ギラン・バレー症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

ギラン・バレー症候群とは、細菌やウイルス感染を契機に発症することが多く、急速に進行するまれな末梢神経障害です。ギラン・バレー症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

ギラン・バレー症候群とは

細菌やウイルス感染を契機に発症することが多く、急速に進行するまれな末梢神経障害です。一般的には、風邪などの上気道感染や下痢、胃腸炎の1〜4週間後に両足の筋力低下が出現し、つまづいたり、階段昇降が難しくなるといった症状を認めるようになります。筋力低下は徐々に上行し、両上肢にも及びます。また同時に手足のしびれや異常感覚といった知覚障害も出現します。重症例では顔面や呼吸筋にまで麻痺が及び、顔面神経麻痺、複視、嚥下障害、呼吸困難を認めたり、歩行不能になることがあります。まれに自律神経が障害されることがあり、低血圧、致死的不整脈、腸閉塞、膀胱・直腸障害を呈する症例も見られます。これらの神経症状は急速に進行しますが2〜4週で症状はピークに達し、その後は緩やかに改善傾向を示します。症状が軽い場合には自然治癒することもあります。治療法としては、経静脈的免疫グロブリン療法、血漿浄化療法の有効性が確立されています。

またギラン・バレー症候群は医薬品によっても引き起こされることが知られています。主に、狂犬病ワクチン、インターフェロン製剤、抗ウイルス薬、抗癌剤などが挙げられます。

2021年7月、米食品医薬品局 (FDA)は新型コロナウイルスワクチン(ジョンソン・アンド・ジョンソン社)の接種によりギラン・バレー症候群の発症リスクが高まる可能性があると警告しています。また2021年9月には欧州医薬品庁 (EMA) により、新型コロナウイルスワクチン(アストラゼネカ社)の極めてまれな副反応として本症が追加されています。 

ギラン・バレー症候群の原因

ギラン・バレー症候群の発症機序は未だ完全には解明されていませんが、自身の免疫機構が自身の末梢神経を攻撃してしまう異常な免疫反応(自己免疫)が原因と考えられています。免疫機構が暴走するきっかけとしては、風邪や胃腸炎を引き起こすウイルス、細菌による先行感染や一部の医薬品が挙げられます。ギラン・バレー症候群の約70%に発症4週間前以内に先行感染が見られます。先行感染のうち約60%が上気道感染、約20%が消化器感染であるとされます。

本症との関与が知られているものには以下が挙げられます。

【先行感染】

  • カンピロバクター(Campylobacter jejuni)
    ヒトに対する下痢原性が確認されている細菌で、食中毒の原因菌として知られています。ニワトリ、牛などの家畜や野鳥、ペットなど多くの動物が保菌しています。通常の加熱調理で死滅するため、しっかり調理(中心部を75℃以上で1分間以上加熱)することで予防が可能です。米国ではカンピロバクター腸炎1000例に1例程度の頻度でギラン・バレー症候群が発生すると推定されています。
  • サイトメガロウイルス、EBウイルス
    多くのヒトが一生のうちに(特に乳幼児期から小児期)に感染を経験するといわれています。通常は無症状か風邪の様な症状を呈するだけで治癒します。しかし、ごく一部の例で本症を発症する可能性があることが知られています。
  • 肺炎マイコプラズマ (Mycoplasma pneumoniae)
    飛沫や接触によって感染し咳や肺炎を起こす細菌です。小児に多く見られますが成人でも感染することがあります。
  • ジカウイルス
    蚊によって媒介されるウイルスでアフリカ、中南米、アジア太平洋地域で発生を認めます。感染しても無症状か軽い症状で済むことが多く比較的予後良好な感染症です。2016年WHOはジカウイルス感染がギラン・バレー症候群の原因になることを報告しています。

