低ホスファターゼ症|clila疾患情報

【目次】

1.低ホスファターゼ症とは
2.低ホスファターゼ症の原因
3.疫学
4.低ホスファターゼ症の症状
5.低ホスファターゼ症の診断方法
6.低ホスファターゼ症の治療
7.低ホスファターゼ症の経過、予後
8.低ホスファターゼ症で注意すべき点

 

1.低ホスファターゼ症とは

 低ホスファターゼ症は骨系統疾患の一つで、組織非特異型アルカリホスファターゼ (ALP) の欠損により生じる遺伝性疾患です。ALPの欠損により、骨や歯の石灰化※1,2が障害され、易骨折性、骨格の異常、乳歯の早期脱落、発育不良、けいれん、呼吸障害など様々な症状を様々な程度に認めます。

本症はその発症年齢、症状により6病型に分類されます。

  1. 周産期重症型:
    最も重症な病型で、胎児期または出生時に診断されます。呼吸不全と高カルシウム血症による症状が予後に影響を与えます。
  2. 周産期軽症型:
    骨格の異常は胎児期から認めるものの、症状はゆっくりと軽症の病型に移行していきます。
  3. 乳児型:
    生後6ヶ月までに発症し、乳児期に死亡する症例もある予後不良な病型です。
  4. 小児型:
    生後6ヶ月から18歳までに発症し、乳歯の早期脱落を伴うのが特徴とされます。重症度は症例によって様々です。
  5. 成人型:
    18歳を過ぎてから発症し、疲労骨折や病的骨折、骨痛によって気づかれることが多い病型です。時に歯の早期脱落を認めます。
  6. 歯限局型:歯に病変が限局する病型で、乳歯の早期脱落、重度の虫歯などを認めます。骨格の病変は認めません。

 遺伝形式は、ほとんどの症例で常染色体劣性遺伝の形式をとりますが、一部は常染色体優性遺伝の形式をとります。
以前は各症状に対する対症療法しかありませんでしたが、本邦では2015年にリコンビナントALP酵素補充薬アスフォターゼアルファの製造販売が承認され、治療法が大きく進歩しました。

 欠乏しているALP酵素を補充することが可能になったことにより、本症の生命予後やQOLが大幅に改善することが期待されています。

※1 骨の石灰化とは、正常な骨代謝の一つの行程です。コラーゲン線維で形成されている類骨にハイドロキシアパタイト(カルシウム、リン酸、水酸化物イオンで形成される)が沈着することをいいます。この石灰化により健康な骨が出来上がります。

※2 ALPは、骨の中にある無機ピロリン酸という物質を分解し、リン酸を作ります。そのリン酸がカルシウムと結合することで、ハイドロキシアパタイトと呼ばれる固い結晶ができ、骨や歯に沈着し骨の石灰化が起こります。したがって、ALPの低下や欠損がある本症では正常な骨の石灰化が起こらず、健常な骨や歯を作ることができません。

 

2.低ホスファターゼ症の原因

 組織非特異型アルカリホスファターゼ (ALP) をコードしているALPL遺伝子の変異によるALPの欠損が原因です。

本症の多くは常染色体劣性遺伝の形式をとりますが、軽症型の一部は常染色体優性遺伝の形式をとります。

 

3.疫学

 本邦における低ホスファターゼ症(重症型)の発症頻度は出生150,000に1人程度と推定されています。その他の病型の頻度は不明です。患者数は100〜200人と考えられています。

 フランスやヨーロッパでの分子遺伝学的検査では、 重症の病型の有病率は30万人に1人と推定されています。

 

4.低ホスファターゼ症の症状

年齢や重症度により、様々な症状が起こります。

1)周産期重症型

  • 肺の機能不全:これが本症乳児の最も多い死因となります。肋骨が健常な骨にならないことで、胸郭が小さかったり変形しているため、肺の動きが悪くなります。
  • 高カルシウム血症:無呼吸、けいれんに関連します。
  • ビタミンB6依存性けいれん※3


