HTLV-1関連脊髄症|clila疾患情報

【目次】
1.HTLV-1関連脊髄症とは
2.HTLV-1関連脊髄症の原因
3.HTLV-1関連脊髄症の相談の目安
4.HTLV-1関連脊髄症の疫学的整理
5.HTLV-1関連脊髄症の症状
6.HTLV-1関連脊髄症が重症化しやすい場合
7.HTLV-1関連脊髄症の感染防止対策
8.HTLV-1関連脊髄症の診断方法
9.HTLV-1関連脊髄症の治療

 

1.HTLV-1関連脊髄症とは

 HAM(HTLV-1 associated myelopathy)とも呼ばれ、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)に感染された方の一部に、進行性の両下肢麻痺、排尿排便障害などを起こす、日本で発見された疾患です。HTLV-1の感染者は全国に約100万人いるといわれていますが、その大多数はHTLV-1による病気を起こすことなく、生涯を過ごします。しかし、一部の人ではHTLV-1に感染したリンパ球が、脊髄で慢性的な炎症を引き起し、それにより脊髄が傷害されるために、両下肢のつっぱり感、歩行困難、しびれ感、排尿困難や便秘などの症状が現れます。また、これらの症状は、回復させるのは非常に難しく、個人差はありますが年単位で徐々に症状が悪化していく場合が多いです。現在、全国で約3,000人の患者さんがHAMと闘っていると推定されており、平成21年度より、厚生労働省難病対策疾患に指定されました。

 

2.HTLV-1関連脊髄症の原因

 HTLV-1に感染したTリンパ球は普段は血液の中を循環していますが、何らかのきっかけで脊髄の中に入り込み、脊髄の中で慢性の炎症を引き起こすことがHAMの病気の原因と考えられています。炎症が慢性的に続くことによって、脊髄組織の破壊と変性が引き起こされます。脊髄中の神経細胞の役割は、脳からの足を動かす指令を伝えたり、排尿の調節をしたりする役目がありますので、その神経細胞が壊れることによって、足が動かなくなったり、排尿の調節に問題が生じることになります。

 

3.HTLV-1関連脊髄症の相談目安

 初期症状は歩行の違和感、足の痺れ、つっぱり感、転びやすい、といった整形外科を受診するようなケースや、頻尿や繰り返す膀胱炎などの排尿障害を呈することがあります。HTLV-1キャリアの方で上記のような症状が持続する場合は、医師へご相談ください。

 

4.HTLV-1関連脊髄症の疫学的整理

 日本でのHAM の生涯発症率は HTLV-1 キャリアの約 0.25% 、有病率は一般人口10万人あたり約3人と報告されています。2008年に行われた全国調査での最近10年間は毎年30名前後が発症しており減少傾向は見られません。孤発例が多く、発症平均年齢は43.8歳ですが10歳代などの若年発症も存在します。男女比は 1:3 と女性に多いです。全国の HAM 患者数は推定約 2,000 ~ 3,000 名でそのうち約半数は九州に偏在していますが近年は関東などの大都市圏で患者数が増加しています。

 

5.HTLV-1関連脊髄症の症状

潜伏期間・経過
 HTLV-1感染後、HAMの潜伏期間は数年以上と言われています。発症後は年単位でゆっくり症状が進行していく場合が 多いですが、なかには、脊髄での炎症が激しく数か月単位で急速に症状が進行する重症な場合や炎症が弱くて数十年経過してもあまり症状が進行しない軽症な場合まで、病気の進み方は個人 差が大きいという特徴があります。全国 HAM 患者レジストリによる 484 例の疫学的解析を整理した報告では、HAM 患者の約 8 割 は発症後緩徐に進行し(②緩徐進行例)、約 2 割弱は発症後急速に進行し 2 年以内で自立歩行不能になります(①急速進行例)。一方で全体の約 1 割弱と頻度は少ないですが運動障害が軽度のまま進行に乏しい例(③進行停滞例)があります。

 臨床症状の主なものは進行性の両下肢痙性対麻痺で、両下肢の痙性と筋力低下による歩行障害を示します。初期症状は歩行の違和感、足のしびれ、つっぱり感、転びやすいなどです。進行すると腰帯部や下肢後面の筋力低下により歩行障害が悪化し、杖歩行、さらには車椅子が必要となり、重症例では下肢の完全麻痺や体幹の筋力低下により寝たきりとなる場合もあります。また、約6割の方に下半身の触覚や温痛覚の低下、しびれ、疼痛などの感覚障害が見られます。特に疼痛が強い場合では日常生活に支障をきたすこともあり、定期的な痛み止めの内服など疼痛コントロールが必要な場合もあります。自律神経症状は高率にみれ、特に頻尿、排尿困難、便秘などの膀胱直腸障害は病初期より出現します。また自己導尿が必要な例も多く、その際には泌尿器科との綿密な連携が必要です。進行例では起立性低血圧や下半身の発汗障害、インポテンツがしばしばみられます。

 

6.HTLV-1関連脊髄症が重症化しやすい場合

 HAM の予後不良因子として①急速な発症②脊髄炎症マーカー高値(髄液中のネオプテリン,CXCL10,細胞数, 総蛋白,抗 HTLV-1 抗体価)③高齢発症④末梢血 HTLV-1 プロウイルス量が高値であることが報告されています。このような予後不良因子を有する症例では早期からより適切な治療の導入が求められます。

 