【医薬品】

厚生労働省によると医薬品によるギラン・バレー症候群の場合、「投薬開始後比較的早期に発症する例が多く、特に4週間以内の場合は医薬品を疑い、投与を中止すべきである。」とされています。

これまでにギラン・バレー症候群、類似症状の末梢神経障害として報告された主な医薬品は以下のものがあります。

  • ワクチン類
    統計学的に有意に相関するといわれているのは狂犬病ワクチンと1976年に米国で行われたSwine flu H1N1インフルエンザA/NJ/76ワクチンがあります。しかし、1976年以降のインフルエンザワクチン接種と本症の関連はおおよそ否定されています。
    ※2021年7月、米食品医薬品局 (FDA)は新型コロナウイルスワクチン(ジョンソン・アンド・ジョンソン社)の接種によりギラン・バレー症候群の発症リスクが高まる可能性があると警告しています。
    ※2021年9月、欧州医薬品庁 (EMA) により新型コロナウイルスワクチン(アストラゼネカ社)の極めてまれな副反応として本症が追加されています。
  • インターフェロン製剤
  • ペニシラミン製剤
  • ニューキノロン系抗菌薬
  • 抗真菌薬
  • 抗ウイルス薬
    ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬
    非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬
    HIV プロテアーゼ阻害薬
  • 免疫抑制薬
  • モノクローナル抗体製剤
  • 抗悪性腫瘍薬 

ギラン・バレー症候群の相談目安

原因の項であげた感染症状や医薬品の内服・接種の1〜数週間後、突然の下肢の筋力低下(歩行時のつまづき、階段昇降しづらい)、上肢の筋力低下、手足の感覚障害、場合によって顔面筋の麻痺や嚥下障害(飲み込みづらさ)が見られる時は、早期の医療機関受診をお勧めします。

ギラン・バレー症候群の疫学的整理

国内におけるギラン・バレー症候群の発症率は10万人に対し1.15人と推定され、年間発症数は約1400人と報告されています。乳幼児から成人まで幅広い層で発症しますが、平均発症年齢は39歳で男性にやや多いとされます。

海外での発症率は人口100万人に対し9〜16人と推定されています。 

ギラン・バレー症候群の症状

風邪や下痢、胃腸炎などの感染症状の1〜4週間後に両下肢の筋力低下で発症することが多いといわれています。これによりつまづいたり、階段昇降が難しくなるなどを自覚します。筋力低下は徐々に上行し、両上肢に及びます。また手足のしびれや感覚障害を同時に認めることがありますが、筋力低下に比べるとその程度は軽いことが多いとされます。重症になると顔面筋の麻痺や眼球運動障害、嚥下障害などの脳神経障害を認めたり、呼吸筋の麻痺により呼吸困難になることもあります。そのため全体の10〜20%程度に人工呼吸器管理が行われます。また、自律神経が強く障害される場合も重症となりやすく、血圧の変動、不整脈、腸閉塞、膀胱・直腸障害などを認めます。

なお、医薬品の副作用を原因とする場合には医薬品によって異なるものの、服用あるいは接種後およそ2週間以内に発症することが多いと考えられています。

神経症状は急速に進行しますが、2〜4週でピークに達することが多く、その後は緩やかに改善していきます。軽症例では自然に治癒することもありますが、多くは何らかの治療を要します。

重症化を予測する因子としては、高齢発症(多くの報告では50歳以上)、下痢の先行もしくはカンピロバクター感染、発症から入院までの期間が短い(つまり急速に進行)などがあります。 

