アラジール症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

アラジール症候群とは、乳児期または小児期の早期に見つかる遺伝性の疾患です。アラジール症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

アラジール症候群とは

アラジール症候群は遺伝性の疾患で通常、乳児期または小児期の早期に見つかります。小葉間胆管の減少による慢性胆汁うっ滞に加え、特徴的な肝外症状を伴います。主な症状は、肝臓、顔貌、心血管、眼球、椎体に異常をきたしますが必ずしも全ての症状が出現するわけではなく、症状の種類や経過は患者により異なります。その中でこれら5つ全てに異常が見られる場合を完全型アラジール症候群、肝臓を含めた3つの症状を認める場合を不完全型アラジール症候群といいます。近年は、これらの症状を全ては満たさなくても、特有の遺伝子異常を伴う場合も本症として報告されています。重症度は様々で、症状に気づかない軽症から重症の場合は肝臓移植や腎臓移植、心臓手術を受ける必要がある場合もあります。

本症は国の指定難病対象疾患および、小児慢性特定疾患の対象となっています。

アラジール症候群の原因

原因遺伝子としてJAG1が1997年に、Notch2が2006年に、それぞれ発見され、現在ではJAG1の異常による本症をアラジール症候群1型(AGS1)、Notch2によるアラジール症候群2型(AGS2)と区別されています。診断された本症のうち94%がAGS1によるとする報告があります。いずれの遺伝子も発生段階における細胞間相互作用を介して多種類の細胞の分化を生業する遺伝子であるため、多臓器の異常が特徴的な所見となると考えられています。しかし、詳細は未だ解明されてません。本症は基本的には常染色体優性遺伝形式で遺伝するとされており、両親のいずれかが原因遺伝子を持っていた場合、子供がその遺伝子を受け継ぐ確率は50%です。ただし、遺伝子を受け継いだ場合でも必ず発症するわけではなく、無症状の保因者となることもあります。

アラジール症候群の相談目安

本症は胆汁の流れが悪くなることにより発生する黄疸により乳児期に見つかるケースが多いとされています。また、心臓の異常による心雑音や腎臓病、脳血管の病気で発覚するケースもあります。幅広い前額、彫りの深い眼と中等度の眼間開離、尖った顎、幅広い鼻梁、といった特徴的な顔立ちは幼児期に入ってから目立ちはじめます。その他、発達の遅延や成長障害、性機能不全、消化管異常が見られます。出生後や検診などでこれらの症状が指摘された場合は本症の可能性を考慮し医師に相談しましょう。

アラジール症候群の疫学的整理

本症は3〜7万人に一人発症すると推定されており日本の全国調査では、患者数は200~300人程度と推測されています。地域差や男女差はありません。

日本肝移植研究会の登録では、本症の肝移植数は平成20年度までで、59名でした。欧米の報告では、本症の約1/3の方で肝移植が必要になるとされています。

アラジール症候群の症状

乳児期から始まる黄疸が主な症状であり、胆道閉鎖症や新生児肝炎と鑑別する必要があります。非典型例では、黄疸がなく、先天性心疾患や腎障害が先に見られることがあり、特に、本症2型では重症の腎障害が特徴的とされます。心血管系の異常としては末梢性肺動脈狭窄が、椎体異常では前方弓癒合不全が、眼球では後部胎生環が特徴的な異常です。さらに、発育・発達障害、性腺機能不全、消化管の異常などを伴う場合があります。その他、胆汁うっ滞に伴う痒みやビタミン吸収の障害による出血や骨折などがあります。

黄疸は1歳頃に軽快することもありますが、黄疸を伴う本症患者の約3分の1が幼児期以降に胆汁うっ滞性肝硬変に進行します。近年、このような場合も肝移植によって長期生存が可能になってきました。一方、肝移植後も成長障害や頭蓋内出血を来す可能性が報告されています。特に、肝移植が可能になってからは、胆汁うっ滞性肝硬変よりも血管奇形による頭蓋内出血が重要な合併症になっています。

