ヒルシュスプルング病|clila疾患情報

【目次】 
1.ヒルシュスプルング病とは
2.ヒルシュスプルング病の疫学的整理
3.ヒルシュスプルング病の原因
4.ヒルシュスプルング病の症状
5.ヒルシュスプルング病の診断
6.ヒルシュスプルング病の治療
7.ヒルシュスプルング病の予後

 

1.ヒルシュスプルング病とは

ヒルシュスプルング病とは、消化管(大腸)の蠕動をコントロールする神経節細胞が生まれつき欠如しているために、排便機能に問題が生じる疾患です。
重症例では生後間もない時期から便秘から腸炎、腸閉塞などをきたしてしまうこともあるため、注意が必要です。
通常、消化管の患部(無神経節腸管)を切除する手術治療が推奨されます。

 

2.ヒルシュスプルング病の疫学的整理

日本では、年間約200例ほどの発症が確認されています。発生頻度は、5000出生につき1例、そのうち重症例は50000出生につき1例(年間20例)といわれています。重症例では発生頻度に性差はないのですが、全体的には男児(男性)の発症例が3〜4倍ほど多くなっています。
無神経節腸管の範囲には個人差がありますが、一般的には日本では以下のように分類され、直腸からS状結腸を含む症例が最も多いといわれています。
・直腸下部型(肛門から直腸下部まで)
・S状結腸型(肛門からS状結腸まで)
・左右結腸型(肛門から下行結腸〜盲腸まで)
・全結腸型(肛門から回盲部より口側30cmの回腸まで)
・小腸型(肛門から回盲部より口側30cmの回腸を超える範囲)

 

3.ヒルシュスプルング病の原因

ヒルシュスプルング病の場合、特定の遺伝子変異が関連している症例もあり、そのような場合には家族性の発生がみられることもあります。その遺伝子変異のパターンは、これまで10種類以上確認されており、そのうちRET遺伝子とEDNRB遺伝子の変異は、比較的よく確認されるものとして知られています。ヒルシュスプルング病と診断される症例の約半数が、何らかの遺伝子変異を持っているといわれています。ただ、それらの遺伝子変異の存在が、実際の発病にどのように結びつくかということは、明らかにはなっていません。
ヒルシュスプルング病が別の先天奇形を合併している場合には、染色体異常や遺伝的な要因が関連していることが多いと考えられています。例えば、染色体異常の例では、ダウン症候群の場合、症例の約1%にヒルシュスプルング病の合併が認められるという報告もあります。また、遺伝疾患では、ヒルシュスプルング病と関連があると考えられているものとして、Mowat-Wilson症候群、Waardenburg症候群、Bardet-Biedel症候群、軟骨毛髪形成不全症、先天性中枢性低換気症候群、フリン症候群、多発性内分泌腫瘍症2型、Smith-Lemli-Optiz症候群、L1症候群、Pit-Hopkins症候群などが挙げられます。
ヒルシュスプルング病は神経堤症:神経堤由来の細胞や組織の異常によって起こる疾患、つまり、神経堤からの神経節の発生に問題があり、腸管に神経節が確認されない状況が生じる疾患であると考えられています。

 

4.ヒルシュスプルング病の症状

症状の現れ方は、患者の年齢により異なります。
発症時期は、新生児〜乳児期が多く、おおよそ80%の患者が、出生より6週間以内に何らかの症状が現れるといわれています。初期症状は主には便秘で、便秘がひどくなれば、腹部膨満・嘔吐など他の消化管症状や徴候が出現します。

【新生児期】

特に出生後48時間の間に胎便の排泄がなく、以下のような症状や徴候を伴う場合には、ヒルシュスプルング病を疑い、必要な検査を進めていく必要があります。
・腸蠕動が確認されない。
・肛門刺激(直腸診など)により便が爆発的に排泄される
・下痢(血便が混じることもある)
・腹部膨満(胃部の拡張)
・嘔吐(胆汁性)

【乳幼児期】

乳児期以降以下のような徴候が緩徐にみられるようになり、診断に至るケースもあります。
・難治性便秘
・食欲の低下
・成長不良
・水様便(時に血便を含む)
・腹部膨満

【ヒルシュスプルング腸炎】

ヒルシュスプルング腸炎は、ヒルシュスプルング病と診断されている患者のおおよそ30~40%にみられるともいわれ、比較的頻度の高い合併症として知られています。便塊による閉塞が著しくなると、閉塞部より口側の腸管が拡張、腸菅壁が非薄化し、腸内細菌の増殖、組織への侵入の結果、腸炎(ヒルシュスプルング腸炎)や敗血症が起こり、時に致死的になる場合もあります。
死亡率は約1%ともいわれており、ヒルシュスプルング病の患者に、発熱、下痢、腹部膨満、嘔吐などの症状がみられる場合には、この腸炎を疑い適切な介入を早急に行う必要があります。