7.HTLV-1関連脊髄症の感染防止対策

 HTLV-1の主な感染経路は母子感染、性行為感染です。HTLV-1に感染しているお母さんから赤ちゃんへの感染は、主に母乳中に含まれるHTLV-1に感染したTリンパ球が原因です。母乳からの感染を防ぐには、①育児用ミルクを与える、②3 ヶ月以内の短期間に限って母乳を与える、③冷凍した母乳を与えるといった3つの方法が有効です。産科や小児科の医師と一緒に、お母さんと赤ちゃんに とって最適な栄養方法について考えていきましょう。また、性交渉によるパートナーからの感染は、精液中に含まれる HTLV-1に感染したTリンパ球が主な原因です。特に長期間にわたっ て性交渉が続く夫婦間での感染が多いと言われていますが、どのくらいの頻度なら感染が起こるかなど、まだはっきりとわかっていません。 性交渉による感染を防ぐにはコンドームの使用が有効です。その他、隣に座る、握手をする、一緒に食器を使う、一緒にお風呂やプールに入る、トイレを共用するなどといった職場や学校での社会生活のなかで感染することはありませんので、HTLV-1 に感染していてもこれまでと同じよ うに生活を送ることができます。

 

8.HTLV-1関連脊髄症の診断方法

 両下肢の痙性対麻痺や神経因性膀胱など、HAM の可能性が考えられる場合、まず HTLV-1 感染の有無を確認します。具体的には、血清中の抗 HTLV-1 抗体の有無を CLEIA,CLIA, ECLIA または PA 法でスクリーニング検査を行い、抗体が陽性の場合、ラインブ ロット(LIA)法で確認し、HTLV-1 の感染を確定します。HTLV-1 の感染が確認されたら、次に髄液検査を施行し、髄液の抗 HTLV-1 抗体(PA 法が推奨される)が陽性、かつ他のミエロパチーを来すような脊髄圧迫病変、脊髄腫瘍、多発性硬化症、視神経脊髄炎などをCTやMRI検査などを行い総合的に鑑別した上でHAMと確定診断します。

 

9.HTLV-1関連脊髄症の治療

 HAM治療の最終目的は、HTLV-1感染細胞を除去し、脊髄神経組織の破壊を抑制し、運動機能、生活動作などのQOLを維持し、更には生命予後を改善することです。しかし未だHTLV-1に有効な抗ウイルス薬は開発されておらず、この感染細胞を除去する根治療法はありません。これまでの研究から脊髄組織の損傷はHTLV-1感染細胞による炎症に起因し、臨床的な疾患活動性も脊髄の炎症レベルと相関していることがわかっているため、現在は脊髄の炎症を抑えることが現時点で最適なHAMの治療と考えられています。
 その上で発症早期に活動性を判定し、疾患活動性に応じた治療内容を検討することが重要です。以下が活動性ごとに応じた治療法です。

(1)疾患活動性が高い症例

髄液検査ではネオプテリン濃度、CXCL10濃度、細胞数や蛋白濃度も高いことが多く発症早期に歩行障害が進行し2年以内に片手杖歩行レベル以上になる症例が多いことからこの時期に治療を始めるほど十分な治療効果が期待できると考えられています。一般的にはステロイドパルス療法後にプレドニゾロン内服維持療法が行われます。

(2)疾患活動性が中の症例

HAM患者の7-8割を占め、数年単位で症状が緩徐に進行する場合が多いです。髄液検査にてネオプテリンやCXCL濃度で炎症の存在を確認し、有効性があると判断されればプレドニゾロン内服か免疫調整作用を持つインターフェロンαが適応となることがあります。プレドニゾロンは長期内服により症状の進行抑制効果が示されていますが感染症や骨粗鬆症など、副作用に注意が必要です。インターフェロンαは唯一HAM治療において保険適用となっています。これまでインターフェロンα治療後にHTLV-1ウイルス量がやや減少していることが報告されており、抗ウイルス作用が期待されていますが、長期的な有効性については未だ明らかではありません。

(3)疾患活動性が低い症例

発症後数年間以上症状がほとんど進行しないケースがあります。このような症例では髄液検査も正常であることが多く、ステロイド治療や前述のインターフェロンαの治療は乏しいと考えられています。

全ての症例においてこれらの薬物療法以外の重要な治療としては継続的なリハビリテーションが推奨されます。機能障害の進行予防のために運動療法を行い、症例に応じて適切な補装具を使用する必要があります。また、排尿障害や便秘などに対する対症療法も重要です。特に神経因性膀胱による膀胱機能障害は初期よりほぼ必発で、尿路感染症や腎機能障害を予防するために場合によっては早めに自己導尿を検討することもあります。

 

エリクソン安香 救急病院で研修後、大学病院や地域のかかりつけクリニックで勤務し内科全般の診療に従事。日本内科学会、消化器病学会、消化器内視鏡学会、日本肝臓学会員。現在はキプロス共和国赤十字Limassol Branchにて活動中。

 

<リファレンス>

難病情報センター 指定難病26
https://www.nanbyou.or.jp/

日本ウイルス学会雑誌 2019 年 69 巻 1 号 p. 29-36
https://doi.org/10.2222/jsv.69.29

HTLV-1関連脊髄症診療ガイドライン2019 
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/ham/ham_2019.pdf

よくわかる詳しくわかるHTLV-1
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/htlv-1_f.pdf

厚生労働省 HAMと診断された患者様へ
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/htlv-1_g.pdf

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