「人生の幕をどのように閉じるか」それは "終わり方" ではなく自分自身の "価値観" 【医師にインタビュー】

【目次】
ACPとは?
歴史や普及率はどのくらい?
どんなタイミングで始めるべき?
どんな風に進めていくのだろう?
日本と海外の違いはある?
「もしばなゲーム」とは?
まとめ

 

自分の人生の幕をどのように閉じたいか・・・・とても大切なことでありながら、そこにはなかなか踏み込めず「タブー視」してしまう。私たちの周りにはそんな空気があると感じている方も多いのではないでしょうか?ですが、もしもの時に、人生の最終段階にどのような医療や生き方を望んでいるかを伝えられない人は、70%を超えると言われています。タブー視するのではなく、自身の価値観にあったフィナーレを送れるよう考えてみる機会をもつことも大切なことです。そこで今日は、実際に医療現場でACPを行っている医師にお話しをお伺いしました。

取材させて頂きましたのは西田先生です。

西田 友理子 内科医。初期研修終了後、腎臓内科医として総合病院に勤務、高齢者医療や地域医療に従事する中で、患者様ご家族様が自分らしく生きるために医療ができることを模索している。

 

ACPとは?

ACPとは、Advance Care Planningの略で、もしもの時のために、自分が大切にしていることや望む医療.治療.ケアについて、事前に考え・話し合いを繰り返し、共有しておくプロセスをいいます。よく終末期に行うものと考えられがちですが、それだけとは限りません。終末期とは「治療による回復が見込めず、余命が幾ばくも無いと判断された状態」を指しますが、ACPはそのような終末期だけでなく、元気で健康に不安のない時から様々なきっかけで始めてもよい、自分にとって〝大切にしたいこと“を知る機会になり得ます。

 

歴史や普及率はどのくらい?​​

そんなACP。実は歴史は古く、1990年代の米国で誕生しました。以前の日本は、ガンなどに罹った際、本人には告知はせず、「治るから頑張って治療しよう!」等励ましていくことが一般的でした。また、認知機能の低下などにより、自分の望みや意思表示ができないこともありました。このような状況では、本人の意思や望む治療ができないということから、医療従事者が本人の希望を聞き取り、文書にして残しておく動きが始まりましたが、それでは今度は、ご家族の反対等があり満足度は上がりませんでした。そこで誕生したのが『一人で決めるのではなく、医療従事者や家族も含め、みんなで価値観や大切にしていきたいこと、経緯までも共有していこう』というプロセスのACPです。1990年から2000年にかけて、延命治療についての議論が進み、2014年には厚労省から「人生の最終段階における医療ケア」として整備が始まり、2018年には重要項目として、【繰り返し話し合うこと】【本人の意思を推定しうる者との話し合い】が追加されました。このように歴史は古く、国を挙げて重要項目を追記しているにも関わらず、実は医師の間でもそれほど認知されていないのが現状です。2018年の調査では、なんと「よく知っている」と答えた医師は2割程度で、「知らない」と答えた医師は、2倍の4割にも上りました。医師でも浸透していないため、一般の方々の7割が「知らない」と答えたのも当然かもしれません。

 

どんなタイミングで始めるべき?

ACPというものを知った方でも、終末期が訪れた際に行うものだろうと思っている方も多いです。ただ、急に死の話が投げかけられると、突然のことに不安や恐怖を強く感じ、〝大切にしたいこと“を考える余裕がなくなってしまうことがあります。だからこそ、身体も思考も自由な、健康な時から取り掛かり、人生の段階の中で何度も見直しをしていくことをお奨めしています。 タイミングとしては、例えば下記が考えられます。

 ・医療制度や選挙権等に興味を持ち始めた学生

 ・就職や結婚.出産などの人生の節目

 ・生命保険の加入(受取人)を考えだした時

 ・親御さんの介護を視野にいれた時

 ・資産形成や遺産を考えだした時

 ・高齢者と言われるようになり、健康について深く考えだした時

等々、どんなタイミングで開始しても、その時その時の自分の人生や価値観を見つめ直せる機会になるのではないでしょうか?また参考までに実際ACPに取り組んだ方や、医師自身の上記以外のタイミングをご紹介したいと思います。

 ・お子さんが出来たタイミング

 ・年齢を重ね、子供に迷惑を掛けたくないなと思い浮かんだ時

 ・最近では コロナで人工呼吸をつけた経験から考え始めた 等々

“人生の節目“は人それぞれです。始めるタイミングに正解も不正解もありません。いつ始めてもいいですし、考えることを負担に感じる場合は、無理に行わず、その気持ちそのものを大切にしてください。その時その時に合わせ、繰り返し考え、話し合っていく、それがACPです。

 

どんな風に進めていくのだろう?

