慢性膵炎|疾患情報【おうち病院】

記事要約

慢性膵炎は、膵臓に繰り返し炎症が起こり、萎縮し硬くなってしまう病気です。基本的に完治することがないため、病気を悪化させる要因をできるだけ少なくし、進行しないようにすることが大切です。慢性膵炎の症状・治療などについて、医師監修の基解説します。

慢性膵炎とは

膵臓は10-15cm程度の横長の臓器で胃の後ろ側に横たわっており、食物の消化に必要な消化酵素を含んだ膵液を分泌したり、血糖値のtax herコントロールを行うインスリンなどのホルモンを分泌する臓器です。

慢性膵炎は、膵臓に繰り返し炎症が起こり、膵臓が萎縮し硬くなってしまう病気です。

一般的には40~50歳代で発症することが多く、2011年の1年間に慢性膵炎の治療を受けた患者数は人口10万人あたり52.4人(全国で約6万7千人)いたと報告されており、1999年から12年間で1.5倍以上に増加しています。

膵臓の細胞が線維組織に置き換わり、徐々に進行し、基本的には完治することはありません。

そのため、慢性膵炎を悪化させる要因をできるだけ少なくし、病気が進行しないようにすることが大切です。

慢性膵炎の原因

慢性膵炎の主な原因として、飲酒、急性膵炎、胆石、原因不明(特発性)が挙げられ、男性では飲酒が約80%、女性では特発性が約50%を占めます。

飲酒によって誰もが慢性膵炎になる訳ではなく、一日の飲酒量が純エタノールで換算すると80g以上(日本酒で4合、ビールで中瓶4本)を摂取する多飲者は特に注意が必要とされています。

10年以上、毎日飲み続けると明らかに慢性膵炎の原因となります。また、アルコール性慢性膵炎患者の80%は喫煙歴を伴うという報告もあります。

その他、膵臓損傷、高脂血症、膵・胆管奇型、副甲状腺機能亢進症、遺伝性・家族性による慢性膵炎もあります。

慢性膵炎の診断

慢性膵炎はある程度病気が進行するとその機能が失われてしまうため、進行する前の早い段階(早期慢性膵炎)で診断・治療を開始することが望まれます。

検査は血液検査、腹部超音波検査(エコー)、腹部CT・MRI検査、超音波内視鏡検査(EUS)などがあります。

超音波内視鏡検査(EUS)は、上部内視鏡(胃カメラ)の先端に超音波の装置がついたもので、胃や十二指腸の中から膵臓を観察するすることが可能であり、通常の超音波検査と比較し膵臓内が鮮明に描出されるため、最近は早期慢性膵炎の診断に有用とされています。

血液検査ではアミラーゼ、リパーゼ、トリプシンなど膵酵素の測定や糖尿病の有無、栄養状態を確認します。また腹部エコー、CT・MRIなどで膵石の有無や膵臓の萎縮・脂肪化、主膵管の拡張の有無、膵管の狭窄の程度を評価します。

慢性膵炎の診断は日本膵臓学会が定めた慢性膵炎臨床診断基準2019に基づき行います。

慢性膵炎臨床診断基準 2019

≪慢性膵炎の診断項目≫

  1. 特徴的な画像所見
  2. 特徴的な組織所見
  3. 反復する上腹部痛または背部痛
  4. 血中または尿中膵酵素値の異常
  5. 膵外分泌障害
  6. 1 日 60 g 以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴または膵炎関連遺伝子異常
  7. 急性膵炎の既往

慢性膵炎確診: 
a.1または2の確診所見
b.1または2の準確診所見と,345のうち 2 項目以上

慢性膵炎準確診:1または2の準確診所見が認められる

早期慢性膵炎:3~7のいずれか 3 項目以上+早期慢性膵炎の画像所見が認められる

慢性膵炎の症状

病気の進行過程により「代償期」、「移行期」、「非代償期」の3つに分けられ、膵臓の機能がまだ比較的保たれている時期(代償期)は、炎症による症状を起こします。

炎症による症状で最もみられるものは繰り返す心窩部痛、背部痛で、心窩部痛は食後数時間して出現し、前かがみになると軽快するという特徴があります。

腹痛は約80%の患者さんで認められます。また、飲酒後や脂肪分の多い食事を摂取した後に悪化することも特徴的です。

慢性膵炎の初期には急性膵炎の様な激しい腹痛を数か月ごとに繰り返すことが多いですが、通常は7-8年程経過すると腹痛は徐々に軽快します。これは膵臓の機能が失われ炎症が軽減することによるものです。