アラジール症候群が重症化しやすい場合

2016年に発表された本症の144人を対象とした後ろ向き研究では、生後12か月から24か月の間で3.8 mg / dLを超える血清総ビリルビンが長期的な肝転帰の悪化を予測できる指標であるという報告があります。

アラジール症候群の診断方法

黄疸や心臓奇形、骨格の奇形といった臨床所見があり本症を疑う場合肝生検を行い、小葉間胆管が減少していることを確認したり、遺伝子診断を参考に総合的に診断を行います。

肝病理所見による小葉間胆管の減少が確認でき、かつ

  1. 胆汁うっ滞
  2. 心臓血管奇形
  3. 骨格の奇形
  4. 眼球の異常
  5. 特徴的な顔貌

これら5つの項目から3項目以上を満たすものを本症の典型例と診断します。

​​上記5つの症状・所見のうちの1つに当てはまる、または腎臓、脳血管、膵臓などにアラジール症候群に特徴的な症状がみられる場合で、血のつながった家系内にアラジール症候群と診断された人がおり、常染色体優性(顕性)遺伝形式に矛盾しない遺伝の仕方をしている、または遺伝子を検査してJAG1遺伝子もしくはNOTCH2遺伝子に変異があるとわかった場合、アラジール症候群の非典型例、もしくは原因遺伝子の変異を持っているけれども軽症や無症状である(変異アリルを有するが症状の乏しい不完全浸透例)と診断されます。

アラジール症候群の診断の難しさ

臨床経過から本症を強く疑う場合は生後6ヶ月以降に肝生検を行いますが、経皮的肝生検では判定が困難である場合があり、多数の検体を採取したり開放性肝生検を行うこともあります。また、本症は症例ごとに症状や重症度が大きく異なることが特徴であり非典型例では遺伝子診断が役立ちます。

アラジール症候群の治療

現在、本症の根本的な治療はなくそれぞれの症状に合わせた治療が、長期的に行われていきます。胆汁うっ滞がある場合、脂溶性ビタミン、特にビタミンKを内服します。胆汁の流れを促す利胆剤や、胆汁うっ滞によるかゆみを軽減する陰イオン交換樹脂も内服します。また、中鎖脂肪酸(MCT)の補充など栄養療法を長期に継続します。

胆汁うっ滞が続いて肝硬変になってしまった場合や、痒みなどにより著しくQOLが損なわれる場合には肝移植が行われることがあります。1歳を過ぎても高度な黄疸や高度のコレステロール血症が持続する症例で肝移植の適応となりやすいとされています。そのほか、胆汁のスムーズな流れを促す部分胆汁瘻という外科手術も試みられ、良好な成績が報告されてきています。心臓病の経過も人によりさまざまですが、重症の場合、本人の状態により適切なタイミングでカテーテル治療や外科手術が行われます。重症の腎臓病に対しては、透析や腎移植などが必要になる可能性があります。

アラジール症候群の予後

症例ごとに罹患臓器の病変や重症度が大きく異なり、それぞれ予後も異なります。日本の全国調査では24%の症例で肝移植、4%の症例で開心術、9%の症例で心臓カテーテル治療が実施されています。また、成長障害が49%、発達遅延が26%に認められ、長期にわたる包括的な診療を求められる例が多いと考えられます。さらに、状態が落ち着いていてもまれに肝細胞癌や脳や腎の血管病変を認めることがあり、成人期に移行しても長期的な経過の中で定期的な受診が必要です。

<リファレンス>

Genetic and Rare disease information center
Nancy B Spinner, PhD, Melissa A Gilbert, PhD, Kathleen M Loomes, MD,Alagille Syndrome,GeneReviews
Marialena Mouzaki 1, Lee M Bass 2, Ronald J Sokol 3,Liver Int 2016 May;36(5):755-60Early life predictive markers of liver disease outcome in an International, Multicentre Cohort of children with Alagille syndrome PMCID: PMC5401769
難病情報センター 奇形症候群|アラジール(Alagille)症候群(平成23年度)
乳児黄疸ネット
遺伝性疾患プラス アラジール症候群

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