ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア)|疾患情報【おうち病院】

記事要約

ハッチンソン・ギルフォード症候群(通称プロジェリア)は、非常にまれな遺伝性の早老症です。約10ほどある早老症の中で、最も症状が重い疾患です。ハッチンソン・ギルフォード症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア)とは

ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア)は、非常にまれな遺伝性の早老症※1です。約10ほどある早老症の中で、最も症状が重い疾患です。ほとんどの症例は遺伝子の突然変異が原因で発症するとされています。

本症は通常、出生時は正常ですが乳児期早期から重度の成長障害(特に体重の増加不良)を認めるようになります。また伸展性の乏しいピンと張った光沢感のある皮膚、腹部や大腿部の皮膚の小さい隆起も見られるようになり、異常に気づくきっかけになるといわれています。

特徴的な顔貌(顔に対して相対的に頭が大きく、細い鼻、薄い上下口唇、小顎など)や皮膚の萎縮や硬化、頭部の脱毛、関節の拘縮といった老化に伴う症状を乳幼児期から認めます。

精神運動および知的な発達は正常です。

本症は脂質代謝異常によらない重度のアテローム性動脈硬化症を認め、成長に伴い(加齢)心血管機能の低下、脳卒中などの脳血管疾患が見られるようになります。

これらは生命予後に影響する合併症で、特に心不全は死因の原因として最も多く、本症の平均寿命は14.5歳と報告されています。

現時点では根本的な治療法はありませんが、2020年11月20日米国食品医薬品局 (FDA) によってファルネシル転移酵素阻害薬ロナファルニブが1歳以上の本症における死亡リスクの低減の適応で承認されています。

※1 早老症は早期老化症とも呼ばれ、身体の老化の兆候が実際の年齢よりも早く出現し、進行する疾患の総称です。

ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア)の原因

本症の原因は、ラミンA (LMNA)遺伝子の点突然変異によることがわかっています。
LMNA遺伝子は、正常であればラミンAというタンパク質を作ります。ラミンAは細胞の核に存在し、細胞の機能を維持するために必要なタンパク質です。

しかし、異常なLMNA遺伝子はプロジェリンという異常なタンパク質を作ります。プロジェリンは細胞に蓄積していき、様々な細胞の機能を障害し早すぎる老化を引き起こすものと考えられています。

なお、プロジェリンは健常な人の体内でも産生されていますが、その量は本症患者に比べ非常に少ないことがわかっています。

ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア)の疫学

本症は、推定出生率は400万人に1人、総人口当たりの有病率は2000万人に1人と報告されており、非常に稀な疾患です。民族、男女間での発生頻度の差は認められていません。
本邦では約10人の患者さんが難病研究班の全国調査で確認されています。

すでに本症を持つ子供がいる両親の場合は、再び本症を持つ子供が生まれる可能性は一般の人より有意に高いと報告されています。
本症は遺伝子の突然変異が原因のため、通常は遺伝しません。

ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア)の症状

出生時は正常な新生児とみなされることがほとんどですが、乳児期早期から成長障害(身長、体重の増加不良)を認めるようになります。

皮膚は光沢のある硬い皮膚になりおおよそ2歳ごろまでには頭髪はなくなり全禿頭を呈します。また関節も硬くなり可動域の制限を認めます。

精神運動および知能は正常に発達します。

1)特徴的顔貌

顔の大きさに対し不釣り合いな大きな頭
前額部の突出
細い鼻
薄い上下の口唇
小さい顎
全禿頭
細く甲高い声

2)皮膚所見

皮膚の硬化、伸展性の乏しいピンと張った光沢のある皮膚
色素沈着
腹部や大腿近位の柔らかい膨らみ
爪の形成異常

3)歯

乳歯の萌出・脱落遅延
永久歯の萌出遅延
歯の叢生

4)筋骨格

(体格が小さいため)同年齢の健常な子供に比べ骨は小さい
骨密度は正常範囲下限かやや僅かに低い程度で、明らかな易骨折性は認めない

先端骨融解:比較的初期に見られる所見で、指先の骨吸収が起こり、指先が球状になるが通常痛みは伴わない

鎖骨の骨吸収:鎖骨遠位端骨融解が起こることがある

外反股変形:大腿骨の形状が外反し、足を広げた(幅広)歩行になる

股関節の不安定、脱臼:臼蓋形成不全があり、股関節脱臼や亜脱臼を起こしやすい。また変形性股関節症へ進展すると歩行時痛など日常生活に影響を与える

大腿骨頭壊死:大腿骨頭が血行不良のため壊死を生じ、扁平になったり軟骨下骨折などを起こすことがある

1)成長(加齢)に伴い問題となる症状

本症では脂質代謝に明らかな異常を認めないものの、全身の動脈硬化が進行します。この進行性の動脈硬化症のため心血管疾患、脳血管疾患のリスクが常にあります。

心血管の閉塞、心臓弁の石灰化などにより心不全を起こし、これが死因につながることがあります。

脳の一過性虚血や脳梗塞も本症に起こりやすい合併症であるため、日常生活では水分補給をしっかり行い脱水を予防する必要があります。無症候性の梗塞が多くMRIでは陳旧性の所見が見られます。頻回に梗塞が起こったり、広範囲に硬塞が及ぶと永続的な症状を呈する可能性があります。 

