クルーゾン症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

クルーゾン症候群とは、遺伝子異常による疾患で、早期に頭蓋骨、顔面骨の縫合線が閉鎖してしまう症候性頭蓋縫合早期癒合症の一つです。クルーゾン症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

クルーゾン症候群とは

クルーゾン症候群は遺伝子異常による疾患で、早期に頭蓋骨、顔面骨の縫合線※1が閉鎖してしまう症候性頭蓋縫合早期癒合症※2の一つです。縫合線の早期閉鎖のため、成長による頭蓋骨の拡大が起こらず頭蓋内圧が亢進し、脳の発達に影響を与えます。

また顔面骨の低形成があるため眼球突出、上気道閉塞、上顎骨の低形成、それによる噛み合わせ不良(受け口)などを生じます。その他、巨舌、外耳道狭窄、伝音性難聴が見られることもあります。また、まれに精神発達遅滞を合併することもあります。クルーゾン症候群では、手足の指の異常は認めません。

本症は常染色体優性遺伝の形式をとるため、次世代へ50%の確率で遺伝します。

本症の根本的な治療法はありませんが、各症状に対し対症療法を行うことで経過及び予後の改善が見込まれます。しかし頭蓋骨形成術、歯科矯正手術、合併症によってはシャント手術、大後頭孔減圧術など多数回にわたる外科的治療が必要となります。

※1 頭蓋骨縫合線:赤ちゃんの頭蓋骨は7つのピースに分かれておりそれぞれの骨片のつなぎ目を縫合線といいます。縫合線が開大していることで、脳の成長に合わせて頭蓋骨も拡大することができます。赤ちゃんの脳は2歳までに約4倍の大きさに成長するとされていますので、この急激な成長に対応するために頭蓋骨縫合線は重要な役割を持っています。

※2 症候性頭蓋縫合早期癒合症にはクルーゾン症候群の他に、アペール症候群(指定難病182)、ファイファー症候群(指定難病183)、アントレー・ビクスラー症候群(指定難病184)があります。

クルーゾン症候群の原因

クルーゾン症候群は線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)遺伝子の異常によって引き起こされます。FGFRは骨細胞の増殖や分化をコントロールする役割を担っています。本症では主にFGFR2のIgIIIa/cドメインに異常が集中していることがわかっています。

また一部の患者さんでは、FGFR3遺伝子の異常によって発病していることがあります。しかし、詳しい病態の発症メカニズムはまだわかっていません。

疫学

クルーゾン症候群の発症頻度は60,000出生に1人と推定され、男女差はないとされています。本邦での年間発症数は約20〜30人程度と考えられています。
遺伝形式は常染色体優性遺伝で、次世代に50%の確率で遺伝します。発症は遺伝によって起こる場合の他、遺伝子の突然変異によって起こることもあります。

クルーゾン症候群の症状

症状の個人差が大きく、生下時より頭蓋変形を認めるものから、成長に伴って頭蓋変形が出現するものまで様々であるといわれています。

  1. 頭蓋内圧亢進症状
    脳の大きさに対し頭蓋骨が小さいために脳圧が上がり、頭痛、吐き気、嘔吐が起こります。この症状は、生後間もなく生じることもありますが、成長とともに現れることが多いとされています。また、視神経が障害され視力低下、色覚異常などを呈することもあります。 
  2. 顔面(中顔面)の低形成
    眼間乖離(左右の目の間が広い)、高度な眼球突出、斜視、上顎骨の低形成、不正咬合(受け口)、上気道閉塞、外耳道閉鎖、伝音性難聴など
    難聴は本症の約55%に認めるという報告があります。多くは伝音性難聴で、その程度は軽度から中等度とされます。
  3. 水頭症
    脳脊髄液※3の循環が悪くなるために脳室の異常な拡大を呈します。拡大した脳室が脳を圧迫するために頭痛や嘔吐といった症状が出現します。言葉での訴えがしっかりできない低年齢では、「いつもと泣き方が違う」、「ぐったりしている」などの変化により気づく場合があります。
    ※3 脳脊髄液は、脳を外部の衝撃から保護し、脳圧コントロール、脳の老廃物の排泄、栄養因子やホルモンの運搬など様々な役割があります。脳脊髄液は脳の中にある脳室の脈絡叢(みゃくらくそう)で産生され、脳や脊髄の表面を循環し毛細血管で吸収されるというサイクルで1日に3回ほど入れ替わっています。
  4. 小脳扁桃下垂(キアリ奇形)
    小脳、脳幹の一部が大後頭孔を超えて脊柱管内に陥入する状態で、これにより小脳失調、中枢性無呼吸、嚥下障害などの下位脳神経障害、垂直性眼振、しゃっくり、めまいなどが起こります。
  5. 精神発達遅滞
    本症ではまれに精神発達遅滞を認めることがあります。

