感染性腸炎|疾患情報【おうち病院】

記事要約

感染性腸炎とは、下痢や嘔吐、発熱が見られる疾患のことで、原因は細菌やウイルス、寄生虫などが人の腸管内に入り増殖するためおこります。11月頃から増え始め12月頃にピークとなる傾向があります。この記事では感染性腸炎の原因や予防などについて医師監修の基解説します。

感染性腸炎とは

感染性腸炎は細菌やウイルス、寄生虫などが人の腸管内に侵入、定着、増殖して発症する疾患のことで、下痢や嘔吐、発熱がみられます。多くは食品や汚染された水による感染ですが、ペットやヒトからの接触感染もあります。
感染性腸炎は年間を通して起こりますが、特に例年11月頃から患者数が増加し始め、その後に急増して12月頃にピークとなる傾向があります。一般的には、夏季には細菌性腸炎が、冬から春にかけてはウイルス性腸炎が多く、冬期にはノロウイルスによる感染症や食中毒が多く発生します。乳幼児や高齢者、持病があるなど免疫力の低い人は重症化することがあります。

感染性腸炎の原因と感染経路

細菌(サルモネラ菌、カンピロバクタ-、病原性大腸菌など)、ウイルス(ノロウイルス、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなど)、寄生虫(クリプトスポリジウム、アメーバ、ランブル鞭毛虫など)が原因となります。
梅雨で高温多湿となる夏期には細菌が原因となることが多く、冬期にはノロウイルスなどウイルス性のものが多くみられ、冬期に報告される感染性胃腸炎のうち、特に集団発生例の多くはノロウイルスによるものであると推測されています。
全患者数としてはカンピロバクターとノロウイルスが各2-3 割を占め、サルモネラ菌が続きます。

感染性腸炎の感染経路は、人から人へ感染する場合、感染者の嘔吐物や便を触った手や、手で触れたものを介して口に入り感染します。感染した人の糞便や嘔吐物を処理した後、手指にウイルスが付いたり糞便や嘔吐物が乾燥して舞い上がり口から取り込まれて感染する場合があり、感染者から排泄された糞便および吐物は、感染性のあるものとして取扱いに十分注意が必要です。

また、吐物や下痢便が床などに飛び散り、しっかり取り除かれないまま乾燥してしまうとウイルスは埃と共に空気中を漂います。その飛沫を吸い込んだり体に付着したりして最終的に口の中へウイルスが侵入することで飛沫感染を起こします。

感染しても無症状(不顕性感染)のまま、ウイルスを知らぬ間に排出することもあり、周囲の人が感染してしまうこともあります。また、食品取扱者がウイルスや細菌に感染しており、その人を介して汚染した食品を摂取した場合や十分に加熱調理しないで食べた場合にも感染します。 

感染性腸炎の診断

多種多様な病原体により起こるため、症状、所見、経過、便性状、腸管外症状、季節性、海外渡航歴、ペット飼育歴など詳しい問診を行います。
発熱、嘔気や嘔吐、腹痛と部位、下痢の性状と回数、血便の有無は疾患の重症度を知る上で重要です。海外渡航歴や食事の内容は病原体を推測するのに役立ちます。

検査所見では特徴的なものはありませんが、一般に細菌性の場合、血液検査で白血球数、CRP値などの増加が見られます。また脱水による腎機能障害の有無を確認することも可能です。
糞便の肉眼観察、顕微鏡による観察、便培養、各種迅速抗原検査(ノロウイルス、ロタウイルス、クロストリジウムディフイシルなど)が病原体の診断に有用です。

症状が下痢のみで下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)をすることはあまりありませんが、血便や体重減少など他にも症状がある場合に行います。
血便の頻度が高いのは腸管出血性大腸菌腸炎とアメーバ性大腸炎であり、半数以上が血便を伴います。次いでカンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎が多く22~23%です。

血便をきたす感染性腸炎はほとんどが細菌性腸炎であり、内視鏡検査が行われた場合は非感染性腸炎との鑑別が問題になります。血便の鑑別診断としては虚血性腸炎、抗生剤起因性大腸炎、潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸疾患などがあります。

感染性腸炎の症状

感染性腸炎は下痢、発熱、腹痛、悪心・嘔吐などの急性胃腸炎症状がみられることが多く、特に下痢はほぼ必発であり、他の症状は病原体や感染部位により異なります。
病原体が増殖する腸管の部位により小腸型と大腸型に大きく分類され、罹患部位によって潜伏期、症状が異なります。

小腸の主な罹患部位は上部小腸で、潜伏期は大腸型に比較して短くなります。小腸型の原因はウイルスや、毒素型(生体外毒素産生型)や毒素産生型(生体内毒素産生型)の細菌です。

