表皮水疱症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

表皮水疱症とは、表皮、基底膜、真皮の接着を担っている接着構造分子が生まれつき少ないか消失しているため、日常生活で皮膚に加わる力に耐えることができずに表皮が真皮から剥がれて水ぶくれ(水疱)や皮膚潰瘍を生じてしまう病気です。表皮水疱症の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

表皮水疱症とは

表皮水疱症は、表皮、基底膜、真皮の接着を担っている接着構造分子が生まれつき少ないか消失しているため、日常生活で皮膚に加わる力に耐えることができずに表皮が真皮から剥がれて水ぶくれ(水疱)や皮膚潰瘍を生じてしまう病気です。

表皮と真皮は、それらの間に接着剤のような役割を持つ蛋白によって強く接着しているため、皮膚に外力が加わっても簡単には解離しない構造になっています。表皮細胞同士、あるいは表皮と真皮の接着に必要なノリの役目を担っている物質(タンパク質)のことを、接着構造分子と呼んでいます。しかし、その蛋白が正常に機能しないと、日常生活における弱い外力でも皮膚や粘膜にびらんや水疱が生じてしまいます。 

水疱の形成部位により、表皮内に水疱ができる単純型表皮水疱症、表皮と基底膜の間で剥がれて水疱ができる接合部型表皮水疱症、基底膜と真皮の間で剥がれる病型を栄養障害型表皮水疱症の3つに大別され、さらに遺伝形式や組織像、臨床像などから亜型に分類されます。いずれの部位でも水疱を形成することがあるキンドラー症候群も新たに表皮水疱症に認定されています。

病型診断には最終的には遺伝子変異の同定が必要です。有効な治療はなく、びらんに対する治療などの対症療法が主体となります。重症の場合には、繰り返して形成される水疱やびらんのために手や足の指趾が癒着するなど、日常生活が不自由になることがあります。

表皮水疱症の原因

表皮水疱症は表皮と真皮を接着させる蛋白を作る際の設計図にあたる遺伝子に異常があり生じる遺伝性の皮膚疾患です。そのため、接触や空気による感染はおこりませんが、遺伝することはあります。

基底細胞の細胞骨格(中間径線維)であるケラチン5あるいはケラチン14遺伝子いずれかの変異により、基底細胞が崩壊して裂隙が生じ、水疱を形成します。常染色体優性遺伝であり、遺伝子のどの部分にどのような変異が生じるかによって重症度が変化します。すなわち、重症度は遺伝子変異部位の位置や変異アミノ酸の種類によって規定されています。

遺伝子は父親と母親から子供に伝わるので、どちらか一方(父親由来あるいは母親由来)の二対の遺伝子が存在することになります。そのうちどちらか一方の遺伝子異常だけで病気になる遺伝様式を優性遺伝、父親由来と母親由来の遺伝子の両方に異常があって病気になる遺伝様式を劣性遺伝といいます。

表皮水疱症は病型によってこれらの遺伝様式がきまっているため、正しい病型診断を行うことによって患児の両親が次のお子さんを希望される場合、次のお子さんが表皮水疱症を発症する確率が推測されます。また患者さんがお子さんを希望される場合も同様です。

表皮水疱症の疫学的整理

世界的に10~20万人の人口にひとりの割合で患者さんがおり、人口が約1億人の日本国内には、約500~1000人の患者さんがおられると予想されます。特定の人や地域への方よりはありません。

表皮水疱症の症状

表皮水疱症は単純型、接合部型、栄養障害型のどの病型でも、生まれた直後、あるいは生まれて間もなく、皮膚に水疱や潰瘍が生じます。症状の程度は遺伝子塩基配列異常の種類よってある程度決定されますが、生活環境、生活習慣、栄養状態、治療状況によっても左右されます。 

広範囲にわたる皮膚・粘膜の表皮水疱症は、いずれの病型でも重度の疼痛を引き起こします。広範囲の皮膚病変は体液のバランス異常とタンパク質の喪失を引き起こします。皮膚病変に感染が起きることがあり、全身性の感染症になる可能性もあります。粘膜が侵されると、栄養障害および発育不良、呼吸障害、ならびに泌尿生殖器の障害を引き起こすことがあります。

また、成長と共に、それぞれの病型で特徴的な合併症が生じます。

1)単純型表皮水疱症:表皮水疱症全体の約4割

優性単純型は、軽症の場合は経過と共に症状が軽快することが多いのですが、重症の場合は掌や足の裏の皮膚の角質が厚く固くなり、場合によっては歩行困難となることもあります。単純型表皮水疱症の殆どがケラチン5あるいはケラチン14の遺伝子異常です。

