機能性ディスペプシア|clila疾患情報

【目次】
1.機能性ディスペプシアとは
2.機能性ディスペプシアの原因
3.機能性ディスペプシアの症状
4.機能性ディスペプシアの診断
5.機能性ディスペプシアの治療

 

1.機能性ディスペプシアとは

機能性ディスペプシア(FD:FunctionalDyspepsia)は機能性胃腸障害とも呼ばれ、症状を説明出来るような器質的、全身性、代謝性疾患がないにも関わらず、食後腹部膨満感、早期満腹感、心窩部痛、心窩部灼熱感等の消化器症状を慢性的に呈する疾患のことです。これまで神経性胃炎やストレス性胃炎などといわれていたものですが、実際には炎症を起こしていない場合もあることから、近年、機能性ディスペプシアという病気の概念ができ、症状に合わせた適切な治療が受けられるようになってきています。日本人の機能性ディスペプシアの有病率は、健診受診者の11-17%であり、上腹部症状を主訴に病院を受診した患者さんの45-53%であると報告されています。

 

2.機能性ディスペプシアの原因

胃に本来備わっている運動機能に問題が起きて症状を起こしていると考えられています。消化管の蠕動運動によって口から入った食物は適量ごとに十二指腸へ食べ物を送り出されます。消化管の一部である胃の蠕動運動が弱くなると食物の流れが停滞して症状を起こします。様々な要因によってこうした胃の運動機能に異常が生じることが原因になって症状につながると考えられています。その要因になるのは、過食や高脂肪食、不規則な生活、飲酒や喫煙、過労や睡眠不足、精神的なストレスなどが指摘されています。また過食により胃の強い膨満感を感じたり、唐辛子等の刺激物を摂取することにより心窩部の灼けるような痛みを感じることがあります。胃酸過多・ピロリ菌感染なども知覚過敏や運動障害を悪化させる要因だと考えられています。

 

3.機能性ディスペプシアの症状

「少し食べただけですぐにお腹がいっぱいになる」「キリキリ、シクシク胃が痛む」「食後に必ず胃が重苦しくなる」といった症状が生じます。食べ物が胃に入ってくると胃の上部が膨らみますが、このタイミングで胃の上部が十分に広がらないと少し食べただけで満腹感を感じます。通常、胃酸が分泌されても胃部に痛みは感じませんが、胃酸に対して知覚過敏の状態になると、みぞおちに痛みが出たり、焼けるような感じが生じます。胃酸が多く分泌されるのは食後ですが胃酸は空腹時でも分泌されているため、食後だけでなく空腹時に胃痛が起こることもあります。蠕動運動が弱く食べ物を送り出せないといつまでも胃に食べ物が残ったままになり、胃もたれやお腹の張りにつながります。

 

4.機能性ディスペプシアの診断

機能性ディスペプシアは器質的、全身性、代謝性疾患が無いことが前提の病気のためそれを確認することが重要です。問診や症状だけで診断をすると、消化性潰瘍や癌等をはじめ、何らかの病気の見落としに繋がる可能性があるからです。そのため、血液検査などの検体検査、消化管内視鏡検査、腹部超音波検査、腹部CT検査などが行われ、それらはいずれも異常を認めません。腹痛や心窩部痛は肝臓や胆嚢、膵臓といった胃以外の消化器の病気の可能性もあるため画像検査により除外する必要があります。

1)問診

問診で重要なことは慢性的な心窩部症状が存在することの確認です。繰り返す嘔吐、吐血、タール便(黒色便)、嚥下障害、発熱、体重減少、貧血症状、胃食道逆流症の存在を疑わせる胸焼けや呑酸症状、膵疾患を疑わせる背部痛などを伴うことはほとんどありません。症状の原因となりうる糖尿病や膠原病などの合併、機能性ディスペプシアと合併頻度の高い過敏性腸症候群やうつ病の存在にも注意して問診が行われます。ストレスや食生活の変化、薬剤の使用状況、家族歴、既往歴の聴取も行います。家族歴は消化器系の悪性腫瘍やヘリ コバクター・ピロリ感染、胃・十二指腸潰瘍の関与、既往歴では腸管の細菌感染症後に機能性ディスペプシアの発症リスクが高くなることがあるため聴取されます。

