妊娠糖尿病|疾患情報【おうち病院】

記事要約

妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常です。妊娠糖尿病の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

妊娠糖尿病とは

妊娠中に認める糖代謝異常には、妊娠する前からすでに糖尿病に罹患している糖尿病合併妊娠と、妊娠中に発見される糖代謝異常があります。後者には、妊娠糖尿病と妊娠中に診断された明らかな糖尿病があります。妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常で、糖尿病合併妊娠と妊娠中の明らかな糖尿病は含めません。

糖代謝異常とは、血糖を下げるインスリンの量が不足したり働きが不十分となったりして血糖がうまく調節できない状態です。妊娠中は、胎盤から分泌されるホルモンの影響でインスリンの働きが抑えられインスリン抵抗性が強くなり、非妊娠時に比べてインスリンが効きにくくなります。それにより、妊娠中は血糖値が上がりやすく、この影響は妊娠後期になるにつれて強くなっていきます。

妊娠糖尿病は糖尿病に至っていない軽度の糖代謝異常であっても、胎児の過剰発育が起こりやすくなるなど周産期のリスクを高めますので、きちんと検査を受け血糖管理を行っていくことが大切です。 

妊娠糖尿病の疫学的整理

近年の晩婚化や晩産化の影響で妊娠糖尿病の方は増加傾向にあります。およそ7~9%の妊婦が、妊娠糖尿病と診断されています。

妊娠糖尿病のリスク要因

妊娠糖尿病のリスク要因として、糖尿病の家族歴、肥満、巨大児出産の既往、35歳以上の年齢、尿糖陽性、妊娠高血圧症候群、羊水過多症などがあります。

妊娠糖尿病の症状

糖代謝異常妊娠では、正常妊娠と比較して母児合併症のリスクが高くなります。

〈母体側の合併症〉

  1. 糖尿病合併症:糖尿病網膜症・糖尿病腎症の悪化、糖尿病ケトアシドーシス、低血糖
  2. 産科合併症:流産、早産、妊娠高血圧症候群、羊水量の異常、肩甲難産

〈児側の合併症〉

胎児・新生児合併症;胎児死亡、先天異常、巨大児、肩甲難産に伴う分娩時外傷、新生児低血糖、新生児呼吸窮迫症候群、多血 症、高ビリルビン血症など

妊娠糖尿病の診断方法

全妊婦を対象に妊娠初期と中期に妊娠糖尿病のスクリーニング検査を行います。特に肥満、糖尿病の家族歴がある方はリスクが高くなるので妊娠初期スクリーニングは大切です。妊娠初期で陰性であっても妊娠経過とともにインスリン抵抗性は増加するため妊娠中期にもう一度スクリーニング検査を行います。スクリーニングは以下の基準で行います。

1)‌妊娠初期に随時血糖測定(≧95もしくは100mg/dL を陽性)

2)‌妊娠中期(24~28週)に 50gブドウ糖負荷試験(≧140mg/dL を陽性)、あるいは随時血糖測定(≧100mg/dL を陽性)
スクリーニング検査で陽性の場合、75gOGTT (75gブドウ糖負荷試験)を行い下記の診断基準を満たすか調べます。

なお、空‌腹時血糖値≧126mg/dLの時には、75gOGTTは行わず、“妊娠中の明らかな糖尿病”と診断されます。随時血糖値≧200mg/dLの時には、75gOGTTは高血糖を招く恐れがあるため直ちには行わず、空腹時血糖値やHbA1cを測定し“妊娠中の明らかな糖尿病”かどうか調べます。

【診断基準】日本糖尿病・妊娠学会と日本糖尿病学会との合同委員会:妊娠中の糖代謝異常と診断基準の統一化について 糖尿病58:802,2015より引用

1)妊娠糖尿病 gestational diabetes mellitus (GDM)

75gOGTT において次の基準の 1 点以上を満たした場合に診断する。

 ①空腹時血糖値 ≧92mg/dl (5.1mmol/l)

 ②1時間値 ≧180mg/dl (10.0mmol/l)

 ③2時間値 ≧153mg/dl (8.5mmol/l)

