マロリーワイス症候群|疾患情報【おうち病院】

記事要約

マロリーワイス症候群は、消化管出血の原因の上位に位置する疾患でかつては飲酒後の嘔吐が原因と考えられていましたが、つわり、咳やくしゃみ、腹部打撲など急激な腹圧の上昇に伴って発生することが明らかになりました。マロリーワイス症候群の原因・治療などについて医師監修の基解説します。

マロリーワイス症候群とは

マロリーワイス症候群(Mallory-Weiss syndrome)は、1929年に病理医Malloryと内科医Weissによって大酒家で多量の飲酒後に吐気・嘔吐に続いて大量の吐血を来した場合、胃と食道のつなぎ目である胃噴門部付近に裂創を認めるとして報告されました。

しかし、その後、飲酒後の嘔吐を原因とするものばかりではなく、つわり、咳やくしゃみ、腹部打撲など急激な腹圧の上昇に伴って発生することが明らかになりました。そのため「嘔吐などによる急激な腹圧の上昇を誘因とした下部食道胃噴門部近傍の裂創から出血をきたした症例」をマロリーワイス症候群と定義されました。

一般に30~50歳代の男性に多いとされており、消化管出血の原因の上位に位置し、上部消化管出血例の10%前後にあたるという報告が多くされています。

マロリーワイス症候群の原因

裂創の発生には急激な腹圧の上昇と共に局所粘膜の脆弱性も1つの要因として考えられます。急激な腹圧の上昇がおこると内圧上昇による消化管の壁の伸展に粘膜の伸展がついて行けず、食道と胃の境目付近である食道胃粘膜接合部に裂創が生じます。

嘔吐反射が起こると胃の粘膜は食道側にめくれ上がりやすくなり、一時的に食道と胃のつながる部位周辺に対して大きな負担がかかります。

飲酒後、乗り物酔い、つわりなどによる激しい嘔吐によることが多いですが、その他、咳やくしゃみ、排便時のいきみ、分娩後などによってもマロリーワイス症候群が生じることもあります。

マロリーワイス症候群の診断

マロリーワイス症候群の診断は、飲酒後に嘔吐をきたし、鮮血又は黒色の吐物を認めるような典型的な発症をした症例の場合は問診だけでほぼ診断ができることもあります。

しかし、マロリーワイス症候群に限らす上部消化管出血を認めた場合、上部消化管内視鏡検査は非常に有用であり、病変の存在や程度などの診断もでき、出血が持続する場合にはそのまま処置することも可能であるため、上部消化管出血を疑う場合、消化器内科を受診し緊急内視鏡検査を行うことが勧められます。

マロリーワイス症候群の場合、検査を行った時にはすでに自然止血していることも多く、粘膜損傷部位に血液の塊がみられることがあります。また、胃食道接合部の粘膜損傷は、マロリーワイス症候群以外にも、胃食道逆流症、薬剤、感染症などでも起こります。これらの鑑別のためにも上部消化管内視鏡検査は有用です。

マロリーワイス症候群の症状

主な症状は嘔吐を繰り返した後の吐血(新鮮血)です。

基本的には胸痛や腹痛を伴うことはありません。しかし、まれにみぞおちのあたりに痛みがあったり、便に血が混じったりすることがあります。便に血が混じると便が黒っぽくなりタール便と呼ばれ、約10%にみられます。また出血が多い場合、貧血症状を起こし立ちくらみがすることもあります。

マロリーワイス症候群の治療

マロリーワイス症候群は口から鮮血を吐くため、一見重症に見えますが、致命的な大量出血をきたすことは比較的稀です。出血の重症度に応じて輸液、輸血を施しますが、基本的には保存的治療(経過観察)が主体となり、予後は良好です。

実際、緊急内視鏡検査を行うと多くの症例 で自然止血していることが確認されます。緊急内視鏡検査時に自然止血が認められればそのまま経過観察とするか創部にトロンビン液を散布し、程度によっては絶食とし、粘膜保護薬、胃酸分泌抑制薬にて軽度の裂創であれば2~3日程度で治ります。

持続性の出血が認められる場合は、その場で内視鏡的止血術を行います。止血方法はいくつかありますが、いずれの方法も高い止血率が得られます。止血確認後 は軽症例と同様に絶食、粘膜保護薬や胃酸分泌抑制薬の投与を行います。比較的深い傷であっても1週間前後で治るのが一般的です。

<リファレンス>

胃と腸40 Mallory-Weiss症候群 545-547,2005
日本気管食道科学会会報 59(6),576-577,2008
MAYO Clinic 「Gastrointestinal bleeding」

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