肥大型心筋症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

肥大型心筋症とは、心室(心臓の下側にある2つの部屋)の壁が厚くなって(肥大)堅くなる一群の心疾患です。肥大型心筋症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

肥大型心筋症とは

心臓は左房・右房・左室・左室と4つの部屋に分かれています。肥大型心筋症は、心肥大をおこす原因となる高血圧や弁膜症などの病気がないにもかかわらず、心筋の肥大(通常左室、ときに右室の肥大)が起こる病気で、左心室筋の異常な肥大に伴って生じる、左室の拡張機能(左房から左室へ血液を受け入れる働き)の障害を主とする病気です。

肥大型心筋症は難病法による指定難病であり、心不全などのハイリスク因子を有する場合は医療費助成の対象となります。

流出路の閉塞の有無や心筋肥大の発生する部位別に以下のような分類があります。

  1. 閉塞性肥大型心筋症:肥大した心筋によって心室内の血流が妨げられてしまうもの
  2. 非閉塞性肥大型心筋症:肥大した心筋によって心室内の血流が妨げられていないもの
  3. 心室中部閉塞性肥大型心筋症:肥大に伴う心室中部での内腔狭窄があるもの
  4. 心尖部肥大型心筋症:心肥大が心尖部に限局するもの
  5. 拡張相肥大型心筋症:病気の進行により、肥大した心筋壁厚が減少して薄くなり心室内腔の拡大を伴うもの

肥大型心筋症の原因

心筋を構成するサルコメアという構成タンパク質の遺伝子の変異によるものが約半数、残りの約半数は原因が不明です。

相談の目安

胸痛、労作時息切れ、易疲労、呼吸困難などの心不全症状、失神などの自覚症状があるとき

検診などの心電図、心臓超音波検査にて異常を指摘されたとき

上記の症状に併せて、肥大型心筋症の家族がいるとき

疫学的整理

調査対象者全員に心臓超音波検査を行った研究によると日本では人口10万人あたり374人、男女比は2.3と男性に多く、男女ともに60~69歳にピークを認めました。厚生労働省が行った全国疫学と調査では、全国推計患者数は21900人とされています。米国でも人口10万人あたり170人で、肥大型心筋症は稀な疾患ではないといえます。

肥大型心筋症の遺伝的素因

家族内の発症が約半数に認められます。多くは常染色体性優性遺伝という形式で遺伝し、サルコメア遺伝子の変異が主な原因であることが知られています。家族内の発症がない方でも、同様な遺伝子異常を有する場合がありますが、原因不明の方も少なくありません。

肥大型心筋症の症状

肥大型心筋症では、無症状かわずかな症状を示すだけの場合が多く、偶然検診で心雑音や心電図異常をきっかけに診断にいたる場合も多くみられます。

また自覚症状としては、胸の圧迫感、呼吸困難、動悸やめまい、立ちくらみ、眼前暗黒感、失神などが起こることがあります。これらの症状は肥大した心室や不整脈の影響でこれらの症状が出ます。

急に立ち上がったとき、飲酒時、急な気温の変化などで出やすくなります。突然死の原因にもなることがあるため、肥大型心筋症を指摘されている場合は循環器内科での慎重な経過観察が必要です。

おもな合併症

左室流出路閉塞

肥大型心筋症の中の25%程度が左室流出路閉塞性肥大型心筋症で、左室流出路の閉塞により、心拍出量(全身に送り出される血液の量)が急激に減少し、失神や眼前暗黒感などの脳虚血症状が出現します。

冠動脈虚血

肥大型心筋症では明らかな冠動脈狭窄を認めないにも関わらず、心筋肥大による酸素需要の増加から酸素需要供給ミスマッチを起こし、労作時胸痛や胸部圧迫感などの胸の症状が出現することがあります。

心房細動

左心房への圧負荷、容量負荷から心房細動を伴うことがあり、心房内の血栓形成から心原性脳塞栓症を引き起こすことがあります。心房細動を認める場合は血栓形成を防ぐため抗凝固療法による脳梗塞予防が必要になります。