膵臓には消化の働きをもつ膵酵素を分泌する外分泌機能と、血糖値をコントロールするインスリンを作る内分泌機能の2つの働きがあります。慢性膵炎が進行すると、これら機能が徐々に低下していきます(移行期)。

さらに進行すると、膵臓の組織が線維に置き換わり、膵臓の機能が著しく低下し機能障害により症状として現れるようになります(非代償期)。

膵外分泌の機能障害が起こると、消化不良に伴う慢性下痢、脂肪便、体重減少などを伴うようになります。

便は薄黄色クリーム状で水に浮き、これを脂肪便と呼びます。また膵内分泌の機能障害が起こると糖尿病が悪化し、それに伴い口渇や多尿などの症状が出現します。

慢性膵炎が進行すると消化と血糖値の調節が不十分となり栄養障害を引き起こします。

慢性膵炎の治療

慢性膵炎の治療はそれぞれの時期の症状や膵臓の機能がどれだけ保たれているかに応じて行います。

代償期に多い痛みに対しては鎮痛薬を用いながら、痛みの原因となる炎症を抑える蛋白分解酵素阻害薬の内服を行います。

飲酒は腹痛の悪化原因になるため断酒も有効であり、予後の改善のためにも推奨されます。

また高脂肪食を摂取した後に腹痛を認める場合、脂肪制限食を行うことがあります。

また繰り返す炎症よる膵管の狭窄や膵石などが原因の場合、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)と呼ばれる特殊な内視鏡を行い、膵管の狭窄部を広げるためにステントといわれるプラスチック製の筒を留置したり、膵石を砕いたり除去したりします。

膵石が大きい場合、内視鏡治療だけでは治療困難であり、体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)や外科的治療を行うことがあります。

非代償期になると消化不良による症状が出現します。

膵臓は食物を消化するための消化酵素を含む膵液を分泌していますが、膵酵素が分泌されなければ食物をうまく消化できず下痢・軟便になったり、栄養素を吸収できないために栄養状態が悪化します。これらを防ぐために消化酵素薬を内服します。

また、膵臓から分泌される血糖値を下げるインスリンというホルモンの分泌低下により血糖値が上昇し、血糖値のコントロールが不十分となるため糖尿病を発症しやすくなります。

通常、低血糖の際には血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンが分泌されますが、このグルカゴンの分泌も低下するため、低血糖が起こりやすく長引くことがあります。

これらに対してはインスリン等を用いて糖尿病治療を行います。

慢性膵炎の予防

過度の飲酒は膵臓に負担がかかるため、飲酒量は適量に週1-2日はお酒を飲まない休肝日を持ちましょう。アルコール性慢性膵炎の場合は禁酒をすることが最も大切です。

また、慢性膵炎の患者さんが喫煙を継続すると膵癌のリスクになると報告されています。食事による腹痛の有無や糖尿病の合併によって食事制限の内容は異なりますが、暴飲暴食、刺激物、香辛料等は膵臓にとって負担となるため避けることが望まれます。

高脂肪食の過剰摂取は急性膵炎(慢性膵炎の急性増悪)のリスクを増加させるため、脂肪を減らし、タンパク質や炭水化物をバランスよく摂取することが大切です。繊維質の多い食材や消化しにくいきのこ類・海藻類などを避け、柔らかく調理した野菜を積極的に摂取すると良いでしょう。

また、高脂血症・胆石は急性膵炎・慢性膵炎の原因となるため、肥満に注意し適正体重を心がけましょう。飲酒、喫煙、過労やストレスを避け、規則正しい生活習慣を心がけることが予防に繋がります。

<リファレンス>

日本消化器病学会 慢性膵炎診療ガイドライン2021
日本膵臓病学会 慢性膵炎臨床診断基準 2019 膵臓 34:279~281,2019
日本消化器病学会誌 早期慢性膵炎:課題と展望  2017;114:2089―2096
日本消化器病学会誌 慢性膵炎診療 最近の進歩 2017;114:2097―2107
胆と膵 慢性膵炎診療の最前線 2021年2月号(Vol.42 No.2)

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