドイツ(フランクフルト )にて医療・健康アドバイザーとして活動する傍ら、医療相談、オンライン診療などで臨床活動を継続中。

 

<リファレンス>

難病情報センター 軟骨無形成症(指定難病276)

https://www.nanbyou.or.jp/entry/4571

 

小児慢性特定疾病情報センター 軟骨無形成症

https://www.shouman.jp/disease/details/15_02_002/

 

軟骨無形成症診療ガイドライン

http://jspe.umin.jp/medical/files/guide2_20190111.pdf

 

Gene Reviews Japan 軟骨無形成症

http://grj.umin.jp/grj/achondroplasia.htm

 

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