遺伝性血管性浮腫|疾患情報【おうち病院】

記事要約

遺伝性血管性浮腫とは、血管性浮腫は血管内の水分が何らかの理由で血管外にしみだして、突然、皮下や粘膜の浮腫を起こす病気です。遺伝性血管性浮腫の原因・治療方法・相談の目安などを、医師監修の基解説します。

遺伝性血管性浮腫とは

血管性浮腫は血管内の水分が何らかの理由で血管外にしみだして、突然、皮下や粘膜の浮腫を起こす病気です。

血管性浮腫は遺伝性以外にも、薬剤性、アレルギー性、物理的な刺激などの原因が知られており、原因不明のものを特にクインケ浮腫と呼びます。血管性浮腫のうち、家族内で遺伝するタイプのものは血管性浮腫といいます1)。遺伝性血管性浮腫のタイプにもよりますが5万人に1人の頻度で起こります。

計算上は日本では2500人の患者さんの計算になりますが、実際には400人程度しか診断されていないという現状があります2)。症状が1週間に数回起こる人もいれば、数ヶ月や数年に1回しか起こらないこともあります。特徴的な症状と遺伝性血管性浮腫自体を知っていれば診断自体は比較的容易です。

遺伝性血管性浮腫と疑えないと原因不明で診断に至らず、時に症状が悪化してしまうことがある病気でもあります。おそらく2500人のうち、相当数が原因不明のまま症状を繰り返しているか、まだ症状がでていないけれど遺伝性血管性浮腫の素因があるという状態なのではと考えられます。

遺伝性血管性浮腫は原発性免疫不全症(難病指定65)に含まれます。重症度分類で中等症以上(遺伝性血管性浮腫の治療が必要な状態)か医療費の総額が月額33,330円を超える月が3回以上ある場合、医療費助成の対象になります。

関連記事:原発性免疫不全症

遺伝性血管性浮腫の原因

遺伝性血管性浮腫の原因はC1インヒビターの異常が原因です。C1とは体の免疫系に大きな役割を果たす補体の一種ですが、C1の働きを抑えるC1インヒビターの活性低下や血液の凝固に関連する凝固XII因子、アンギオポエチン1、プラスミノーゲン、キニノーゲン1があるとHAEの原因になることがわかっています。

かつては免疫系に関わる補体の異常がなぜ浮腫を起こすのがはっきりわかっていませんでしたが、近年C1インヒビターが単に補体のC1の活性化を抑制するだけではなく、炎症などに関与するブラジキニンの産生を抑える働きをすることがわかり、HAEの病態が解明されつつあります。

ブラジキニンは血管の内皮細胞に働いて細胞を収縮させる効果があります。血管の内皮細胞が収縮すると細胞と細胞の間があいて血管の壁に隙間ができ、血管内に保持されている水分が血管の外に漏れでてしまうことで浮腫が起こります。C1インヒビター以外の凝固XII因子、アンギオポエチン1なども最終的にはブラジキニンを増加させて、浮腫を起こすことがわかってきました。

C1インヒビターやその他の原因物質のどれに異常があるかによって、病型と症状が若干変わります。遺伝性血管性浮腫は常染色体優性遺伝というタイプで遺伝し、全体の4分の3は親からの遺伝、4分の1が突然変異で起こるといわれています。

遺伝性血管性浮腫の疫学的整理

遺伝性血管性浮腫には以下の3つのタイプに分けられ、タイプによって疫学的特徴があります。

  • Ⅰ型(C1インヒビターの産生・機能ともに低下)
     遺伝性血管性浮腫の85%とタイプとしては最も多く、常染色体優性遺伝で遺伝します。

  • Ⅱ型(C1インヒビター産生は正常だが機能が低下)
     C1インヒビターの活性が低下しており、正常な働きができていないタイプです。遺伝性血管性浮腫の15%ほどで、I型と同じく常染色体優性遺伝で遺伝します。

  • Ⅲ型(C1インヒビターの産生・機能ともに正常)
     C1インヒビターは関与せず、凝固系の第XII因子などC1インヒビター以外の複数遺伝子の変異がわかっています。エストロゲンに影響され、III型のほとんどが女性です。詳しいメカニズムははっきりわかっていません3)。Ⅲ型も基本的には常染色体優性遺伝での遺伝をするといわれていますが、浸透率という遺伝子の変異がどのくらいの程度で遺伝するかを反映する数値は低いことが知られています。つまり親がHAEであっても子供の発症率はI型II型ほど高くないと考えられます。

