遺伝性膵炎|clila疾患情報

【目次】

1.遺伝性膵炎とは
2.遺伝性膵炎の原因
3.遺伝性膵炎の相談目安
4.遺伝性膵炎の疫学的整理
5.遺伝性膵炎の症状
6.遺伝性膵炎の診断方法
7.遺伝性膵炎の診断の難しさ(方法)
8.遺伝性膵炎の治療
9.遺伝性膵炎の予後

 

1.遺伝性膵炎とは

遺伝性膵炎とは遺伝により慢性膵炎・ 反復性膵炎が多発する稀な疾患です。遺伝子が原因であると考えられており、家族内の膵炎発症が多いことが特徴です。大量飲酒など他に膵炎の原因となるものがなく、若年発症します。特に10歳以下の幼少期に発症することが多く、急性膵炎発作の様な腹痛、悪心、嘔吐、下痢などの症状を繰り返し、多くは20歳までに慢性膵炎へ進行します。慢性膵炎になると、膵外分泌機能不全が起こり、膵臓から、食べ物を溶かす消化酵素が十分に分泌されず、脂肪便や下痢、体重減少が起こります。また、インスリンの分泌が減少することにより高率に糖尿病を合併します。50歳以上になると膵癌の発症リスクが上昇します。根本的な治療法はなく、痛みに対する治療や、消化吸収不良に対する治療を行います。本症は平成27年1月より小児の慢性特定疾病、同年7月より成人の難病指定対象となり、重症例や高額な医療を継続することが必要なものについては医療費助成の対象となります。

 

2.遺伝性膵炎の原因

本症の原因は膵臓から分泌される消化酵素であるトリプシンの活性化と不活性化に関わる遺伝子異常が原因であることが明らかとなっています。その原因遺伝子変異として、カチオニックトリプシノーゲン(PRSS1)遺伝子変異(約4割)、膵分泌性トリプシンインヒビター(SPINK1)遺伝子変異(約3割)が知られています。

PRSS1遺伝子異常による膵炎発症の機序は、膵臓の9割を占める細胞である膵腺房細胞内でトリプシノーゲンの異所性活性化が起こることから始まります。生体内には異所性のトリプシノーゲン活性化、さらに活性化したトリプシンを介する他の消化酵素の活性化による自己消化から膵臓を守るための防御機構が存在していますがPRSS1遺伝子異常により、これらトリプシンの活性化・不活性化のアンバランスが生じるとトリプシンの持続的活性化が生じます。それにより膵臓の自己消化が起き膵炎を発症すると考えられています。

しかしながら、SPINK遺伝子における最多の変異(p.N34S変異)による膵炎発症機序は解明されておらず、また本症の3割の家系では原因遺伝子異常を認めず、発病機構は明らかではありません。遺伝形式としてはPRSS1遺伝子変異は常染色体優性遺伝形式をとりますが孤発例も存在し、SPINK遺伝子変異は常染色体劣性遺伝形式を示します。

 

3.遺伝性膵炎の相談目安

急性膵炎の症状は、所在のはっきりしない腹痛が1~3日間続くものから重度の腹痛が数日~数週つづき入院を必要とするものまで幅広くあります。若年者でこれらの症状が持続もしくは反復する際は本症の可能性も考慮し小児科、もしくは消化器内科へ相談しましょう。

また、小児期に膵炎発作を繰り返す場合、まず膵炎の原因として頻度が高い膵・胆管合流異常症、膵癒合不全、Vater乳頭部異常などの解剖学的異常を疑い精査を進めます。しかし、原因不明のまま特発性・若年性膵炎として経過観察されている例もあると言われており、その様なケースの場合は本症の可能性について主治医へ相談してみてもいいかもしれません。
 

4.遺伝性膵炎の疫学的整理

2005年から2014年の間に全国の病院を受診した患者さんを対象とした全国調査では、100家系271症例(男性153例、女性118例)が報告されています(回答率 57.2%)。この結果をもとに、我が国における遺伝性膵炎の患者数は300-500人程度と推計されています。初発年齢はおよそ6歳で、その多くは10歳前に発症します。男女差はありません。
 

5.遺伝性膵炎の症状

症状や経過は個々の患者で差がありますが、平均的には10歳までに急性膵炎を発症し20歳までに慢性膵炎に移行します。50歳からは劇的に膵癌の確率が増加します。

膵炎は膵臓の炎症であり、急性膵炎の最も多い症状は、突き刺す様な鋭い上腹部痛ですが、背部まで痛みが広がることもあります。そのほか、嘔吐、発熱などの症状が見られます。本症ではこの急性膵炎発作を繰り返しながら(反復性急性膵炎)、慢性膵炎に進行します。慢性膵炎になると、慢性的に疼痛が持続するほか、長期にわたる炎症により膵外分泌不全を生じます。それにより消化不良を起こし、ガスや腹部膨満・下痢や水に沈まない浮遊便(floating stool)、体重減少や蛋白・ビタミン欠乏症といった症状を呈します。また、膵内分泌不全では初期に血糖の上昇(耐糖能異常)を認め、糖尿病へ移行するリスクがあります。本症患者の最大48%は1型糖尿病を発症すると言われています。