では次は、「この節目に話し合っておこう」と思った際、実際にどのように進めていくかお話ししましょう。
始め方は、幾通りもありますので、代表的な例をご紹介します。

① 場を設定する
誰と始めるかという部分です。ここは自分自身や家族だけでなく、医療メンバーも揃っていることが重要です。ご自身・家族・医師・看護師・ケアマネージャー・ソーシャルワーカーなど、肉親や医療にかかわる方々を含め、話し合う場を作っていきます。
この場を設定する場合、どこに相談したらいいかと悩まれると思います。その場合は、病院や地域自治体などに問い合わせてみてください。病院の場合は「緩和ケア」の部署に、自治体の場合は、在宅診療をしている医療機関につないで頂くといいでしょう。

② 考える
自分が大事にしたいこと・人生の目標・価値観、治療のイメージなど、その時の自分が大切にしていることを考えます。

③ 共有する
自分の意思が伝えられなくなった時に、その意思を伝え実施してくれる人達へ②で考えた内容を話し合い、記録し共有していきます。

④ 繰り返す
ACPは一度共有されたらそれで終わりではありません。この内容でいいのかを考え、再度共有していくというプロセスを繰り返していきます。その時に必要になってくること・大切にしたいこと等、時を経て変わってくることも多々あります。そのため、この「繰り返す」という過程がとても大事になってきます。

 

日本と海外の違いはある?

価値観や自分の人生を見つめ直す機会であるACPですが、「死」について向き合い、「死後の世界」を意識することに変わりはありません。それは宗教観なども大きく影響してきます。海外ではキリスト教や仏教、イスラム教などそれぞれが特定の宗教を信仰していて、各々「死後の世界」へのイメージがはっきりしている方が多いです。それだけに比較的スムーズに「死を含めたPlanning」という意味のACPを受け入れやすい傾向にあるようです。一方日本は、無宗教の方が多かったり、“縁起でもない“と言って、「死」について話すことをタブー視したり、言霊を意識して「死」を口にしない傾向が強いです。そのため、死について考えたことがない人がほとんどだと言われています。ですが、だからこそ『こうでなければならない』という固定概念がなく、特定宗教や文化にとらわれず、自身が一番しっくりくるイメージをもって取り組むことが出来るという点では、自由な発想で取り入れられるともいえます。自分らしいこと、それが価値観を考える1歩としてもらいたいと思っています。

 

「もしばなゲーム」とは?

ACPについて語る際、よく出てくる「もしばなゲーム」。自分が大切にしていることや望む医療.治療.ケアについて考えるのに、なぜゲーム?と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。この「もしばなゲーム」は、アメリカの終末期医療におけるコミュニケーションツールとして作られた GoWishGameの日本語版です。内容は、「自分の余命が半年~1年だったら」という設定で、そうなった時に自分は、≪どんなケアを望むか»≪誰に寄り添われたいか≫を考え、周囲に共有していくというカードゲームです。ACPを始めてみようと思っても、人は〝まだない状況“について話していくのは難しいと言われています。そこをゲームというツールの中で、「生命の危機が迫っている時」「治療困難な病気へ直面した時」というシチュエーションを作り、考えていくきっかけ作り・練習をしていくというわけです。ここではやり方について、簡単にご案内していきます。

35枚のカードを5枚ずつ配り、残りのカードは中央に積み、そのうち5枚は表に向けておきます。

カードには、例えば「痛みがない」「家族と一緒に過ごす」「誰かの役に立つ」等々、設定シチュエーションになった時に大切にしたいことの例が書いてあります。最初に配られたカードと、積み札の周りの5枚を見比べ、より大切にしたいことが書かれているカードが手元に残るように交換してくという流れです。

最期に、手元に残ったカードが自分にとってどんな点で大切か、選択した理由を共有していきます。最後に感想や、ゲームを通じて気付いたことなどをシェアしあって終了となります。時間はおよそ30分程度です。ゲームは「死について深く考える」ということよりも、他の人の考えを聴き、自分は他の人とこんなところが違うのだという気づきを与え、きっかけ作りの意味が大きいものだと考えられています。心身ともに元気なうちに、自身の価値観を知り、他の人との違いを知ることで、自分の考えや選択肢の幅を広げていくために活用していくためのツールとして役立つものとなっています。

 

まとめ

さて、ここまでACPについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?『死と直接向き合う少し怖いもの』『縁起でもない話』という印象から、『自分の価値観を改めて見直すものなのだ』と思って頂けたでしょうか?人生の中で自分の価値感を見つめ直す経験は、就職時の履歴書作成や、出産時のバースプランなどご経験の方も多いと思います。ACPも、その時の自分の状態にあった〝大切にしたいこと“を改めて知っておく機会として、履歴書やバースプランのように考えることもできますね。
ACPはあくまでヒントであり、やらなければいけないものではありません。だからこそ、自分の気持ちを大切にして、自分の想いに寄り添い、人生をより自分らしく送るため、どんな年代の方にもお勧めしています。
夫婦でドライブをしながら、食後のコーヒーを飲みながら話してみる。そんなところから始めてみるのもいいかもしれません。

 

<リファレンス>

厚生労働省
「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000197665.html

 

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