※3 本症では、ALPの活性低下のため、ビタミンB6の一種であるPLPからピリドキサール (PL) への脱リン酸化が障害されます。PLは細胞膜を通過できるがPLPは通過できないため、中枢神経系がビタミンB6欠乏状態となり、けいれんを引き起こすと考えられています。

2)周産期軽症型

通常、胎児期に超音波検査で診断されます。
長幹骨は短縮、軽度変形はあるものの、骨石灰化の程度は正常から軽度低下にとどまります。出生後、重症型に見られる症状は減少し、骨病変は徐々に改善していきます。

3)乳児型

出生時には正常なことがあります。しかし生後6ヶ月までに、哺乳力低下や発育障害、くる病様の骨変化※4, 5、高カルシウム血症などを認めます。その他、頭蓋骨縫合早期癒合症※6やそれに伴う頭蓋内圧亢進症状が出現することもあります。
肺機能不全の程度により予後は変わりますが、乳児型の死亡率は高く、治療が行われなければ約50%は呼吸器合併症のため早期に死亡するとされます。


※4 くる病とは、骨の成長に必要なビタミンDやカルシウム、リンの不足やバランスの異常により生じる疾患です。O脚・X脚変形、病的骨折、発育障害などを認めます。

※5 くる病様の骨変化とは、くる病によく見られる所見で、レントゲン写真(特に手関節、膝関節)での骨幹端の杯状陥凹、骨端線の拡大、不整、毛ばだちなどの変化を示します。その他、肋骨では各肋骨端が膨れて縦に数珠状に見える肋骨念珠の所見が見られることがあります。

※6 頭蓋骨縫合早期癒合症:赤ちゃんの頭蓋骨は7つのピースに分かれておりそれぞれの骨片のつなぎ目を縫合線といいます。縫合線が開大していることで、脳の成長に合わせて頭蓋骨も拡大することができます。この縫合線が早期に閉じてしまい、頭蓋骨の成長が抑制された病態を頭蓋骨縫合早期癒合症といいます。頭蓋内圧亢進などを認め、脳に障害を与えることがあります。
 

4)小児型

生命予後は良好な病型で、生後6ヶ月から18歳までに発症します。

乳歯の早期脱落(4歳以下での乳歯の脱落やぐらつき)を特徴とし、歯根と呼ばれる歯の根っこ部分を伴って抜けることで生理的な歯の脱落と区別します。
・くる病様の骨変化、病的骨折
・骨の痛み、関節痛
・筋力低下による歩様異常

1)成人型

生命予後は良好な病型で、18歳以降に発症します。
病的骨折や骨痛で気づかれることが多く、骨密度の低下、筋力低下を認めます。
また永久歯が早期に脱落することもあります。

2)歯限局型

乳歯の早期脱落、重症の虫歯など症状は歯に限局し、他の骨格型に異常を認めない病型をいいます。

 

5.低ホスファターゼ症の診断方法

 乳歯の早期脱落やレントゲンでのくる病様の骨変化などの臨床症状から本症を疑えば、血液検査でのALP活性を調べます。確定診断のためには遺伝子検査が推奨されていますが必須ではありません。

 

 

6.低ホスファターゼ症の治療

1)酵素補充療法

本症の原因であるALPの欠乏を注射で補う治療法です。骨への親和性を高めたリコンビナントALP酵素補充薬アスホターゼアルファを投与することで、骨の石灰化障害を改善します。
本薬剤は本邦では2015年7月に製造販売が承認された比較的新しいものになります。国際共同治験の結果では、周産期重症型、乳児型の重症例において、酵素補充療法を受けた群では、5歳時の生存率が84%(ヒストリカルコントロール群27%)と改善を示しています。したがって、本症の診療ガイドラインでも「ALP酵素補充療法を行うことにより生命予後の改善が充分に期待でき、推奨される」としています。