2)その他

難聴
兎眼:皮膚の可動性や皮下脂肪が少ないことにより目をしっかり閉じられない状態を言います。このためドライアイや角膜炎のリスクがあります。

【本症において正常と考えられている機能】

  • 脳   知的な障害はなく、年齢相応の知能を持っているとされます。
    ただし、脳血管に関しては動脈硬化があり脳卒中を起こす可能性があります。
  • 肝臓
  • 腎臓
  • 消化器(胃、腸)
  • 肺機能
  • 内分泌機能
  • 免疫機能   傷や骨折の治癒過程、速度は正常と同じであると考えられています。
    また予防接種も受けることが可能です。

ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア)の診断方法

乳児期の重度の体重、身長の増加不良や皮膚の変化、関節の可動域制限などが本症を疑う手がかりになります。疑いを持てば、診断基準に照らし合わせて診断していくことになります。
本症は稀な疾患ですので、本邦では遺伝子検査、診断などは厚生労働省の早老症研究班の千葉大学(糖尿病・代謝・内分泌内科)、大分大学(小児科)、佐賀大学(小児科)、成育医療研究センター病院(遺伝診療科)などが中心となって対応しています。

<診断基準> 難病情報センターHPより引用

Definite及びProbableを対象とする。

A.大症状 

1.出生後の重度の成長障害(生後6か月以降の身長と体重が-3SD以下)
2.白髪または脱毛、小顎、老化顔貌、突出した眼、の4症候中3症候以上
3.頭皮静脈の怒張、皮下脂肪の減少、強皮症様変化 の3症候中2症候以上
4.四肢関節拘縮と可動域制限

B.小症状 

1.胎児期には成長障害を認めない。
2.精神発達遅滞を認めない。

C.遺伝学的検査 
LMNA 遺伝子にG608G(コドン608[GGC] > [GGT])変異を認める。

<診断のカテゴリー>

Definite:Aのうち1つ以上+Cを認めるもの

Probable:Aの4項目+Bの2項目を認めるもの

ハッチンソン・ギルフォード症候群(プロジェリア)の治療

現在までのところ、本症に対する根本的な治療法はありません。

2020年11月20日米国食品医薬品局 (FDA) によってファルネシル転移酵素阻害薬ロナファルニブが本症の死亡リスクの低減という適応で承認されています。

ファルネシル転移酵素阻害薬は異常なLMNA遺伝子によって作られたプロジェリンが細胞に蓄積するのを妨げる効果があります。これにより本症の症状が改善するとされています。
特に心血管系機能の改善が見られることにより生存期間の延長に寄与するものと考えられます。

その他の治療効果が期待される薬剤としてエベロリムスというmTOR阻害剤の臨床試験が施行されています。Progeria Research Foundationによれば、2023年に臨床試験の結果がわかる予定です。各合併症に対してはそれぞれ対症療法を行います。心血管、脳血管の梗塞予防に低用量アスピリン療法があります。
また血圧のコントロールも重要です。症状に応じて、降圧薬や心不全薬、抗凝固薬の使用も考慮されます。

【歯科疾患の治療】

齲歯予防のための口腔ケアとして、定期的な歯科検診、フッ素塗布が推奨されます。叢生がある場合は、乳歯の抜歯を行うことで歯列の改善や口腔ケアのしやすさにつながります。

低用量アスピリン治療を受けている際は、抜歯などの処置に際し出血傾向のリスクがあります。

そのため内服薬を主治医に伝える必要があります。

【筋骨格系の治療】

股関節症の痛みに対しては消炎鎮痛剤を内服します。症状が強い場合は、亜脱臼や脱臼あるいは大腿骨頭壊死などの病態に進展していることも考えられるため精査を行う必要があります。

股関節脱臼に対しては、装具治療や理学療法が推奨されますが、症状の重症度によっては手術が考慮されます。実際に、本症の何例かは手術を受けたと報告されています。

手術を行う場合には、心血管系の評価を術前に行うことが必要です。また本症は顎が小さく、開口制限があるため、気道確保が困難なことがあります。気管の大きさも同年齢の子供に比べると小さいことが多く、術前の評価が非常に大切です。

その他、難聴には補聴器、ドライアイには人工涙液点眼などの対症治療があります。

<リファレンス>

難病情報センター ハッチンソン・ギルフォード症候群(指定難病333)
難病情報センター ハッチンソン・ギルフォード症候群(指定難病333)
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業
小児慢性特定疾病情報センター ハッチンソン・ギルフォード症候群
GeneReviews Japan ハッチンソン-ギルフォード・プロジェリア症候群
Progeria Research Foundation

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