遺伝子変異やタイプによって、発症年齢や男女比にも差が出ます。 I型、II型は10歳代に多く、男女比は男:女=4:6とやや女性に多い傾向にあります。頻度も5万人に1人程度です。一方Ⅲ型は20歳台以降が多く、多くが女性と言われています。Ⅲ型の中でも凝固XII因子が関与するタイプは平均が20.3歳とⅢ型の中では若い傾向にあり、99%が女性に発症します。頻度は10万人に1人と、I型、II型に比べると非常にまれな発症になります。

遺伝性血管性浮腫の症状

症状は体のさまざまな場所が突然浮腫んだり腫れたりすることが特徴的です。皮膚の下に浮腫が起こると部分的に痒みや赤みの出ない腫れが出たり、手足全体がパンパンに腫れたりすることもあります。唇やまぶたの腫れとして出現することもあります。左右片方に症状がでることが多く、手足の腫れなどは左右差がはっきりわかります。

腸の粘膜に浮腫が起こると激しい腹痛、下痢、頭などを起こします。浮腫が起こる危険な場所としては舌や喉が挙げられます。舌や喉の粘膜が腫れることで声のかすれや飲み込みにくさ、呼吸がしにくいなどの症状が起こります。浮腫が強いと気道が狭窄し窒息のリスクがあり、最悪窒息死に至ることもあります。HAE患者さんは、一生のうちに半数が喉の腫れを経験すると言われています。

浮腫は発作性で突然起こりますが、24時間をピークにその後は自然に跡もなく消えてしまいます。症状は繰り返し、同じような場所にでることも、その都度場所が変わることもあります。発作を繰り返すと症状が悪化するという傾向もなく、初回の発作で喉の浮腫が起こり窒息しかかることもあれば、全身の浮腫をくり返したのちに喉の浮腫がでることもあり、症状の予測は困難です。
症状を誘発する因子としては、以下があります。

  • 外傷
  • 抜歯
  • ストレス
  • 感染
  • 妊娠
  • 高血圧の治療薬であるACE阻害薬

必ずしもこれらの因子がなくても突然発作がでることもあります。
遺伝性血管性浮腫のうち、Ⅲ型はI型・II型とは少し症状の特徴が異なります。凝固因子第VII因子が関与するHAEは皮膚のうち特に顔面と腹部の症状、アンギオポエチン1が関与するHAEは皮膚、腹部、プラスミンーゲンが関与するHAEは舌の浮腫を起こしやすいようです。増悪因子も妊娠やピルなどのエストロゲン製剤の使用が関与していることがわかっています。

遺伝性血管性浮腫の診断

まずは問診で発作性の浮腫が全身に反復して起こっていることを確認します。受診時に発作が出ている必要はありませんが、その際の写真や詳しい時系列(何日くらい続いたのか、など)があると診断に役立ちます。

同様の症状で家族歴があることも重要です。家族歴がない場合にも遺伝性血管性浮腫 Ⅲ型の可能性もあるため否定はできませんが、高い確率で家族歴はありますので、必ず確認が必要です。

問診から遺伝性血管性浮腫を疑った場合、次に行うこととしては採血です。血液検査でC1インヒビターの活性と補体のC4の量を測定します。補体C4の量は遺伝性血管性浮腫 I型II型で100%低下していることがわかっており、非発作時でも98%で低下しています。

診断基準としては遺伝性血管性浮腫に特徴的な症状と家族歴、C1インヒビターの活性が50%未満であれば、 I型かII型の診断となります。C1インヒビターの活性低下や補体の低下がないにも関わらず、症状からは遺伝性血管性浮腫が疑われる場合には、遺伝子解析を行ってようやくIII型と判明することもあります。

6.遺伝性血管性浮腫の治療

遺伝性血管性浮腫のほとんどがC1インヒビターの活性低下や機能低下です。C1インヒビターの異常が原因の場合、治療法はすでに確立しています。中心的な薬剤はC1インヒビター製剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬、カリクレイン阻害薬です。順番に解説していきましょう。

C1インヒビター製剤
製剤でC1インヒビターを補充することで症状の緩和を目指します。商品名としてはヒト血漿由来濃縮C1-INH(インヒビター)製剤ベリナートP®という製剤が現在発作時の治療薬として保険適応されています。静脈注射薬で、遺伝性血管性浮腫の治療ガイドラインでも使用が推奨されています。特に発症早期にC1インヒビター製剤を用いることで、症状の消失までの時間が短くなります。改善効果は症状の程度にはよらないことと、窒息などの致死的な症状を防ぐためにも早期投与が望まれます。