2)妊娠中の明らかな糖尿病 overt diabetes in pregnancy (注1) 

 以下のいずれかを満たした場合に診断する。

 ①空腹時血糖値 ≧126 mg/dl

 ②HbA1c 値 ≧6.5%

*随時血糖値≧200 mg/dl あるいは 75gOGTT で2時間値≧200 mg/dl の場合は、妊娠中の明らかな糖尿病の存在を念頭に置き、①または②の基準を満たすかどうか確認する。(注2)

3)糖尿病合併妊娠 pregestational diabetes mellitus 

 ①妊娠前にすでに診断されている糖尿病

 ②確実な糖尿病網膜症があるもの

(注1)..妊娠中の明らかな糖尿病には、妊娠前に見逃されていた糖尿病と、妊娠中の糖代謝の変化の影響を受けた糖代謝異常、および妊娠中に発症した1型糖尿病が含まれる。いずれも分娩後は診断の再確認が必要である。

(注2)..妊娠中、特に妊娠後期は妊娠による生理的なインスリン抵抗性の増大を反映して糖負荷後血糖値は非妊時よりも高値を示す。そのため、随時血糖値や75gOGTT 負荷後血糖値は非妊時の糖尿病診断基準をそのまま当てはめることはできない。

これらは妊娠中の基準であり、出産後は改めて非妊娠時の「糖尿病の診断基準」 に基づき再評価することが必要である。 

妊娠糖尿病の治療法

妊娠中の血糖コントロールは、母子の合併症を予防するために重要です。

まずは食事療法で適正な体重増加と血糖コントロールを行っていきます。血糖値は食前100mg/dl未満、食後2時間120mg/dl未満を目標に管理します。1日3食での血糖コントロールが難しい場合には、1日あたりの摂取エネルギーは同じでも、1回あたりの食事量を減らしその分間食をプラスして食事を5〜6回に分割して摂るようにします。そうすることで食後の高血糖を予防することができます。

適切な運動療法は、血糖コントロールの改善や適正な体重管理につながる効果がありますが、切迫早産や切迫流産など妊娠の経過によっては運動が実施できない場合もあります。必ず主治医の許可を得てから行い、運動内容についても相談してください。

食事療法や運動療法で血糖コントロールが十分でないときは薬物療法としてインスリン治療を行います。インスリンの基礎量と追加量を補充する強化インスリン療法で厳格な血糖管理を行うことが推奨されています。インスリン抵抗性が増大する妊娠中期以降は必要に応じてインスリンを増量していきますが、多くの場合で産後にはインスリンを減量あるいは中止できます。

<理想的な体重増加について>

妊娠中の理想的な体重増加は、妊娠前の肥満の程度によって異なります。

妊娠前のBMI*値 

18.5未満 の妊婦では9〜12kg

18.5〜25未満 の妊婦では7〜12kg

25以上 の妊婦では概ね5kgの体重増加が目標とされます。

*BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)  

妊娠糖尿病の出産後の注意点

インスリンの必要量は分娩後に急速に低下するため、分娩後は低血糖に十分注意しインスリンの減量や投与中止を行います。

妊娠糖尿病の方は、将来、糖尿病を発症することが高いと言われています。そのため、妊娠糖尿病と診断された女性は、妊娠による糖代謝への影響がなくなる分娩後 6〜12 週にブドウ糖負荷試験を行い定期的に経過観察を行い、食事療法や運動療法を行うことが大切です。

<リファレンス>

公益社団法人 日本産科婦人科学会 妊娠糖尿病
日本糖尿病・妊娠学会と日本糖尿病学会との合同委員会:妊娠中の糖代謝異常と診断基準の統一化について
一般社団法人 日本糖尿病・妊娠学会 糖尿病と妊娠に関するQ&A
一般社団法人 日本内分泌学会 妊娠糖尿病
糖尿病治療ガイド2020-2021 日本糖尿病学会 編・著
糖尿病診療ガイドライン2019 日本糖尿病学会 編・著
産婦人科診療ガイドライン 産科編2020 公益社団法人 日本産科婦人科学会、公益社団法人 日本産婦人科医会
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 妊娠と妊娠糖尿病

おうち病院
おうち病院