ギラン・バレー症候群の診断方法

ギラン・バレー症候群は基本的に、病歴、臨床症状に基づいて診断されます。診断の確認や他の疾患を除外するために血液検査、神経伝導速度検査、脳脊髄液検査を行います。

  1. 血液検査
    抗ガングリオシド(糖脂質)抗体の測定は特異的診断的価値が認められています。その陽性率は約60%と報告され、特にカンピロバクター、サイトメガロウイルス、EBウイルス、マイコプラズマの先行感染とは有意な関連があります。しかし、抗体価と重症度は相関しないと報告されています。また本症で合併しやすい低ナトリウム血症、高クレアチンキナーゼ血症の把握も行います。
  2. 神経伝導検査
    この検査では多くの例で初期から異常が見られ、診断の感度、特異度共に高いとされています。検査の侵襲性も低く、検査当日に結果が出ることも利点となります。
  3. 脳脊髄液検査
    ギラン・バレー症候群では、脳脊髄液中の細胞数は正常だが蛋白上昇を呈する「蛋白細胞解離」が重要な所見であるとされています。しかし、発症1週間以内では約20〜30%の症例で蛋白は正常範囲内であるため、初回の検査で蛋白細胞解離を認めないからといって本症を否定できるわけではありません。

【ギラン・バレー症候群の診断基準】

I.診断に必要な特徴

A.2肢以上の進行性の筋力低下、その程度は軽微な両下肢の筋力低下(軽度の失調を伴うこともある)から、四肢、体幹、球麻痺、顔面神経麻痺、外転神経麻痺の完全麻痺までを含む完全麻痺まで様々である。

B.深部反射消失。全ての深部反射消失が原則である。しかし、他の所見が矛盾しなければ、上腕二頭筋反射と膝蓋腱反射の明らかな低下と四肢遠位部の腱反射の消失でもよい。 

II.診断を強く支持する特徴

A. 臨床的特徴(重要順)

1. 進行:筋力低下は急速に出現するが、4週までには進行は停止する。約50%の症例は2週までに、80%は3週までに、90%以上は4週までに症候はピークに達する。 

2. 比較的対称性:完全な左右対称性は稀である。しかし、通常1肢が障害された場合、対側も障害される。 

3. 軽度の感覚障害を認める。 

4. 脳神経障害:顔面神経麻痺は約50%にみられ、両側性であることが多い。その他、球麻痺、外眼筋麻痺がみられる。また外眼筋麻痺やその他の脳神経障害で発症することがある(5%未満)。

5. 回復:通常症状の進行が停止した後、2~4週で回復し始めるが、数ヶ月も遅れることもある。ほとんどの症例は機能的に回復する。

6. 自律神経障害:頻脈、その他の不整脈、起立性低血圧、高血圧、血管運動症候などの出現は診断を支持する。これらの所見は変動しやすく、肺梗塞などの他の原因によるものを除外する必要がある。

7. 神経症状の発症時に発熱を認めない。 

・非定型例(順不同) 

1.神経症状の発症時に発熱を認める。 

2.痛みを伴う高度の感覚障害 

3. 4週を超えて進行。時に4週以上数週にわたって進行したり、軽度の再燃がみられる。 

4.症状の進行が停止しても回復を伴わない。または、永続的な重度の後遺症を残す。 

5.括約筋機能:通常括約筋機能は障害されない。しかし、症状の進展中に一時的に膀胱麻痺が生じることがある。 

6.中枢神経障害:ギラン・バレー症候群は通常末梢神経障害と考えられている。中枢神経障害の存在は議論のあるところである。小脳性と考えられる強い運動失調、 構音障害、病的反射、境界不明瞭な髄節性感覚障害などの症状が時にみられるが、その他の所見が典型的であれば診断を除外する必要はない。 

B.診断を強く支持する髄液所見 

1.髄液蛋白:発症から1週以降で髄液蛋白が増加しているか、経時的な腰椎穿刺で髄液蛋白の増加がみられる。 

2.髄液細胞:単核球 10/mm3以下

・亜型 

1.症状の発症後1~10週の間に髄液蛋白の増加がみられない。(稀)

