先天性無痛無汗症 (CIPA)|疾患情報【おうち病院】

記事要約

先天性無痛無汗症 (CIPA)とは、温覚・痛覚と発汗機能が欠如(または低下)し、精神発達遅滞を伴う遺伝性の神経疾患です。先天性無痛無汗症 (CIPA)の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

先天性無痛無汗症(CIPA)とは

先天性無痛無汗症 (以下、CIPA)は温覚・痛と発汗機能が欠如(または低下)し、精神発達遅滞を伴う遺伝性の神経疾患です。

遺伝形式は常染色体劣性遺伝をとります。発汗機能が低く体温調整が難しいために起こる乳児期の不明熱や採血などで痛みを感じていない様子で本症を疑われ、診断に結び付く症例が多く見られます。

また指や舌を噛むといった自傷行為、骨折・脱臼などの繰り返しやそれによる関節破壊、下肢機能の低下、皮膚の乾燥、角膜上皮障害、てんかん、易感染性など多彩な症状を認めます。

CIPAには根本的な治療法はなく、各症状に対し対症療法を行うことになります。また日常生活においては、体温の調節を室温や衣類などで適切に行うことが大切です。舌や口唇を噛む自傷行為に対しては保護プレートの使用を考慮する必要があります。

予後を左右する因子としては、乳幼児期の体温調節不良によるけいれんや急性脳症、成長後は皮膚潰瘍や外傷などの感染から生じる敗血症が挙げられます。また繰り返し起こる骨折や脱臼、その後の関節破壊に対する適切な整形外科的治療は患者さんの生活の質(QOL)に影響を与えます。経年的に移動能力が低下し、杖や車椅子を必要とすることが多くなっていきます。

先天性無痛無汗症(CIPA)の原因

CIPAは遺伝性感覚・自律神経ニューロパチーに属する疾患で、その4型が本症になります。また5型は先天性無痛症で、無汗と精神発達遅滞を伴わない病型です。

4型の原因は神経成長因子(NGF)の受容体タンパク質のコードしているNTRK1遺伝子の異常で、5型の原因はNGFB遺伝子の異常であることがわかっています。

また5型では、SCN9A遺伝子の変異を示す患者も報告されています。4型の中にもNGFB遺伝子の異常を認めることがあり、両者はオーバーラップする疾患であると考えられます。

責任遺伝子の存在はわかってきましたが、これらの遺伝子変異がどのような機序で本症の発症に結び付くのかはわかっていません。

 先天性無痛無汗症(CIPA)の疫学

CIPAは1951年に日本の医師によって報告されたのが世界で最初であると考えられています。本症は世界各国で報告されていますが日本とイスラエルからの報告が多く、その他の国では稀な疾患とされています。

本邦での正確な患者数はわかっていませんが、推定では約200〜300人とされ、男女差はありません。

先天性無痛無汗症(CIPA)の症状

  1. 痛覚、発汗の低下、消失
    汗をかかないことで体温調節ができず、高熱やそれに伴ってけいれんを起こすことがあります。また予防接種などで痛みを感じる様子がないことなどの特徴があります。このような症状から乳幼児期に本症が疑われ、診断がつくことが多いとされます。
    けいれんの重積や熱中症に関連し、急性脳症を起こし脳の機能障害を残すなど予後不良な状態になることもあり、体温調節は非常に重要です。
    その他、かゆみも感じないといわれています。
  2. 自傷行為
    舌や口唇、頬の咬傷はよく見られます。また歯が生え始めると指先を噛み始めます。口腔内の潰瘍や指尖部の損傷、指先部分の骨の溶解、感染などの問題を引き起こします。
  3. 骨・関節への影響
    本症は痛覚だけでなく温度覚にも障害があります。本症の患者さんは、痛みや熱さ、冷たさを感じたり、経験することがないため危険を認識することができません。そのため火傷や凍傷、打撲、骨折、脱臼といった外傷を繰り返してしまいます。また発達障害や多動の傾向もあるためさらに外傷の頻度は増加します。
    繰り返す外傷の結果、骨の変形や関節の破壊を生じ、関節や特に下肢機能が廃絶してしまう状態になることがあり(シャルコー関節)、将来的にはQOLの低下につながります。
  4. 皮膚への影響
    自傷行為や外傷により皮膚が損傷しても、本人の訴えがないため周囲も気づかず、重症化し皮膚深部まで損傷することがあります。
    本症は、汗が出ないため皮膚の乾燥を認めます。このため皮膚のバリア機能が低下し、小さな傷であっても感染を起こしやすくなります。
  5. 歯、口腔への影響
    下歯の生え始め頃から舌の下面に潰瘍ができたり、上の歯が生えだすと舌を噛んで損傷したりといったことが起こります。舌の噛み切りにより、舌が短くなると咀嚼に影響します。虫歯ができても痛みを訴えないため、発見や治療開始までに時間がかかり悪化することもあります。また重度の虫歯から歯髄炎や顎の骨髄炎にまで広がることも少なくありません。
  6. 目への影響
    涙液の低下によって角膜の上皮障害が見られ、細菌感染や角膜潰瘍に進行することがあります。症状がひどくなれば視力に悪影響を及ぼします。
  7. 精神運動発達遅滞
    様々な程度の障害を認めます。幼児期以降は多動・衝動やこだわり、不注意、学習障害などの特徴が見られますが、成長するにつれて落ち着いていくことが多いとされています。
  8. その他
    てんかんの合併
    睡眠障害

