アントレー・ビクスラー症候群|clila疾患情報

【目次】

1.アントレー・ビクスラー症候群とは
2.アントレー・ビクスラー症候群の原因
3.疫学
4.アントレー・ビクスラー症候群の症状
5.アントレー・ビクスラー症候群の診断方法
6.アントレー・ビクスラー症候群の治療
7.アントレー・ビクスラー症候群の経過、予後
8.アントレー・ビクスラー症候群で注意すべき点
 

1.アントレー・ビクスラー症候群とは

 アントレー・ビクスラー症候群は遺伝子異常による疾患で、早期に頭蓋骨、顔面骨の縫合線※1が閉鎖してしまう症候性頭蓋縫合早期癒合症※2の一つです。本症の原因遺伝子は、FGFR2遺伝子とシトクロムP450酸化還元酵素 (POR) 遺伝子で、FGFR2遺伝子に変異があるものを1型、POR遺伝子に変異があるものは2型と分類されています。
縫合線の早期閉鎖のため、成長による頭蓋骨の拡大が起こらず頭蓋内圧が亢進し、脳の発達に影響を与えます。また顔面骨の低形成があるため眼球突出、上気道閉塞、上顎骨の低形成、それによる噛み合わせ不良(受け口)などを生じます。

 これらに加え本性に特徴的な症状として、長い指と上腕骨 - 橈骨癒合による肘関節の可動域制限、ステロイドホルモン合成障害によりステロイドホルモンが不足するために生じる外性器の異常、慢性副腎不全の症状(易疲労感、低血圧、筋力低下、無気力など)を認めます。精神発達遅滞を伴うこともあります。

 本症は他の症候性頭蓋縫合早期癒合症と異なり、常染色体劣性遺伝の形式をとります。
本症の根本的な治療法はありません。したがって、各症状に対し対症療法を行います。他の疾患と同様に頭蓋や顔面骨を広げるための頭蓋形成術、顔面形成術の手術は複数回必要となります。またステロイドホルモンの不足に対し、ステロイドホルモン補充療法を行います。


※1 頭蓋骨縫合線:赤ちゃんの頭蓋骨は7つのピースに分かれておりそれぞれの骨片のつなぎ目を縫合線といいます。縫合線が開大していることで、脳の成長に合わせて頭蓋骨も拡大することができます。赤ちゃんの脳は2歳までに約4倍の大きさに成長するとされていますので、この急激な成長に対応するために頭蓋骨縫合線は重要な役割を持っています。

※2 症候性頭蓋縫合早期癒合症にはアントレー・ビクスラー症候群の他に、クルーゾン症候群(指定難病181)、アペール症候群(指定難病182)、ファイファー症候群(指定難病183)があります。

 

2.アントレー・ビクスラー症候群の原因

 本症では、2つの遺伝子が原因遺伝子として判明しています。FGFR2遺伝子とシトクロムP450酸化還元酵素 (POR) 遺伝子です。アントレー・ビクスラー症候群 1型は、FGFR2遺伝子の異常によるもので、ステロイドホルモンの合成障害は認めません。アントレー・ビクスラー症候群 2型は、POR遺伝子の異常によるもので、ステロイドホルモンの合成障害を認めます。
また環境要因として、妊娠初期のフルコナゾール(抗真菌薬)の過剰投与が本症と関連している可能性が示唆されています。

 

3.疫学

 本症は極めて稀な疾患で、正確な発症頻度は不明です。発症に関する男女差はないとされています。

 

4.アントレー・ビクスラー症候群の症状

  1. 頭蓋内圧亢進症状
    頭蓋骨は成長に伴って拡大しないため脳の大きさに比べ小さく、脳圧が上がり頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害などが起こります。また、視神経が障害されることによる視力低下、色覚異常などを呈することもあります。 
     
  2. 顔面(中顔面)の低形成
    眼間乖離(左右の目の間が広い)、高度な眼球突出、上顎骨の低形成、不正咬合(受け口)、上気道閉塞、睡眠時無呼吸、低位耳介、外耳道閉鎖、伝音性難聴など上気道閉塞の程度によっては重篤な呼吸障害を呈することがあります。
     
  3. 水頭症
    脳脊髄液※3の循環が悪くなるために脳室の異常な拡大を呈します。拡大した脳室が脳を圧迫するために頭痛や嘔吐といった症状が出現します。言葉での訴えがしっかりできない低年齢では、「いつもと泣き方が違う」、「ぐったりしている」などの変化により気づく場合があります。

    ※3 脳脊髄液は、脳を外部の衝撃から保護し、脳圧コントロール、脳の老廃物の排泄、栄養因子やホルモンの運搬など様々な役割があります。脳脊髄液は脳の中にある脳室の脈絡叢(みゃくらくそう)で産生され、脳や脊髄の表面を循環し毛細血管で吸収されるというサイクルで1日に3回ほど入れ替わっています。
     
  4. 骨格の異常
    上腕骨 - 橈骨癒合:肘関節を形成する上腕骨と橈骨が先天的に癒合しているため、肘関節の可動が制限されます。また、他の部分の骨癒合を認めることもあります。