悪心・嘔吐が主な症状となる急性胃腸炎型の原因はウイルスと毒素型の細菌です。毒素型の細菌には黄色ブドウ球菌、セレウス菌などがあり、体外で既に産生されていた毒素が症状を引き起こすため、潜伏期は1-6時間程度と短くなります。
主な症状は悪心・嘔吐であり、下痢は軽度で発熱も伴いにくいです。口に近い小腸に感染し、粘膜が浮腫むため腸の内腔が狭くなり食べ物や液体が流れにくくなり、上流である胃まで内容物が溜まり嘔吐してしまいます。

ウイルス性の場合、ノロウイルスやロタウイルスが代表的で、ノロウイルスの潜伏期は12時間-2日で、悪心・嘔吐と水様性下痢を認めます。ノロウイルスでは発熱は軽度ですが、ロタウイルスは発熱を認めます。ロタウイルス腸炎は乳幼児に多く、発熱、下痢、嘔吐などがみられ、白色便が特徴です。

水様性下痢が主な症状となる急性腸炎型の原因は毒素産生型の細菌でありコレラ菌、腸管毒素原性大腸菌、ウェルシュ菌、腸炎ビブリオ、セレウス菌などがあります。細菌の増殖に伴い産生された毒素が症状を引き起こし、潜伏期は毒素型に比べてやや長く、1日以内のことが多いです。悪心・嘔吐は軽度で、発熱を伴うことは多くありません。

大腸型の潜伏期は比較的長くなります。
大腸型の原因は、カンピロバクター、サルモネラ、赤痢菌、腸管出血性大腸菌、C. difficile(Clostridioides difficile)、赤痢アメーバなどがあります。大腸型は微生物や毒素による組織侵襲が起こるため、発熱や腹痛を伴い、血便や粘液便などを生じることもあります。
カンピロバクターやサルモネラは粘膜侵入型の細菌であり、上皮細胞を破壊し腸内に潰瘍やびらんを形成することがあります。一方、腸管出血性大腸菌やC. difficileは強力な毒素を産生することにより粘膜傷害を来します。
小腸と大腸のつなぎ目である回盲部に罹患しやすいものにエルシニア、腸チフス菌、パラチフス菌などがあります。下痢や嘔吐などの消化器症状よりも発熱、菌血症などの全身症状が起こりやすく、発熱、腹痛が主な症状で、腹痛は激しいことが多く虫垂炎と間違われることがあります。

感染性腸炎の治療

感染性腸炎の治療は対症療法が中心となります。また、出来る限り水分摂取をすることが大切です。下痢による脱水の影響を防ぐことが最も重要で、水分補給が中心となります。重症になると吐き気や下痢が強く、口から水分が摂取できない場合には脱水症状を防ぐため点滴が必要となります。

薬物治療としては腸内細菌叢を回復させるための整腸剤や、制吐剤や鎮痛薬が用いられます。下痢止めの薬は病原体が腸管内に停留しやすくなり、自然治癒を遅らせてしまう可能性があるため止痢剤は通常、最初から使用することはありません。
軽症では抗生物質は必要とならない場合もありますが、細菌が原因と考えられ症状が強い場合には抗生物質が必要となります。通常ウイルスに効果のある抗ウイルス剤はなく、ウイルス性では抗生物質は効かないため、対症療法が一般的です。急性期の治療で回復すれば経過は良好です。

感染性腸炎の予防

石けんと流水による十分な手洗いが予防の基本です。帰宅時、食前、トイレの後には、必ず流水と石鹸で手を洗いましょう。アルコール消毒ではノロウイルスに効果が低いとされています。
調理と配膳の際に気を付けることは調理・配膳の前後で流水・石鹸による手洗いをしっかり行うこと、加熱が必要なものは食品の中心まで火が通るように「中心温度が85℃以上、1分以上」加熱し、調理したまな板や包丁はすぐに熱湯消毒することが重要です。

嘔吐物や下痢便に大量の病原体が含まれており、わずかな量でも体内に入ると容易に感染するため嘔吐物や下痢の処理をする際の注意が必要です。
特にノロウイルスは感染力が強く、塩素系の消毒剤や家庭用漂白剤でなければ効果的な消毒はできません。高い殺菌力を持つ次亜塩素酸ナトリウム消毒液を使用した消毒や熱消毒によってウイルスを失活化させることで感染拡大の予防に繋がります。

また、嘔吐物や下痢便の処理をする際にウイルスを吸い込むと感染する恐れがあり、ウイルスの飛沫感染を防ぐため、処理をする人以外は少なくとも3mは離れることが勧められる。また放置すると感染が広がるためなるべく早く処理する必要があります。その際、マスク・手袋・ゴーグルを着用し、まず、タオル等で吐物・下痢便をしっかりとふき取ってください。拭き取ったタオルはビニール袋に入れて密封し破棄し、塩素系消毒剤で嘔吐物や下痢便のあった場所を中心に広めに消毒します。

<リファレンス>

「感染性腸炎とは」(国立感染症研究所)
国立医薬品食品衛生研究所安全情報部ノロウイルス関連情報

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