命に関わる危険な不整脈、突然死、心不全

無視出来ない重大な合併症として突然死があります。

不整脈、突然死や心不全に関するハイリスク因子として、命に関わる危険な不整脈があるといわれたことがある、失神・心停止したことがある、血縁関係に肥大型心筋症による突然死もしくは心不全の方がいる、運動負荷に伴う血圧低下(40歳未満の場合)が起こる、著明な左室肥大がある、左室流出路圧較差など血行動態の高度の異常がある場合、遺伝子診断で予後不良とされる変異がある、拡張相肥大型心筋症に移行した、などの項目が挙げられます。

重症化しやすい場合

日本人に多いとされている心尖部肥大型心筋症はおおむね予後が良好です。一方で命に関わる危険な不整脈や突然死、心不全などの前述のハイリスク因子を有する場合は、定期的に専門医のもとで経過観察を受けることが重要です。

肥大型心筋症の中には、経過中に肥大した心室壁が徐々に薄くなり、心臓のポンプ収縮不全に陥り拡張型心筋症のようなを症状を呈する場合があり、拡張相肥大型心筋症といいます。拡張相肥大型心筋症の出現率は5~10%とされ、予後は不良で心臓移植の適応になることがあります。

肥大型心筋症の診断法

学校検診などで行われる聴診、心電図、胸部レントゲン検査で異常を認めることがあり、心臓超音波検査で診断行います。

聴診では心電図には、肥大型心筋症の75~96%になんらかの異常所見が認められます。肥大した心室の影響で異常Q波、ST-T変化、陰性T波、高電位、左房負荷、左室肥大調律の異常、伝導障害などの所見がみられます。

胸部レントゲン検査では、正常所見または軽度心拡大、上肺野血管陰影増強が指摘されることがあります。

詳しい検査のため行う心臓超音波検査では、左室壁の非対称性肥厚や左室拡張能障害などがみられます。

この他、左心室から大動脈へ血液を駆出する通り道である左心室の出口が狭くなっている左室流出路狭窄を認める場合は、僧帽弁の異常運動、流出路の血流速度の増加(肥大した心筋により血液の通り道が狭められ、通る血流が加速する)などが認められます。また病態の把握や重症度の判定のために、循環器内科でホルター心電図や心臓MRI、運動負荷試験、詳細な家族歴調査、遺伝子検査、心筋シンチグラム、心臓カテーテル検査、心筋生検など専門的な検査を行う場合もあります。

肥大型心筋症の診断の難しさ

特に小児の場合、成人に比べて心筋肥大の原因は多岐に渡るため、二次性の心筋症となるような原因がないかどうか、専門的に詳しく調べる必要があります。病態が似て非なる二次性の心筋症の場合、原因によって効果的な治療法が異なるので専門医を受診し精査を受けることが望ましいです。

生活全般について

運動について

競技スポーツは、症状や左室流出路圧較差の有無に関わらず、一部の軽いスポーツ(ビリヤード、ボーリング、ゴルフなど)を除いて、医学的には許可されません。失神したことがある方や血縁関係に突然死の方がいる場合などリスクの高い場合はさらに厳重に注意をする必要があります。

失神や突然死は運動中のみならずむしろ運動直後に見られるので注意する必要があります。レクリエーションとしてのテニス(ダブルス)、ハイキングなどの中等度の運動や、ゴルフ、スケートなどの軽度の運動は安定した状態であれば許可されることがあります。必ず主治医とご相談ください。

性生活について

性交時には運動時と同様に心拍数、血圧とも上昇するため、あらかじめ十分な内科治療を受け、安定した状態であることが前提となります。必ず主治医とご相談ください。

妊娠について

低リスクの女性患者はほとんど安全に妊娠出産が可能です。ただし、妊娠前の状態によっては心不全症状が新たに出現し、悪くなる可能性があり、また薬剤や妊娠中の不整脈や血行動態の変化によって母体だけでなく胎児にも悪影響が出ることもあります。必ず主治医とご相談ください。

飲酒・喫煙について

特に閉塞性肥大型心筋症の方は飲酒により悪化します。喫煙も冠動脈の痙攣の誘因となるため、ともにお勧めできません。主治医ともご相談ください。

感染予防について

特に閉塞性肥大型心筋症の患者さんでは、感染性心内膜炎のリスクが高くなるため、抜歯などの観血的な処置をする場合は、必ず事前に主治医に相談してください。

<リファレンス>

肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(日本循環器学会)

難病情報センター肥大型心筋症 

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