クルーゾン症候群の診断方法

クルーゾン症候群を含む症候性頭蓋縫合早期癒合症は、その特徴的な頭部形態や顔貌からほとんどの場合、身体診察で容易に疑うことができます。

本症を疑えば、頭部のレントゲンやCT検査を行い確認します。またMRIで水頭症やその他の脳の異常、頚椎・頚髄の異常を確認することができます。

同時に呼吸状態の確認、目や耳の検査など、本症に合併する可能性がある疾患を精査します。

本症は原因遺伝子がわかっているため、遺伝子検査を行うこともあります。


 

クルーゾン症候群の治療

 本症は遺伝子異常による疾患であるため、根本的な治療法はありません。治療はそれぞれの症状に対する対症療法で、主に外科的治療となります。

  1. 頭蓋拡大形成術
    手術の目的は、頭蓋骨が成長に伴って拡大しないことにより起こる脳の圧迫を取り除くこと、変形した頭蓋の形を整えることです。手術時期は、脳の発育を考慮して通常では生後1歳以下で行われます。
    近年では、術式として骨延長法が実施されることが多くなっています。骨延長法では、広げたい骨の部分を骨切りし、そこに延長装置を取り付ける手術を行います。術後に、延長装置を操作し、1日に約1mmずつ骨切りした部分を広げていくことで骨を延長し頭蓋を拡大するという方法です。この方法は従来法に比べ、出血などの侵襲が少なく、効率的に頭蓋を拡大させることができるといわれています。
  2. 顔面形成術
    本症では、中顔面骨の発育が不十分なため、それによる眼球突出や不正咬合、上気道の閉塞による呼吸障害、睡眠時無呼吸などの問題が生じます。これらの問題を解消するために、顔面骨移動術や骨延長術などの手術を行います。まぶたが閉じられないほどの重症例や上気道閉塞により呼吸障害が強い例では早期に手術が考慮されます。
    また乳歯が永久歯に生え変わる10歳前後から、歯並びを整える歯科矯正手術が加わります。
    通常、顔面骨の成長は10代後半まで続きます。したがって、その成長に合わせて複数回の再手術が必要になることがあります。最近では手術回数をより少なくするために、術式の工夫がなされ普及し始めています。
  3. シャント手術
    水頭症に対し行われます。脳室に溜まり脳を圧迫する原因となっている停滞した脳脊髄液を他の場所へ逃してやる手術です。腹腔へ逃してやる脳室 - 腹腔シャント(V-Pシャント)が一般的です。
  4. その他
    呼吸障害に対し気管切開術、小脳扁桃下垂に対し大後頭孔減圧術、歯科矯正術など症状に応じた治療が必要となります。

クルーゾン症候群の経過、予後

本症の予後は、症例の重症度によって様々ですが、適切な時期に適切な治療を受けることで比較的良好であるとされます。しかし、複数回の外科的治療が必要であり、長期的に疾患と向き合っていくことが大切です。予後を左右する因子としては、水頭症、小脳扁桃下垂、上気道閉塞などが挙げられます。

クルーゾン症候群で注意すべき点

頭蓋内圧亢進による症状(頭痛、嘔吐、意識状態など)や呼吸状態、睡眠時の無呼吸には常に注意を払う必要があります。

また本症は、年齢や症状、成長に合わせて適宜適切な治療を行っていく必要がある疾患です。したがって定期的に専門機関を受診し、症状の変化を把握しながら、適切な時期に適切な治療が行えるようにすることが大切です。

<リファレンス>

難病情報センター クルーゾン症候群(指定難病181)
難病情報センター クルーゾン症候群(指定難病181)
小児慢性特定疾病情報センター クルーゾン(Crouzon)病
神奈川県立こども医療センター
視覚聴覚二重障害の医療 〜盲ろう医療支援情報ネット〜
日本頭蓋顎顔面外科学会 頭蓋骨縫合早期癒合症
日本形成外科学会 頭蓋縫合早期癒合症
GeneReviews Japan FGFR関連頭蓋骨縫合早期癒合症

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