家族性地中海熱|疾患情報【おうち病院】

記事要約

家族性地中海熱とは、発作性の高熱と腹膜炎、胸膜炎、関節炎などを繰り返す遺伝性の自己炎症性疾患です。家族性地中海熱の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

家族性地中海熱とは

家族性地中海熱とはFMF(Famirial Mediterenean Fever)とも呼ばれ、発作性の高熱と腹膜炎、胸膜炎、関節炎などを繰り返す遺伝性の自己炎症性疾患です。パイリンというタンパク質に異常が生じることで炎症制御システムが崩れることにより発症します。発作性に症状が起きますが比較的すぐに回復し、そしてまた再発を繰り返すことが特徴です。

日本には約500人の患者がいると推定されています。

本症は指定難病であり、重症例(①コルヒチンが無効または不耐であり、かつ発熱発作頻回例、②アミロイドーシスの合併例、のいずれかを満たす場合)などは申請し認定されると保険料の自己負担分の一部が公費負担として助成されます。

家族性地中海熱の原因

本症は、血液中の好中球に存在するパイリンと呼ばれるタンパク質に異常が生じることによって引き起こされる病気です。

パイリンは、元々炎症を引き起こすインフラマソームという経路を抑える働きがあり、そこに異常が生じることで炎症反応が過剰になり、高熱や腹膜炎などを繰り返すようになります。このパイリンの異常は、MEFV遺伝子と呼ばれる遺伝子の変異によって引き起こされると考えられています。

この遺伝子の変異は特定の人種や集団に多いことが分かっており、特に地中海沿岸部に居住する人種に多いことから“地中海熱”という名称がついています。

遺伝子の変異は遺伝しやすいことが知られていますが、一方で本症の発症者の中にはMEFV遺伝子の変異が見られないケースもあり、MEFV遺伝子以外の他の要因が発症に関与しているとも考えられています。

家族性地中海熱の相談目安

感染症や悪性腫瘍などの原因がないにも関わらず、発熱を繰り返すことが本症の特徴です。不明熱として精査されてわかることも多い疾患です。

高熱が数日でて自然に治る、熱が出る時に一緒に腹痛や胸痛が出現する、といった症状を繰り返す方は本症の可能性について一度医師へご相談ください。家族性と名前につきますがご家族にこの病気がなくても発症することがあります。診療科は小児科や総合内科、膠原病内科をおすすめします。

家族性地中海熱の疫学的整理

発症に男女差はなく、約90%は20歳以下で発症し、60〜70%は10歳以下で発症します。

日本では5歳以下の発症が少なく成人発症例が比較的多い傾向にあります。2009年の全国調査では本症の発症年齢は18.2±14.3歳と海外の症例に比べて高く、発症から診断までの期間は平均8.8年かかっていることがわかっています。また、日本人における本症例では全体の約4割が非典型的な症状を呈すると考えられています。

家族性地中海熱の症状

発熱、腹膜炎、胸膜炎、関節炎などの炎症発作が認められます。

《1》発熱

ほぼ全ての方に発熱が見られます。典型例では突然38度以上の高熱が出て半日から3日間続き、特に薬も使わず自然に解熱します。

発熱発作の間隔は2〜6週間で4週間ごとが多く、発熱発作以外の期間は無症状です。怪我やストレスがきっかけとなり発作が起きることがあり、女性の場合は生理周期に一致することもあります。

《2》腹膜炎症状(腹痛)

腹膜炎による激しい腹痛が多くの患者にみられ、1〜3日程度持続し自然に軽快します。時に急性胆嚢炎や虫垂炎との判断が困難となることもあります。

《3》胸膜炎症状(胸痛)

胸膜炎による胸痛は約20%の患者にみられ咳や息苦しさなどの症状を認めるほか、胸水が貯まることもあります。

《4》関節炎

股関節、肘関節、足関節の単関節炎として発症することが多く基本的に非破壊性ですが一部の症例では遷延することもあります。

《5》その他

漿膜の炎症として心膜炎や精巣漿膜炎がみられることがあります。下肢に紅斑が出たりや労作時の筋痛や、まれに無菌性の髄膜炎を発症することもあります。

家族性地中海熱の診断方法

診断には、臨床診断基準が重要です。

主症状である特徴的な周期性発熱発作に加え、漿膜炎・滑膜炎などの随伴症状を認めるか、コルヒチンによる発作の改善を認める場合には典型例として診断されます。非典型的な症状の場合はコルヒチン内服による効果の有無が診断法の一つとなっています。また、臨床所見に加えMEFV遺伝子解析が使われることもあります。