1)検体検査

血液、尿、便などの検体検査で積極的に機能性ディスペプシアを診断することができる項目は残念ながら存在しません。このため検体検査は器質的疾患、全身性疾患、代謝疾患の可能性を否定することを目的として行われます。貧血や炎症の有無の確認、肝臓や胆道疾患、膵疾患の除外にも有用です。悪性腫瘍の診断の参考として腫瘍マーカーを測定します。尿検査は糖尿病などの疾患や膠原病など腎障害を伴いやすい疾患の可能性を否定するために重要です。便潜血検査は大腸癌をはじめとする消化 管出血を伴う疾患のスクリーニングに有用です。これらの一般的な検体検査に加えてヘリコバクター・ピロリ菌の検査を行い、感染の有無を確認することが重要です。もし、ヘリコバクター・ピロリ菌感染の確認が出来た場合、除菌をすることで機能性ディスペプシアの症状を軽快させることができる場合があります。 

3)消化管内視鏡検査(胃カメラ)及び画像検査

機能性ディスペプシアの診断のためには器質的疾患の除外が必要であり、心窩部痛や胃もたれ症状を呈する代表的な疾患である胃・十二指腸潰瘍や胃癌、逆流性食道炎等を除外する目的で上部消化管の内視鏡検査(胃カメラ)を行うことは極めて重要です。また、内視鏡検査では診断出来ないような消化器疾患の除外のために腹部単純レントゲン検査、腹部超音波検査(エコー検査)、腹部CT検査、腹部MRI検査などの画像検査が有効な場合があります。

 4)消化管機能検査 

消化管の運動を評価する検査として胃排出能検査、胃の適応性弛緩や胃の伸展知覚過敏を検討する検査がありますが、これらの検査は研究的な意味合いが大きく、臨床的な有用性は確立していません。そのためこれらの消化管機能検査を行う必要性は現状では高くないと考えられます。

 

5.機能性ディスペプシアの治療

機能性ディスペプシアの治療では投薬と生活習慣・食習慣の改善が重要になります。
薬物療法としては大きく2つに分けられます。一つは胃酸の分泌を抑え、胃酸による胃の痛みや胸焼けの症状を抑えるため胃酸分泌抑制薬があります。もう一つは胃の動きを促し、胃の運動を正常に近づけることで胃もたれや腹満感の症状を抑えるため消化管運動改善薬があります。機能性ディスペプシアは様々な要因が絡み合っているためどの薬が合うかは患者さんによって違い、症状が改善するまでの時間も人それぞれです。ストレスなどの心理的要因が関与することから一部の抗不安薬や抗うつ薬にも症状の改善効果があることが報告されています。また、漢方薬のなかには胃の動きを改善したり食欲を増す作用などによって症状の改善に繋がるものがありますが、これらの方法には十分な科学的根拠があるとはいえません。そのため、機能性ディスペプシアの治療薬として胃酸分泌抑制薬と消化管運動改善薬が第一選択薬として推奨され、抗不安薬や抗うつ薬、漢方薬は第二選択薬とされています。症状が重い場合は併用することもあります。

また、自律神経の乱れも機能性ディスペプシアの原因となりうるため、バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動により生活リズムを取り戻し、自律神経の働きを整えることも重要です。また、喫煙習慣のある方はできる限り禁煙しましょう。よく噛むこと、食べ過ぎないこと、食べてすぐに運動をしないこと、「胃に優しい食べ方」をすることも重要です。胃の症状があるときには脂肪には胃の動きを止める作用があるため高脂肪食は避けた方が良いです。アルコールは胃酸の分泌を増やすため飲み過ぎに注意する必要があります。
治療して症状がなくなった後、数ヵ月の間に約5人に1人が再発すると言われています。再発を予防する方法やどのような人が再発するかはまだわかっていません。仕事や学業などの環境因子や季節性など、症状が出るきっかけとなるストレスが明らかになっている患者さんはそれらのストレスをできるだけ少なくする、あるいは受け止め方を変えるなどの予防策をとることをお勧めします。

 

姫野愛子消化器内科医2010年国立大学医学部卒業。消化器内科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み一般内科及び消化器内科疾患を対応。内科認定医、消化器病専門医、内視鏡専門医を取得。

 

<リファレンス>
日本消化器病学会 機能性ディスペプシア(FD)診療ガイドライン2021

日本消化器病学会誌 2014;111:1049―1057

日本消化器病学会誌2016;113:919―926

Oshima T, Miwa H : Epidemiology of Functional Gastrointestinal Disorders in Japan and in the World. J Neurogastroenterol Motil 21 ; 320―329 : 2015

三輪洋人:本邦における過敏性腸症候群の症状発症契機と患者特性男性一般生活者に対するインターネット調査より 新薬と臨床 60 ; 2130― 2147 : 2011

 

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