性器ヘルペス|疾患情報【おうち病院】

記事要約

性器ヘルペスとは単純ヘルペスウィルス(Herpes simplex virus)1型または2型の感染により発生する性感染症の一つです。性器ヘルペスの原因・症状と治療方法・改善対策を解説

性器ヘルペスとは

性器ヘルペスとは、単純ヘルペスウィルス(Herpes simplex virus)1型または2型の感染により発生する性感染症の一つです。主には1型(HSV-1)は口唇に、2型(HSV-2)は外陰部に症状(水疱・潰瘍形成、痛みなど)を起こすことが多いと考えられていますが、性交渉時の口-性器接触後にHSV-1が外陰部に症状をもたらすこともあります。

原因・感染経路

 ウィルスは通常、患者皮膚の水疱または潰瘍部に存在し、初感染は患者の病変部との接触によって起こります。ウィルスが体内に入ると、神経細胞を伝ってウィルスは一旦脊髄近くの神経節内に入り、そこで存在し続けます。宿主の体内にトリガー(免疫力の低下など)が生じた時に、ウィルスが増殖、神経を伝い感染が生じた皮膚周辺に水疱、潰瘍を形成します。

《1》HSV-1 

HSV-1は、主に口−口同士の接触(口周りの水疱・潰瘍部や唾液との接触)によって感染が生じると考えられており、口周りに症状が出現した場合には、口唇ヘルペスと言われますが、外陰部−口周りの接触によって性器に感染が伝播することもあります。

《2》HSV-2 

主には性交時において、病変部位(水疱・潰瘍部)、外陰部分泌液との接触により、感染が伝播します。

HSV-1、HSV-2どちらのウィルスも、水疱や潰瘍が明らかに見られるときには感染のリスクが特に高まっていますが、皮膚症状があまり明らかでない場合にも感染が成立する場合もあり、注意が必要です。

特殊な感染経路として、母児感染が知られています(7.合併症を参照)。

症状

感染成立時後の症状の発現様式は、次の4通りに分けることができます。

《1》不顕性感染 

ウィルスに感染しても無症状で経過する場合のことを指します。症状がなくてもウィルスは神経細胞に潜んでいますが、経過中何らかの原因で免疫力が低下したり、高齢になってから発症することがあります。

《2》初感染初発症状 

2〜10日の潜伏期を経て初発症状が出現します。症状の出現する数時間前にしばしば腰痛、大腿〜膝の痛みなどが感じられることもあります。性器の特徴的な症状は、大陰唇・小陰唇部から膣前庭部・会陰部にかけて、浅い潰瘍・水疱性病変の多発です。また、殆どの症例で鼠蹊リンパ節の腫脹と圧痛が見られます。発熱、悪寒、筋肉痛、全身倦怠感、嘔気など、インフルエンザに類似する症状を呈することもあります。時に強い疼痛から排尿困難・歩行困難、また頭痛・項部硬直など髄膜刺激症状がみられることもあります。

《3》非初感染初発症状 

不顕性感染の経過から発症する場合を指します。初感染時によってHSVの抗体がある程度産生されているため、初感染初発症状に比べ、症状も軽度で、全身症状が目立たないことが多いです。

《4》再発 

一般的には、症状の出現が穏やかであることが多く、症状持続期間の平均日数も10日(初感染初発時の平均は19日)も短いと考えられています。ウィルス排泄期間も、通常は2〜5日間と考えられています。典型的な症状としては、外陰部両側の小水疱、潰瘍形成など。外陰部皮膚に亀裂が入ったり、外陰部の違和感程度の症状であることもあります。外陰部症状出現前には、腰・臀部・大腿部の痛みや違和感もよく見られます。

基礎疾患などにより免疫力が極端に低下している場合には、再発を繰り返したり、再発時の症状も重篤になる傾向があります。

合併症等

初感染の際には、時に以下の合併症が見られることがあります。

《1》髄膜炎 

発生率は8%ほど、という報告もあります。症状から髄膜炎が疑われる場合には、診断のために髄液穿刺を行います。

《2》腰仙部神経根炎 

発生率は2%ほど、という報告もあります。仙骨副交感神経叢の機能が影響を受け、尿閉・馬尾症候群・下肢筋力低下などが見られます。

《3》直腸炎 

男性同士の性交渉を行う人に見られることの多い合併症です。他の感染症(淋菌、クラミジア、梅毒)においても直腸炎が発生することもあるため、鑑別が必要です。

他、特殊な合併症や影響について、以下に記載します。

(1)HIVとの重複感染

HSV-2とHIVは互いに影響し合うことが分かっており、新たにHIV感染症にかかるリスクを約3倍に高め、またHIVとHSV-2に重複感染している人は、他の人にHIVを感染させる可能性が高くなると言われています。HSV-2は、HIV感染者の中で最も一般的な感染症で、HIV感染者の60%から90%が感染していると言われています。