(以下研究班診断基準引用)

1.臨床所見

《1》必須項目:12時間から72時間続く38度以上の発熱を3回以上繰り返す。発熱時には、CRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認める。発作間歇期にはこれらが消失する。

《2》 補助項目

ⅰ)発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める。

a.非限局性の腹膜炎による腹痛

b.胸膜炎による胸背部痛

c.関節炎

d.心膜炎

e.精巣漿膜炎

f.髄膜炎による頭痛

ⅱ)コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する。

2.MEFV遺伝子解析

1)臨床所見で必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める場合に、臨床的にFMF典型例と診断する。

2)繰り返す発熱のみ、あるいは補助項目のどれか1項目以上を有するなど、非典型的症状を示す症例については、MEFV遺伝子の解析を行い、以下の場合にFMFあるいはFMF非典型例と診断する。

a)  Exon10の変異(M694I、M680I、M694V、V726A)(ヘテロの変異を含む)を認めた場合には、FMFと診断する。

b)  Exon10以外の変異(E84K、E148Q、L110P-E148Q、P369S-R408Q、R202Q、G304R、S503C)(ヘテロの変異を含む)を認め、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF非典型例とする。

c)  変異がないが、コルヒチンの診断的投与で反応があった場合には、FMF非典型例とする。

家族性地中海熱の診断の難しさ

 一般的に発熱がみられた場合、まず考える疾患は感染症です。

さらに本症の発熱以外の症状はほかの病気でもよくみられる症状であるため発症初期は風邪などの感染症やベーチェット病、PFAPA(周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・リンパ節炎症候群)など他の疾患と診断され、本症と診断されるまでに長い年月がかかることもあります。

そこで、発熱発作が出現した場合には、発熱が出た期間やその程度、他に随伴した症状などを自身で記録して頂き、受診時に提示していただくと、診療の助けとなります。本症を疑った場合、血液検査や画像検査、遺伝子検査を行ます。発作時には血液検査で好中球を主体とする白血球増多、赤沈の亢進、CRPの上昇、血清アミロイドA(SAA)の上昇など一般的な炎症反応がみられます。発作がない期間は、この炎症所見は陰性です。

また、各部位での炎症の程度を見たり臓器の状態を調べるためにレントゲン検査やCT検査が行われます。診断のために遺伝子検査を行うこともありますが症例によっては遺伝子変異が同定されなくても、臨床診断で家族性地中海熱と診断され、コルヒチンが有効な症例も報告されています。そのような経緯から現状としては、MEFV遺伝子検査ですべて診断できるというわけではないことに注意が必要です。

家族性地中海熱の治療

根治療法はなく、痛風で使われることが多いコルヒチンという炎症を抑える内服薬が治療の中心です。

コルヒチンは症状の改善や、炎症に伴うアミロイドーシスの発症予防に効果的とされています。この薬は発作時のみの使用では効果が少なく、連日投与が必要です。8割以上の患者でコルヒチンが有効とされますが十分なコルヒチン治療で効果を認めない場合や、下痢や吐き気などの副作用によりコルヒチン内服ができない場合は、生物学的製剤であるカナキヌマブを使用する場合もあります。

家族性地中海熱の予後

長期的予後で重要となるのはアミロイドーシスによる臓器障害です。

アミロイドーシスとはアミロイドと呼ばれるナイロンに似た線維状の異常蛋白質が全身の様々な臓器に沈着し、機能障害をおこす病気の総称です。特に本症では腎不全に至るアミロイドーシスが最も重症な合併症です。

日本の症例におけるアミロイドーシスの合併頻度は5%以下と高くはありませんが、早期診断の上、コルヒチンをしっかり内服することでアミロイドーシスを抑制することができると言われています。

本症は継続的なコルヒチンの内服を行えば大きな制限なく普通の生活を送ることができます。​​また、発熱発作を引き起こす原因として、感染症や怪我、手術や心理的ストレスなどが考えられています。規則正しい生活を過ごし過労やストレスを避ける事が推奨されます。

<リファレンス>

日本小児リウマチ学会 自己炎症性疾患ガイドライン2017
日本リウマチ学会 家族性地中海熱
難病情報センター 家族性地中海熱(指定難病266)
​大谷清孝 他:当院で経験した家族性地中海熱非典型例の小児 2 例小児感染免疫 28: 271-277,2016
岸田 大 他:家族性地中海熱の診断と治療 信州医誌,67⑷:229~240,2019

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