2.髄液細胞が 11-50/mm3の単核球 

C.診断を強く支持する電気生理学的所見 

経過中のある時点で症例の80%に神経伝導速度の遅延あるいは伝導ブロックを認め、伝動速度は通常正常の60%以下となる。しかし、症状は散在性であり、全ての神経が障害されるのではない。遠位潜時は正常の3倍にまで延長していることがある。伝導 速度検査は発症数週間までに異常を示さないことがある。F 波は神経幹や神経根近位での伝導速度の低下をよく反映する。20%の症例では伝導速度検査で正常を示す。伝導速度検査は数週後まで異常を示さないことがある。 

III.診断に疑いをもたせる特徴 

1.高度で持続性の非対称性の筋力低下 

2.持続性の膀胱直腸障害 

3.発症時の膀胱直腸障害 

4.髄液中の単核球が 50/mm3以上 

5.髄液中の多核球の存在 

6.明瞭な感覚障害レベル 

IV.診断を除外する特徴

1.ヘキサカーボン乱用の現病歴(揮発性溶剤:n-ヘキサン、メチル n-ブチルケトンなど)。塗装用ラッカー蒸気や接着剤を吸入して遊ぶことを含む。 

2.急性間欠性ポルフィリン症を示唆するポルフィリン代謝異常。尿中へのポルフォビリノーゲンやδ-アミノレブリン酸の排泄増加がみられる。 

3.最近の咽頭または創傷へのジフテリア感染の既往または所見:心筋炎はあってもなくてもよい。

4.鉛ニューロパチーに合致する臨床所見(明らかな下垂手を伴った上肢の筋力低下、非対称性のことがある。)および鉛中毒の証拠。 

5.純粋な感覚神経障害のみの臨床像 

6.ポリオ、ボツリヌス中毒、ヒステリー性麻痺、中毒性ニューロパチー(例えばニトロフラントイン、ダプソン、有機リン化合物)など。これらはしばしばギラン・バレ ー症候群と混同される。


ギラン・バレー症候群の治療

一般にギラン・バレー症候群は予後良好で、自然に軽快する例が多いといわれますが、人工呼吸器管理が必要な例や重篤な後遺症を残す例もあるため早期に治療を始める必要があります。

治療法として、経静脈的※1免疫グロブリン療法、血漿浄化療法という免疫調整療法の有効性が確立されています。近年では、簡便性から経静脈的免疫グロブリン療法が第一選択となることが多くなっています。

また嚥下障害、不整脈、呼吸不全などの症状に対してはそれぞれ対症療法が行われます。回復後、運動機能の後遺症を残す場合は、リハビリテーションによる機能改善が期待されます。

新規治療薬として補体阻害薬であるエクリズマブの高い有効性が報告されており、臨床試験が始まっています。

※1経静脈的とは血管(静脈)を介して製剤を注入することを指し、いわゆる点滴にあたります。 

ギラン・バレー症候群の経過、予後

一般的に本症の予後は良好と考えられ、症状のピーク時の重症度を歩行可能な状態にまで抑えることができればほとんど後遺症なく回復するといわれています。一般的に、小児の予後は成人よりも良好とされます。

しかし全体の15-20%で日常生活に支障をきたす後遺症が認められ、約5%が死亡すると報告されています。死因としては、自律神経障害に起因する致死性不整脈が最も多いとされます。また40%の例で社会復帰に向けて何らかのリハビリテーションや職業の変更が必要であるとされ、その期間も1-2年と長期に及ぶ場合もあります。したがって回復後のリハビリテーションでは、心理面でのケアも重要であると考えられています。 

<リファレンス>

日本神経学会 ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群  診療ガイドライン2013
日本神経学会 ギラン・バレー症候群
厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル ギラン・バレー症候群(急性炎症性脱髄性多発神経根ニューロパチー、急性炎症性脱髄性多発根神経炎)
厚生労働省 カンピロバクター食中毒予防について (Q&A)
NIID国立感染症研究所 サイトメガロウイルス感染症とは
NIID国立感染症研究所 マイコプラズマ肺炎とは
WHO ZIKA SITUATION REPORT

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