 

6.遺伝性膵炎の診断方法

本症は、再発性急性膵炎あるいは慢性膵炎症例の中で以下の①〜④の4項目のうち①を満たす場合、あるいは②、③、④の全てを満たす場合、遺伝性膵炎と診断されます。

①カチオニックトリプシノーゲン(PRSS1)遺伝子のp.R122Hないしp.N29I変異が認められる
②世代にかかわらず、膵炎患者2人以上の家族歴がある
③少なくとも1人の膵炎患者は、大量飲酒など慢性膵炎の成因と考えられるものが認められない
④単一世代の場合、少なくとも1人の患者は40歳以下で発症している

 

7.遺伝性膵炎の診断の難しさ(方法)

急性膵炎を疑う場合は血液または尿検査にて膵アミラーゼやリパーゼなど膵酵素を測定し、腹部超音波・CTまたはMRI検査で膵臓に急性膵炎に伴う異常所見があるかを確認します。また、慢性膵炎では同様にCTやMRIでの画像評価や糖尿病検査、膵外分泌機能検査を行います。膵炎による炎症を繰り返すと膵管拡張や膵管狭窄・膵石を認めることがあり、内視鏡的逆行性胆管膵管造影や磁気共鳴膵管胆管造影検査を行うこともあります。これらの検査所見と臨床経過から本症を疑う場合には診断のためにカチオニックトリプシノーゲン遺伝子や膵分泌性トリプシンインヒビター遺伝子変異の検索を行います。

 

8.遺伝性膵炎の治療

現在根治的な治療はなく、疼痛コントロールと膵内外分泌障害に対する補充による対症療法が主な治療となります。原則として通常の慢性膵炎と同じ治療を行います。腹痛や急性膵炎の発作が症状の中心である代償期においては急性増悪の予防と腹痛のコントロール、膵臓の機能が低下した非代償期には消化吸収障害ならびに糖尿病の治療といった、膵外内分泌機能の適切な補充が治療の中心となります。一方、慢性膵炎は多分に生活習慣病的な側面があります。したがって治療においては、①断酒、禁煙といった生活指導、②病期に応じた食事指導・栄養管理、③薬物療法、④内視鏡(胃カメラ)による膵石や膵管狭窄の治療や手術が治療の柱となります。薬物療法や内視鏡治療などを考える際には、生活指導や栄養指導の徹底が前提になります。飲酒や喫煙は、膵炎の進行のみならず膵癌のリスクを上昇させますので、厳に控えるべきです。食事に関しては、病気の時期に応じた注意が必要です。すなわち、腹痛発作が症状の中心で、膵臓の働きが保たれている代償期と呼ばれる時期には脂肪の制限を、一方、腹痛発作がなくなり、膵臓の消化やインスリン分泌といった働きが悪くなった非代償期と呼ばれる時期では、過度な脂肪制限は栄養やビタミン不足をおこしてしまうため、消化酵素薬を内服しながら、むしろ十分な栄養を摂ることが大切です。
 

9.遺伝性膵炎の予後

一般の慢性膵炎に比べて本症の発症が幼少時と若く有病期間が長いことや、炎症が反復・持続し高度となりやすいため、膵外分泌機能不全や糖尿病を高率に合併し、QOLは著しく低下します。さらに遺伝性膵炎患者の膵癌発症率は一般人口と比べて、約50倍から90倍と高率であり、継続して定期的な検査が必要です。

 

エリクソン安香 救急病院で研修後、大学病院や地域のかかりつけクリニックで勤務し内科全般の診療に従事。日本内科学会、消化器病学会、消化器内視鏡学会、日本肝臓学会員。現在はキプロス共和国赤十字Limassol Branchにて活動中。

 

<リファレンス>

Gene Reviews Japan PRSS1関連遺伝性膵炎

http://grj.umin.jp/grj/prss1hp.htm

難病情報センター 遺伝性膵炎難病指定298

https://www.nanbyou.or.jp/entry/4781

正宗 淳 中野絵里子 粂 潔,他 膵炎の原因遺伝子検索 膵臓 29:51~58,2014

https://www.jstage.jst.go.jp/article/suizo/29/1/29_51/_pdf

日消 誌2002; 99: 1173-1185 慢性膵炎 遺伝性膵炎

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi1964/99/10/99_10_1173/_pdf/-char/ja

小児科診療UP-to-DATE 遺伝性慢性膵炎の新しい診断と治療 

 

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