急性虫垂炎|疾患情報【おうち病院】

記事要約

急性虫垂炎とは右下腹部にある虫垂が、糞石等により炎症を伴うと虫垂炎を発症します。「盲腸(もうちょう)」と呼ばれることが多いですが正式な病名は急性虫垂炎です。急性虫垂炎の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

急性虫垂炎とは

虫垂は右下腹部にある臓器であり、糞石等により炎症を伴うと虫垂炎を発症します。「盲腸(もうちょう)」と呼ばれることが多いですが正式な病名は急性虫垂炎です。60歳以下の急性腹症の25%は急性虫垂炎であり頻度の高い病気です。急性虫垂炎は10代~20代におこることが多い疾患ですが高齢になって発症することも珍しくありません。日本人の15人に1人は発症するといわれており、年齢層にもよりますが男女比ではやや男性に多く3:2の割合です。穿孔率(虫垂が破れる確率)は17~40%で、穿孔を起こした虫垂炎では死亡率7%、合併症発生率10~40%と報告されています。

急性虫垂炎の原因

急性虫垂炎のはっきりとした原因はわかっていません。虫垂のねじれ、糞石(便のかたまり)や腫瘍などの異物や粘液が虫垂内部につまるなどの理由で、虫垂の内側の空間が狭くなったり無くなってしまったりしたことで血行が悪くなり、そこに腸内細菌や大腸菌など細菌が繁殖し感染が発生することで炎症を起こすのではないかと考えられています。虫垂が腫れ、膿で満たされ、直ちに治療しないと虫垂が破裂する可能性があります。そうした状況を引き起こす要因として、暴飲暴食、便秘、不規則な生活、過労、胃腸炎などが挙げられます。

急性虫垂炎の症状

急性虫垂炎の症状は時間の経過と共に変化することが特徴です。最初にみぞおちあたりに感じる痛み(心窩部痛)と食欲不振や悪心・嘔吐が出現し、数時間程度で少しずつ右下腹部に移動していき、痛みも増強します。病気が進行するにつれて37-39℃の微熱・発熱を伴うことがあります。また、咳や歩行、その他の不快な動きをしたりすると身体に振動が加わり痛みは悪化します。痛みの部位は年齢や虫垂の位置によって異なり、妊娠中は子宮により押し上げられるため虫垂の位置が高くなり上腹部から痛みが出ているように感じることがあります。

急性虫垂炎の診断

まずは痛みの有無や場所、痛みの程度と経過を問診します。それと同時に腹部の診察をします。急性虫垂炎には特徴的なサインが複数あり触診によりそれらの有無を確認します。

  • McBurney点、Lanz点:右下腹部にある急性虫垂炎の際に押すと痛みを感じる圧痛点です。
  • 反跳痛(Blumberg徴候):圧痛のある部位をできるだけ深く圧迫し、急に手を離すと鋭い痛みを感じます。
  • Rovsing徴候:左下腹部の下行結腸を下方より上方へ押し上げるように圧迫すると回盲部が痛む徴候です。
  • Rosenstein徴候:左側を下に寝た状態ででMcBurney点を圧迫すると仰向けの時よりも痛みが増強する徴候です。
  • 腸腰筋徴候:左側臥位で右下肢を伸展させたまま股関節を過伸展させた時、右下腹部に痛みが誘発される徴候です。

検査としてはまず血液検査で炎症の程度等を確認します。炎症を表す項目として白血球数やCRPの上昇を認めます。腹部超音波検査では径6 mm 以上の虫垂の腫大と壁の肥厚、糞石の有無等が確認出来ます。腹部CT検査でも腫大した虫垂が描出されます。さらに糞石や腹水の有無、周囲への炎症の波及や膿瘍も確認できることから診断価値が高い検査です。その他の疾患を除外することもでき、可能であれば造影CT を撮影するのが望ましいです。

また、以下のような MANTRELS scoreと呼ばれるスコアリングも診断の補助になります。 

MANTRELS score

Migration to the right lower quadrant(右下腹部への痛みの移動):1点

Anorexia(食思不振):1点

Nausea and vomiting(悪心・嘔吐):1点

Tenderness in the right lower quadrant(右下腹部痛):2点

Rebound pain(反跳痛):1点

Elevation of tempreture>37.3℃(37.3℃以上の発熱):1点

Leukocytosis(10000/μL以上の白血球数上昇):2点

Shift to the left(好中球分画70%以上の左方移動):1点【番号なしリスト】

8項目、合計10点のうち7点以上であれば可能性は高いとされ一方で3点以上では可能性が低くなります。 

急性虫垂炎の治療

従来、最も頻度の高い緊急手術の対象であった急性虫垂炎ですが、近年、抗菌薬による保存的治療や一旦、保存的治療により加療し落ち着いた時点で待機的に手術を行うという選択肢も出てきています。炎症の進行の程度や再発の危険性などを踏まえて治療法を選択します。

抗菌剤による保存的治療は圧痛があっても腹膜炎の所見が見られない場合や白血球がそれ程高くない場合に適応となります。但し、女性の場合、妊娠可能年齢での度重なる保存的治療は卵管周囲の炎症波及による影響で子宮外妊娠の原因ともなるためめ、学童期以降の場合は虫垂切除術が良いとされています。手術(虫垂切除術)は診断後すぐに手術をする場合と、抗菌薬を使って症状が落ち着いた段階で手術をする場合があります。敗血症を来たしている場合や膿瘍を形成している場合、虫垂が炎症により穴が開き周囲の腹膜炎を来たした場合などは緊急手術の適応で腹腔鏡下もしくは開腹下に行います。 

<リファレンス>

最新ガイドライン準拠消化器疾患診断・治療指針 中山書店2018

急性腹症診療ガイドライン2015 医学書院

エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017

Laparoscopicinterval appendectomy適応のためのスコアリングシステムの構築 手術導入と治療成績からみた検討 日腹部救急医会誌 2016;36:1013 ─ 1019.

急性虫垂炎に対する保存的治療後の再発はなぜおこるか。病理および超音波所見の検討から 

日本小児外科学会誌 2013;49:214-219
Amoxicillin plus clavulanic acid versus appendicectomy for treatment of acute uncomplicated appendicitis :Lancet 2011 ; 377 : 1573-1579

虫垂炎の超音波所見と組織学的所見の比較検討 日消外会誌1999;32:825-859

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