HIV感染者(さらに他の免疫不全を持つ者)で、HSV-2にも感染している場合、症状がより深刻になり、再発がより頻繁となることがあります。HIV感染症が進行した場合には、HSV-2は、稀に、髄膜脳炎、食道炎、肝炎、肺炎、網膜壊死、播種感染など、さらに深刻な合併症を起こすことがあります。

(2)妊娠とヘルペス

胎内感染による先天性感染症は、妊娠初期に性器ヘルペスの初感染を発症した場合に起こりうる合併症ですが、発症の可能性は極めて稀で、感染後の多くは健康な児として出生します。

一方、産道感染による新生児ヘルペスは発症のリスクが比較的高く、問題視されています。リスクは初感染妊婦で50%、再発型妊婦では0〜3%程度とされ、分娩時に産道でHSVに接触することで引き起こされます。新生児ヘルペスによって後に重篤な神経障害が発生したり、死の危険もあるため、分娩時に性器ヘルペスが判明した場合は、児への産道曝露を避けるため、通常帝王切開による分娩を行います。また、陣痛発来前だが分娩となりそうなあたりの期間より一ヶ月以内に初感染が確認された場合や、一週間以内に再発が確認された場合にも、帝王切開が考慮されます。

(3)心理社会的影響

性器ヘルペスの症状の出現が、ある種の社会的偏見や心理的な苦痛をもたらしたり、生活の質や性的関係おいて重大な影響を与えることもあります。ただ、特殊な免疫低下状態を有する人は頻繁に再発が見られることも多いことから、生活の質への影響は免疫正常の人に比べ、重大になる傾向があります。

診断の方法

性器ヘルペスの症状(外陰部にできる紅斑上に集簇する小水疱または潰瘍)により、臨床的に診断されることが多いですが、典型的な症状を欠く場合には、確定診断のためにウイルス抗原を検出する迅速検査を行います。

日本で保険適応として実施可能な検査は以下の2つです。

  1. 塗抹標本の蛍光抗体法によるHSV抗原検査︰実用的だが、感度は低いです。
  2. 免疫クロマト法による検査:日本では「プライムチェック」という診断補助キットが普及しています。

2の免疫クロマト法では、水疱・潰瘍部位から検体(滲出液)を採取し、迅速に結果が得られるため、1と比較しさらに実用的と言えます。ただし、精度は比較的高いのですが、偽陰性の場合も見られるため、診断には注意が必要です。

他には、病変の塗抹標本のパパニコロー染色で、ウィルス性巨細胞を検出し感染を証明する方法もあります。

採血で血液中の抗体を調べる方法もありますが、偽陰性となる確率が比較的高いこと、水痘に罹患したことのある人には疑陽性と出る可能性があること、また感染がいつ生じたかの判断が難しくなることもあり、あまり勧められていません。

治療の方法

抗ウィルス薬の内服が有効です。病状出現の早期に治療を開始することで、ウィルスの増殖を抑え、治癒までの期間を短縮することができます。ただ、神経節に潜伏しているウィルスの完全な消失は望めません。 

アシクロビル・バラシクロビル・ファムシクロビルが有効で、症状に合わせた推奨用量・用法は次のとおりです。

【軽・中等症例】 

  • アシクロビル(ゾビラックス®️ 錠)(200mg):1回1錠1日5回 5日間 経口
  • バラシクロビル塩酸塩(バルトレックス® 錠)(500mg) :1回1錠1日2回 5日間 経口 ただし初発では10日間まで可能
  • ファムシクロビル(ファムビル®️錠)(250mg):1回1錠1日3回 5日間 経口

 【重症例】

  • アシクロビル(ゾビラックス®️点滴静注用5mg/kg/回):8時間毎 7日間点滴静注

 【再発抑制】 

  • バラシクロビル塩酸塩(バルトレックス® 錠)(500mg):1回1錠1日1回 1年間 経口 

 【早期短期】 

  • ファムシクロビル(ファムビル®️錠)(250mg):1回4錠1日2回 1日間 経口 

外用薬は特に軽症例において、5%アシクロビルや3%ビダラビン軟膏が処方されることもあります。典型的な用法については、1日数回、5〜10日間患部に塗布、とあります。ただし、ウィルスの患部からの排泄を完全に抑えることはできず、病気の短縮も期待はできません。