酵素補充療法の適応:
周産期重症型、乳児型など生命予後が不良であることが予測される場合は絶対的適応とされています。その他の病型であっても、骨症状や筋力低下などにより運動機能やQOL が低下している場合は、酵素補充療法により症状の改善が期待でき、相対的適応があると考えられています。

酵素補充療法の副作用:
注射部位の反応(紅斑、発疹、変色、掻痒感、疼痛、丘疹、 結節、萎縮、肥厚など)の発現が最も多く報告されています。このため、同一部位への反復注射を避け、毎回注射部位を変更することが推奨されています。
その他、発熱、悪寒、易刺激性、悪心、頭痛、アナフィラキシー等も現れることがありますので投与後しばらくは注意が必要です。
また、血清カルシウム値やリン値が変動することもあるため、これらをモニターし必要に応じて補正を行うことも大切です。

2)対症療法

  • 呼吸不全:人工呼吸器などの呼吸管理
  • 高カルシウム血症:低カルシウムミルクの使用
  • けいれん発作:ビタミンB6投与、抗けいれん薬
  • 骨痛、関節痛:痛み止めの使用など
  • 筋力低下:リハビリテーション
  • 乳歯の早期脱落:小児用入れ歯の使用など
  • 頭蓋縫合早期癒合:頭蓋拡大形成手術など

など、症状に合わせた治療を行います。これらは酵素補充療法と併用して行われることもあります。

 

7.低ホスファターゼ症の経過、予後

 病型によって予後は異なります。軽症型ではほとんど無症状の方や、成長とともに症状が自然改善していく方もいます(ALPの必要性が成長とともに減少するため)。重症例では呼吸器症状の悪化で生存率が50%以下の病型もありますが、2015年から始まった酵素補充療法により予後の改善が期待できると考えられています。

 

8.低ホスファターゼ症で注意すべき点

 乳児型では頭蓋縫合早期癒合症による頭蓋内圧亢進をきたすリスクが高いため、吐き気、嘔吐、意識障害などの頭蓋内圧亢進症状の出現には注意が必要です。
 本症小児においては、小児歯科の診察を定期的に受けることが必要です。乳歯の早期脱落に対しては、審美性の回復、発音機能の獲得、残存乳歯への咬合圧の低下などを目的として小児義歯の装着が保険適応で可能です。
 使用を避けたい薬剤として、骨粗しょう症薬であるビスホスホネート製剤が挙げられます。ビスホスホネート投与後に非定型大腿骨骨折が起こったとの症例報告が複数あるため、本症に対しては相対的禁忌と考えられています。

 

上野 ゆかり 整形外科医  2003年国立大学医学部卒業。整形外科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み、小児から高齢者まで幅広い年齢層に対応。家族の仕事により移住したフィリピンにて、邦人に対する医療アドバイス、健康診断フォローアップ事業を開始。現在はドイツ(フランクフルト )にて医療・健康アドバイザーとして活動する傍ら、医療相談、オンライン診療などで臨床活動を継続中。


 

<リファレンス>

難病情報センター 低ホスファターゼ症(指定難病172)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4564

https://www.nanbyou.or.jp/entry/4565

 

小児慢性特定疾病情報センター 低ホスファターゼ症

https://www.shouman.jp/disease/details/15_02_005/

 

GeneReviews Japan 低ホスファターゼ症

http://grj.umin.jp/grj/hops.htm

 

低ホスファターゼ症診療ガイドライン

http://jspe.umin.jp/medical/files/guide20190111.pdf

 

低ホスファターゼ症(HPP)の患者さんとご家族のために

https://strensiq.jp/-/media/strensiq_jp/pdf/hpp.pdf

 

生体内の石灰化機構 日腎会誌 2014;56(8):1196‒1200

https://jsn.or.jp/journal/document/56_8/1196-1200.pdf

 

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