    クモ状指:細く長い指で、時に屈指を呈することがあります
    その他、大腿骨の弯曲、骨折  
  5. ステロイドホルモン欠乏症状

    POR遺伝子異常によるアントレー・ビクスラー症候群ではステロイドホルモン合成障害があるため、ステロイドホルモンの欠乏症状を認めます。

    外性器の異常:男児では性器の発育不全、女児では陰核の肥大などを認めます。

    慢性副腎不全症状:易疲労感、筋力低下、体重減少、低血圧、食欲不振、精神症状(無気力、うつ)などの症状を認めることがあります。
     
  6. 精神発達遅滞
    本症では精神発達遅滞を認めることがあります。

 

5.アントレー・ビクスラー症候群の診断方法

 アントレー・ビクスラー症候群を含む症候性頭蓋縫合早期癒合症は、その特徴的な頭部形態や顔貌からほとんどの場合、身体診察で容易に疑うことができます。本症を疑えば、頭部のレントゲンやCT検査を行い確認します。

 またMRIで水頭症やその他の脳の異常、頚椎・頚髄の異常を確認することができます。診断と同時に、呼吸状態の確認、目や耳の検査など、本症に合併する可能性がある疾患についても精査します。
本症は原因遺伝子がわかっているため、遺伝子検査を行うこともあります。

 

 

6.アントレー・ビクスラー症候群の治療

 本症は遺伝子異常による疾患であるため、根本的な治療法はありません。治療はそれぞれの症状に対する対症療法で、主に外科的治療となります。

 また、ステロイドホルモンの合成障害に対しては、ステロイドホルモン補充療法が行われます。女性の患者さんでは、思春期以降に女性ホルモンの投与を行う場合があります。

  1. 頭蓋拡大形成術
    手術の目的は、頭蓋骨が成長に伴って拡大しないことにより起こる脳の圧迫を取り除くこと、変形した頭蓋の形を整えることです。手術時期は、脳の発育を考慮して、通常では生後1歳以下で行われます。
    近年では、術式として骨延長法が実施されることが多くなっています。骨延長法では、広げたい骨の部分を骨切りし、そこに延長装置を取り付ける手術を行います。術後に、延長装置を操作し、1日に約1mmずつ骨切りした部分を広げていくことで骨を延長し頭蓋を拡大するという方法です。この方法は従来法に比べ、出血などの侵襲が少なく、効率的に頭蓋を拡大させることができるといわれています。
  2. 顔面形成術
    本症では、中顔面骨の発育が不十分なため、それによる眼球突出や不正咬合、上気道の閉塞による呼吸障害、睡眠時無呼吸などの問題が生じます。これらの問題を解消するために、顔面骨移動術や骨延長術などの手術を行います。まぶたが閉じられないほどの重症例や上気道閉塞により呼吸障害が強い例では早期に手術が考慮されます。
    また乳歯が永久歯に生え変わる10歳前後から、歯並びを整える歯科矯正手術が加わります。
    通常、顔面骨の成長は10代後半まで続きます。したがって、その成長に合わせて複数回の再手術が必要になることがあります。最近では手術回数をより少なくするために、術式の工夫がなされ普及し始めています。
  3. シャント手術
    水頭症に対し行われます。脳室に溜まり脳を圧迫する原因となっている停滞した脳脊髄液を他の場所へ逃してやる手術です。腹腔へ逃してやる脳室 - 腹腔シャント (V-Pシャント) が一般的です。
  4. その他
    呼吸障害に対する気管切開術。
    拘縮し固まった肘関節に対しては、機能的改善が望める場合は肘関節の角度を変える手術を行うことがあります。機能的改善とは、例えば、肘の角度を変えることで、手を口に持っていくことができ、自力で摂食できるようになることなどが挙げられます。

 

7.アントレー・ビクスラー症候群の経過、予後

 本症は、ステロイドホルモンの治療と適切な時期の外科的治療によって予後は比較的良いとされています。しかし、新生児期の死亡率は主に呼吸障害によって80%であったという報告もあります。

 

8.アントレー・ビクスラー症候群で注意すべき点

 本症において注意すべきことは、ステロイドホルモンの服用を忘れないようにすることが挙げられます。長期にわたり服用していたステロイドホルモンを急に中断することは、生命に関わる重篤な症状を呈することがあるからです。
 

 その他、頭蓋内圧亢進による症状(頭痛、嘔吐、意識状態など)や呼吸状態、睡眠時の無呼吸には常に注意を払う必要があります。また本症は、年齢や症状、成長に合わせて適宜適切な治療を行っていく必要がある疾患です。したがって定期的に専門機関を受診し、症状の変化を把握しながら、適切な時期に適切な治療が行えるようにしていくことが大切です。

 

上野 ゆかり 整形外科医  2003年国立大学医学部卒業。整形外科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み、小児から高齢者まで幅広い年齢層に対応。家族の仕事により移住したフィリピンにて、邦人に対する医療アドバイス、健康診断フォローアップ事業を開始。現在はドイツ(フランクフルト )にて医療・健康アドバイザーとして活動する傍ら、医療相談、オンライン診療などで臨床活動を継続中。

 

<リファレンス>

難病情報センター アントレー・ビクスラー症候群(指定難病184)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4669
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4670

小児慢性特定疾病情報センター アントレー・ビクスラー(Antley-Bixler)症候群
https://www.shouman.jp/disease/html/detail/13_01_024.html

神奈川県立こども医療センター
http://kcmc.kanagawa-pho.jp/department/crouzon-ja.html

National Organization for Rare Disorders
Antley-Bixler Syndrome
https://rarediseases.org/rare-diseases/antley-bixler-syndrome/#:~:text=Antley%2DBixler%20syndrome%20is%20a,of%20the%20skull%20(craniosynostosis)

 

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