今までベリナートP ®は遺伝性血管性浮腫の症状が出現した後にしか使用はできませんでしたが、2017年3月からは発症予防として使えるようになりました。浮腫を誘発する可能性の高い抜歯などの歯科処置、手術(特に喉や消化管に関係する手術や処置)などの術前6時間以内にベリナートP®を予防投与すると、発作を抑える効果があります。

発作の頻度が多い場合などでは、長期的にも発作の予防が必要になります。ベリナートP®には長期予防の効果があることは過去の研究でわかっていますが、まだ保険適応で使用することができず、使用する際には自費診療になってしまいますが、予防のためには週2回ベリナートP®の静脈投与を行います。日本ではまだ未承認ですが、他のC1-INH製剤であるシンライズ®はアメリカでは長期的な予防薬として承認されています。今後日本でも承認が待たれますね。

ブラジキニン受容体拮抗薬
ブラジキニンが増えることで血管から水がもれでて浮腫が起こるため、ブラジキニンがくっつく受容体を拮抗して、ブラジキニンの作用を抑えるのがブラジキニン受容体拮抗薬です。ブラジキニンB2受容体拮抗薬であるイカチバント(フィラジル®)が日本でも保険適応で使用可能です。フィラジル®もベリナートP®と同じく遺伝性血管性浮腫の発作が起こった後早期に使用することで、発作時間を短縮することができます。皮下注射するタイプの製剤ですので、患者さんが発作時に使えるようになっていれば発作の初期に自己注射が可能です。
なお、ブラジキニン受容体拮抗薬には、HAEの短期的・長期的な予防効果は現時点では確認されておらず、予防薬としては使用できません。

カリクレイン阻害薬
カリクレインはブラジキニン合成を促進する因子でC1インヒビターで制御されていますが、遺伝性血管性浮腫Eでは抑制ができずブラジキニンが増えて浮腫を起こします。2021年1月に内服薬のオラデオカプセル150mg®、2022年3月から皮下注射薬の完全ヒト型抗ヒト血漿カリクレインモノクローナル抗体タクザイロ®が日本で承認されたばかりの新薬になりますが、HAEの発症予防として使用できるようになりました2)3)。新薬ですのでこれからさらに市販後の調査などが行われる予定ですが、効果が期待できます。

  • トラネキサム酸
  • 蛋白同化ホルモン

短期的にも長期的にも発作を予防する目的で、最近の新薬が使われる前まではトラネキサム酸(トランサミン®)や蛋白同化ホルモン(タナゾール®)が使われてきました。どちらも科学的に効果をはっきり証明した研究はありませんが、薬剤アレルギーなどでC1インヒビター製剤が使用できない際の代替薬になります。トラネキサム酸の効果は限定的ですが、蛋白同化ホルモンが有効なこともあります。ただし、蛋白同化ホルモンは副作用として肝障害、高血糖、多毛、男性ホルモンのため男性化することなどが挙げられます。またどちらの薬剤も保険適応はありません。

遺伝性血管性浮腫III型の治療法は確立していません。I型II型に準じた治療を行うことになります。

7.遺伝性血管性浮腫相談の目安

記事を読んで、自分の症状は遺伝性血管性浮腫なのではないかと思った方は皮膚科、内科にご相談ください。必ずしも今症状が出ている必要はありません。特徴的な症状と経過から、遺伝性血管性浮腫を疑うことが大切です。頻度が高い病気ではありませんが、原因不明の浮腫や腹痛で長年悩んで、ようやく診断がついたというケースもあります。遺伝性血管性浮腫かもと思った場合には、ぜひ病院でご相談ください。

近くの皮膚科、内科でも相談可能ですが、血液検査項目(C1インヒビターの量や活性、その他遺伝子検査)は特定の病院ではないと難しい場合もあります。公的なホームページではありませんが、遺伝性血管性浮腫の治療薬ベリナートP®を販売しているCSL Behring®が作成している遺伝性血管性浮腫HAE情報センターに診断可能な病院の一覧があります。参考にしてみてはいかがでしょうか。

<リファレンス>

一般社団法人日本補体学会.遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE)診療ガイドライン 改訂2019年版
堀内孝彦ら.遺伝性血管性浮腫(HAE)における最近の進歩.アレルギー68(8);9190922.2019.
一般社団法人日本補体学会.遺伝性血管性浮腫(HAE)ガイドライン改訂2014年版

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