プレクチン遺伝子異常による劣性単純型では、経過と共に筋力が低下して筋ジストロフィー症状を合併しますが、国内ではまだ数例の報告しかありません。

2)接合部型表皮水疱症:表皮水疱症全体の約1割

ラミニンα3鎖、β3鎖、γ2鎖の遺伝子異常による接合部型は極めて重症となり、全身の感染症で1歳を待たずに死亡することがほとんどです。

α6インテグリンまたはβ4インテグリンの遺伝子異常では胃と小腸の結合部位(幽門)の閉鎖を合併し、手術を受けなければ食事摂取が出来ません。

17型コラーゲン遺伝子異常では、経過と共に歯のエナメル質形成異常、頭頂部の脱毛、皮膚の色素脱失が生じますが、命に係わる重症な合併症は生じません。

3)栄養障害型表皮水疱症:表皮水疱症全体の約5割と最も多い病型

ほとんどの場合、生直後から爪の変形や脱落を認めます。また、潰瘍部の真皮で線維化 が 亢進して固くなる、いわゆる瘢痕形成と、その表面に脂肪の粒である稗粒腫が生じることが特徴です。優性遺伝型に比べて劣性遺伝型の症状が強く、優性遺伝型は経過と共に症状が軽くなることが多い一方、劣性遺伝型では手指の癒着、開口障害、眼瞼癒着など、瘢痕に伴う皮膚・粘膜症状が進行する場合があります。重症な場合は成人以降に瘢痕癌を合併する場合があり、また食道粘膜剥離による食道瘢痕狭窄 、慢性炎症に伴う糸球体腎炎、心筋症など内臓の合併症にも注意が必要です。

4)キンドラ−症候群

水疱は手足の背側に生じ、発症を繰り返すことで、進行性の皮膚萎縮が生じ、他の部位に拡大する可能性があります。軽症の場合もありますが、光線過敏症があることで、表皮水疱症の他の3大病型と鑑別されます。

皮膚・粘膜の瘢痕形成により、食道および泌尿生殖器の狭窄、眼瞼外反、ならびに偽合指症が生じます。重度のキンドラ−症候群の水疱は、より深部のレベルに生じるため、瘢痕を伴って治癒します。

表皮水疱症の診断

皮膚の生検および蛍光抗体法、透過型電子顕微鏡検査により水疱の離開や水疱形成のレベルを判断します。具体的な病型を確定して遺伝カウンセリングの指針とするため通常は遺伝子解析をおこないます。臨床所見に基づいて疑い、家族歴からの遺伝形式や病型が示唆されることがあります。

鑑別としては摩擦による水疱や後天性表皮水疱症などがあります。

表皮水疱症の治療

今のところ、表皮水疱症に有効な治療はありません。水疱は注射針や清潔なハサミを用いて水疱の一部に穴をあけて水疱内容液を排出し、ガーゼ保護します。潰瘍面は、軟膏外用と創傷被覆材で保湿を維持し、感染が生じた場合は抗菌作用のある外用剤外用と抗生剤内服で治療します。それぞれの合併症に対しては、皮膚科、内科、外科、小児科、眼科、歯科等と連携して早めの治療開始が必要です。

特に重症劣性栄養障害型で成人後に生じる可能性がある有棘細胞癌については、早期の切除が大切です。現在、表皮水疱症に対する治療法開発研究が進められています。

*在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料

表皮水疱症友の会”DebRAJapan”が中心になり、表皮水疱症患者が自己負担しなければならなかったガーゼ等の包交材料費用の政府支給を厚生労働省に陳情したことがきっかけとなり、平成22年から在宅難治性皮膚疾患処置指導料(月1回/1000点)が算定されるようになりました。その結果、表皮水疱症患者が自宅で使用する包交材料費の自己負担額が軽減されることになりました。

表皮水疱症の経過

優性単純型、優性栄養障害型は経過と共に症状が軽くなる場合がありますが、その他の病型では症状は変わらないか、重症例では経過と共に合併症が生じることが少なくありません。

重度の接合部型表皮水疱症および栄養障害型表皮水疱症では,2歳未満の死亡率が高く、全身性の重度の表皮水疱症も死に至る可能性があります。感染症,栄養障害,脱水などの合併症の後に死亡します。

接合部型表皮水疱症、栄養障害型表皮水疱症、およびキンドラー症候群の患者では、成人期に皮膚の有棘細胞癌や粘膜の扁平上皮癌が生じることがあります。

慢性例は消耗性となり、生活を一変させる場合があります。しかしながら,過去の瘢痕によって狭窄していた体内の管腔が身体の成長により再拡張することで、一部の重篤な症状は時間の経過とともに軽減する可能性もあります。

表皮水疱症の生活上の注意

皮膚や粘膜が擦れることにより水疱や潰瘍が生じるので、皮膚や粘膜の保護が重要です。肘、膝、手、足、肩、臀部など、擦れて摩擦が生じやすい部位は、可能な限りガーゼや包帯で保護することで、水疱形成を予防します。水疱ができた場合は早めの処置(水疱内容液の除去)が潰瘍形成や潰瘍拡大を予防します。

また、栄養管理が重要で、潰瘍面から水分やタンパク質などが漏出して栄養状態が悪化し、また慢性の炎症により鉄欠乏性貧血を合併する場合があるので、医師と良く相談して栄養状態を定期的にチェックし、必要に応じて経口栄養剤を食事に追加すると共に、十分な水分摂取を心がける必要があります。

<リファレンス>

皮膚科Q&A 日本皮膚科学会
表皮水疱症 指定難病36 難病情報センター
表皮水疱症友の会”DebRAJapan”

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