先天性無痛無汗症(CIPA)の診断方法

本症では診断や合併症の検索のため、下記の検査が施行されることがあります。

  1. 疼痛刺激検査
    傷をつけない程度に針で皮膚を刺激し、その反応を見るものです。触覚と区別するために針を使う必要があります。
  2. 発汗に関する検査
    ミノール試験(ヨード澱粉反応)
    ヒスタミン発赤試験
    交感神経皮膚反応 など
  3. 皮膚生検
    本症では、汗をかかないにも関わらず汗腺を認めます。
  4. 末梢神経生検
  5. 脳波検査
  6. 頭部、骨・関節のCT、MRI
  7. 遺伝子検査 など

<診断基準> 難病情報センターHPより引用

 先天性無痛無汗症は遺伝性感覚・自律神経ニューロパチーに属する疾患で、このうち4型と5型が相当する。

A.主要徴候

  1. 先天性に全身の温痛覚消失又は低
  2. 先天性に全身の発汗消失又は低下
  3. 精神発達遅滞

B.その他の徴候と所見

  1. 乳児期からの不明熱(体温調節障害
  2. 乳児期からの咬傷
  3. 幼児期以降の関節障害と骨折、骨の変形などの異常

C.重要な検査所見

  1. 遺伝子解析(NTRK1遺伝子の変異)
  2. 遺伝子解析(NGF遺伝子の変異*)
  3. 遺伝子解析(SCN9A遺伝子の変異) 

<診断のカテゴリー>

以下のいずれかの場合、遺伝性感覚・自律神経ニューロパチー4型と診断する。

  • Aの全てとBの1つ以上を満たす場合。
  • Aの1、2とBの1つ以上を満たす場合。
  • Aの1、2とCの1又は2を満たす場合。

以下のいずれかの場合、遺伝性感覚・自律神経ニューロパチー5型と診断する。

  • Aの1を満たすがAの2を満たさず、かつBの2又は3を満たす場合。
  • Aの1を満たすがAの2を満たさず、かつCの2又は3を満たす場合。 

*NGF遺伝子変異の種類により、4型または5型となる。

先天性無痛無汗症(CIPA)の治療

 現在のところ、本症の根本的な治療法はありません。したがって、各症状に対し対症療法を行うことになります。

  1. 体温コントロール
    室温や衣類によって体温を調整します。クールベストと呼ばれる衣類の着用や水浴をすることもあります。体温の急激な上昇には、アセトアミノフェンまたはイブプロフェンの使用が有効であると報告されています。
  2. 自傷行為への対応
    歯が生え出し舌や口唇を傷つけてしまう場合、保護プレートを使用したり、尖ってしまった歯を滑らかに削ることもあります。
  3. 骨・関節
    骨折や脱臼に対しては通常の整形外科的治療を行います。ギプス固定を行う際は、皮膚炎や褥瘡ができやすいことがあります。また安静が保てないことによりギプスが破損することもあり、頻回な受診が必要になります。
    骨折後の骨癒合は比較的良好なことが多いとされますが、治療中に安静を保つことが難しいことがあり、骨癒合が遅延したり、再骨折を起こすことがあります。
    繰り返す骨折により関節が破壊され、下肢機能が低下している場合には長下肢装具の使用や車椅子の使用を考慮します。
    【怪我の予防】
    床に柔らかいマットを敷いたり、柱や家具の角にクッション材をつけるなどの環境整備が必要です。また、足部の保護のため、クッション性のある足底板や足関節までしっかり支えるハイカットシューズを使用することもあります。毎日入浴時には腫れや皮下出血がないかを確認し、外傷を早期に発見することが大切です。
  4. 皮膚のケア
    乾燥しやすいため乳児期早期から保湿剤を使用することが推奨されています。手指や足趾はひび割れを起こしやすいので特に入念に保湿する必要があります。

  5. ヒアルロン酸製剤や人口涙液などの点眼薬を使用し目の表面が乾燥しないようにすることが推奨されています。また手で目を擦ったり、汚れた手で目を触る様なことはしないように習慣づけることも大切です。

先天性無痛無汗症(CIPA)の経過、予後

本症では、体温コントロールと皮膚潰瘍などからの二次的な感染が予後に影響すると考えられています。高体温によるけいれんの重積、熱中症は脳に後遺症を残したり、死に至ることがあります。また怪我による創部や手術創、骨髄炎などから敗血症になり命に関わることがあります。

また繰り返す骨折、脱臼などの結果、関節破壊が起こり下肢機能が低下していくことが多いとされます。個人差はありますが、将来的には移動能力が低下し車椅子が必要になる傾向にあります。

<リファレンス>

難病情報センター 先天性無痛無汗症(指定難病130)
難病情報センター 先天性無痛無汗症(指定難病130)
小児慢性特定疾病情報センター 先天性無痛無汗症
厚生労働省障害者総合福祉推進事業 改訂版 先天性無痛無汗症
GeneReviews Japan 遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチー4型/先天性無痛無汗症
NPO 無痛無汗症の会「トゥモロウ」
厚生労働省障害者総合福祉推進事業 改訂版 先天性無痛無汗症

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