 

5.ヒルシュスプルング病の診断

ヒルシュスプルング病は、生後1年以内に診断を受ける例が約9割、乳幼児期に診断される例が約1割、そしてそれ以降(思春期から成人期)に診断が下される例は約1%といわれています。全ての症例におおよそ共通している症状は、慢性的な便秘です。
通常まず身体診察と症状、家族歴などから疾患を疑い、以下のような検査を進めていきます。

(1)注腸造影検査

神経節の欠損部分は、腸の拡張が悪く造影剤が細く描出されるため、病変部位の確認に有用な検査です。

(2)直腸肛門内圧測定検査

肛門括約筋の弛緩反射の有無を確認することで、神経支配の有無を評価します。ヒルシュスプルング病の場合には、この反射がみられません。

(3)病理検査

病理検査は、確定診断を行うための検査になります。疾患が疑われる場合には、まず直腸生検を行い、神経節の有無を確認します。また、手術治療の折には切除標本の病理検査を行い、腸管壁内の神経節の欠如を確認します。

他の先天異常の合併がある場合には、染色体異常や遺伝疾患を疑い、臨床遺伝学の専門家と協力しながら、基礎疾患の診断を進めていきます。

 

6.ヒルシュスプルング病の治療

ヒルシュスプルングの治療は、診断が下れば速やかに行われる事が一般的です。手術治療は通常根治治療として、神経節細胞のない患部の切除と正常部位(肛門)の吻合が行われます。
状態が落ち着いていれば、一期的に根治手術を行うことは可能ですが、低出生体重児、早産時、あるいは全身状態が不安定な場合には、複数回に分けて手術治療を実施していくこともあり、その際一時的に人工肛門が造設されることもあります。
 手術方法には、開腹手術、腹腔鏡下手術、経肛門手術、腹腔鏡補助下経肛門手術など、複数の選択肢があり、基本的には、病変部位や範囲などによって、適切な手術方法が選択されます。特に腹腔鏡手術、経肛門手術は、傷跡を小さくする事ができるという利点があり、術後の排便機能も開腹手術より良好になる可能性もいわれており、状態が許せば推奨される術式といえます。
ヒルシュスプルング腸炎を発症した場合は、輸液、経鼻胃管や直腸管を用いた消化管内の減圧を行いながら、抗生剤による治療を速やかに開始します。腸炎がある場合にも、基本的には手術が根本的な治療になります。

 

7.ヒルシュスプルング病の予後

全結腸型や小腸型など、手術時の切除部位が広範囲となる症例の場合には、長期の入院や、在宅中心静脈栄養などによる長期の水分・栄養の管理が必要となることもありますが、多くの例において、術後には排便が得られるようになり、通常の日常生活が可能になることが期待できます。
ただし、術後排便機能が落ち着いていくまで、通常数年ほど要することが多く、定期的な通院が必要になる事がほとんどです。約9割近くの例で、ほぼ正常な排便機能に戻っていくようなこともいわれていますが、中には術後に便秘症状の残存や、腸炎を発症するような例もあるため、日常生活においては、排便・排ガスの状況や便の臭いにも異変がないか、注意して経過をみていく必要があります。手術後には状態をみながら、排便訓練を行うこともあります。
小腸は栄養成分を、結腸は通常水分を多く吸収する組織であるため、術後の残存腸の範囲や状態にあった適切な栄養管理は、術後のQOL向上のためにも重要です。特に、結腸切除例や人工肛門設置例においては、容易に脱水に陥ることがあるため、適切な水分と塩分摂取のバランスについて指導をしておくことは肝要といえます。
臨床遺伝専門家によるカウンセリングが、患者と家族の将来への支援につながることもあるため、希望がある場合には、連携をとっていく事が望ましいでしょう。

 

田村 真希産婦人科医2003年弘前大学医学部卒業。学生時代は海外での医療ボランティア活動に参加。産婦人科専門医として総合病院、クリニック勤務を経験。海外での診療経験もあり。

 

<リファレンス>
難病情報センター,ヒルシュスプルング病(全結腸型または小腸型)(指定難病291),2021-03,閲覧日2021-11-4

https://www.nanbyou.or.jp/entry/4699
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4700

日本小児外科学会,ヒルシュスプルング病,閲覧日2021-11-04
http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/hirschsprung

National Organization for Rare Disease, Rare Disease Database, Hirschsprung Disease, 2017, 閲覧日2021-11-04
https://rarediseases.org/rare-diseases/hirschsprungs
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.

National Institute of Health, National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Disease, Hirschsprung Disease, 2015-09,閲覧日2021-11-04
https://www.niddk.nih.gov/health-information/digestive-diseases/hirschsprung-disease

Mayo Clinic, Hirschsprung’s disease, 2021-08-21,閲覧日2021-11-04
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/hirschsprungs-disease/symptoms-causes/syc-20351556

 

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