妊娠中の場合は、胎児への安全性を考慮し、アシクロビル・バラシクロビルが選択されます。 

相談の目安

単純ヘルペスウィルス罹患時には、無症状で経過する場合も多く、水疱等外陰部症状に気付くことなく自然軽快することもよくあります。

しかし、初感染時の初発症状が時に重篤になるケースも見られます。 

  • 水疱、潰瘍の多発 
  • 外陰部周辺の著しい疼痛 
  • 排尿困難 
  • 発熱 

上記のような症状が著しい場合には、早期の薬物治療導入によりウィルスの増殖を抑え、病状の悪化を和らげ、症状の緩和が早まることが期待できます。よって、強い症状が出現しつつある際には、なるべく早くに医療機関へ相談することが望ましいです。

妊娠中、特に妊娠後期の女性が性器ヘルペス症状を認める場合には、分娩が始まると児への産道感染の懸念が高まるため、速やかに担当医に相談をすることが望ましいです。

疫学的整理・海外動向

 日本では女性の初感染ではHSV-1,HSV-2が同程度であることが多いですが、再発例の殆どからはHSV-2が検出されています(3)。

感染のリスクは 

  • 性的パートナーの数
  • 性交頻度
  • コンドームを使用しない性交機会

に比例し上昇すると考えられています。

世界全体においては、50歳以下人口の67%,37億人がHSV-1に、15~49歳人口の13%,4億9100万人がHSV-2に感染していると推定されています(1)。米国では、少なくとも14~49歳の年齢人口において、約6人に一人が罹患していると推定されています(2)。

HSV感染症は、上記データが示すようにありふれた疾患ではありますが、先進国においてはHSV-1の抗体価保有率の低下が見られるところもあり、これまではあまりみられなかった年長者での初感染者が増える心配もされています。

一旦感染が成立し症状が出現すれば、症状を緩和するための治療方法は存在しますが、現在有効な予防・治療ワクチンは存在せず、症状再発や感染の伝播を完全に回避することは困難とされています。

再発によるQOLの低下や、ウィルスの伝播を防ぐために、将来的にはHSVのヒトにおける免疫機能回避メカニズムがより解明され、治療的ワクチンあるいは再発予防ワクチンが開発されることが期待されています。

感染・予防対策

皮膚や粘膜に明らかなヘルペス症状が見られる時に、最も感染力が高くなりますが、自覚症状や皮膚所見が見られない時にも感染が伝播することはあり、注意が必要です。

特に明らかな症状が見られる人は、他人との接触や唾液が触れた物品の共有を避け、性行為も控えるべきです。またオーラルセックスも同様に控える必要があります。

コンドームの正しい使用は、性器ヘルペスの伝播のリスクを少なくすることができる可能性はありますが、コンドームで予防できない部位に病状が出現することもあるため、予防方法として確実な方法ではありません。

妊娠後期の女性に性器ヘルペスの症状が発生した場合は、分娩を行う予定の医療機関の担当医やスタッフに(感染を)知らせておくべきです。新生児ヘルペスの発症リスクが高くなるため、新生児ヘルペス感染の予防(薬物治療の開始、帝王切開の実施等)を検討する必要が出てくるからです。

診断・検査の難しさ/鑑別方法

性器に水疱・潰瘍を形成する特徴のある原因疾患としては、以下のようなものが考えられます

・感染症:梅毒、軟性下疳 

梅毒の性器症状は、痛みがなく、潰瘍は硬めなことが多く、硬性下疳と言われます。

軟性下疳は、Haemophilus ducreyiの感染による性器の有痛性丘疹・潰瘍及び化膿をきたす鼠蹊リンパ節腫大が特徴的な疾患です。これらは、ヘルペスの臨床症状と似通った特徴を持つため、皮膚所見のみでは診断が難しいことも多いです。

・ベーチェット病(自己免疫疾患) 

ベーチェット病は、特徴的な4つの症状(口腔ない粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状(結節性紅斑や毛嚢炎など)、眼症状(ぶどう膜炎)を主症状とする全身炎症性疾患です。日本では特定疾患に指定されており、発生頻度の高い病気ではありません。しかし、外陰部潰瘍の難治、再発例などの症例においては、全身症状や血液検査などの結果を確認の上、ベーチェット病の可能性が高いと判断された場合には、ステロイド外用薬や免疫抑制剤を使用し、奏功することもあります。

・薬剤副作用

「特定の薬剤を使用後、決まって同じ場所、それが外陰部に皮膚の水疱や潰瘍として現れる場合には、固定薬疹の可能性があります。既往歴、薬剤使用歴など詳細の問診の他、皮疹の経過の確認や、皮疹が出る場所においてパッチテストを行うことで診断が可能となることもあります。治療は、原因薬剤の中止です。

<リファレンス>

(1)WHO

(2)CDC “Genital Helpes”

(3)産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020 

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