顕微鏡的多発血管炎|clila疾患情報

【目次】

1.顕微鏡的多発血管炎とは
2.顕微鏡的多発血管炎の原因
3.顕微鏡的多発血管炎の疫学的整理
4.顕微鏡的多発血管炎の海外動向
5.顕微鏡的多発血管炎の症状
6.顕微鏡的多発血管炎の検査所見
7.顕微鏡的多発血管炎の診断
8.顕微鏡的多発血管炎の治療
9.顕微鏡的多発血管炎で注意すべき点

 

1.顕微鏡的多発血管炎とは

 顕微鏡的多発血管炎(MPA)は、腎臓、肺、皮膚、神経などの臓器に分布する小型血管(顕微鏡で観察できる太さの細小動・静脈や毛細血管)の血管壁に炎症にをおこし、出血したり血栓を形成したりするために、臓器・組織に血流障害や壊死がおこり臓器の機能が損なわれる病気です。とくに、腎臓の糸球体と呼ばれる毛細血管および肺の肺胞を取り囲む毛細血管の壊死をともなう炎症が特徴的です。これらの血管に炎症を起こすと、臓器の血流の悪化や炎症の結果起きるダメージや出血が生じ、臓器の機能が低下してしまいます。特に、腎臓や肺などは生命を司る上で重要な臓器であるため、重症となることがあります。

 血液検査において、抗好中球細胞質抗体(ANCA)の陽性例が多いことより、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA) とともに「ANCA 関連小型血管炎」に分類されています。また、「主 に小血管(毛細血管,細静脈,細動脈など)を障害し,免疫沈着をわずかに認めるか,または全く認めない壊死性血 管炎で,壊死性の動脈炎は小血管だけではなく中型動脈を も障害しうる.ほとんどで壊死性糸球体腎炎を認め,肺毛 細血管炎をしばしば認める.肉芽腫性炎症は認められない」 と定義されています。

一般的に50~60歳以上の高齢者に多く発症し、女性にやや多く発症します。

 

2.顕微鏡的多発血管炎の原因

 この病気の原因は不明ですが、好中球(白血球の一つ)の細胞質に含まれる酵素タンパク質であるミエロペルオキダーゼ(MPO)に対する自己抗体(抗好中球細胞質抗体;ANCA)が高率に検出されることから、自己免疫異常が背景に存在すると考えられています。この抗好中球細胞質抗体が小型血管の炎症に関わっていますが、さらに最近、好中球が細菌を死滅させるために放出するneutrophil extracellular traps(NETs)や、好中球などから放出される小さな粒microparticlesが病気に関連していることが明らかにされています。

 また、遺伝的因子と環境因子の双方が互 いに影響しあい、自己抗体である ANCA が産生され、血 管内皮障害を引き起こすという自己免疫機序の関与が推測 されています。

 遺伝因子として、日本人の MPAでは,HLA- DRB10901 陽性例が 50% にみられ、健康対照群にくら べて有意に多いことが報告されています。この HLA- DRB10901 は日本人の 29%に認められるなどアジア系集 団で高頻度に認められますが、欧州系集団やアフリカ系集団 にはほとんど存在しません。このことが、日本に MPA や MPO-ANCA 陽性例が多い遺伝的背景の一つと考えられています。

また、環境因子として、MPA にはシリカ、薬剤、感染症(ウイルス,グラム陰性 桿菌)などの関与が推測されています。薬剤で最も多いのは プロピルチオウラシル(抗甲状腺薬)であり、その他にミノ サイクリン(抗生剤)、ヒドララジン(降圧薬)などが報告されています。

 

3.顕微鏡的多発血管炎の疫学的整理

 わが国の特定疾患医療受給者証交付件数の報告では,MPA は長年、結節性多発動脈炎(PAN)に含めてま とめられてきましたが、2015 年に新たに制定された「難病の患 者に対する医療等に関する法律」では、MPA は PAN と別の疾患として指定難病に認定されました。2015 年度末の特定疾患医療受給者証交付件数のまとめでは、MPAが 8,511人、PANが 3,442人でしたが、軽 症例は申請されていない可能性が高く,実際の患者数はこ れよりも多いと考えられます。

男女差は,1:1.1 とやや女性 に多く、平均年齢は 70.5 歳とされます。

 

4.顕微鏡的多発血管炎の海外動向

 MPAの100万人あたりの年間発症率は、日本で 18 人 、英国 7 人、ス ペイン 8 人、ドイツ 3 人と報告されています。MPA におけ る ANCA サブタイプの報告では,わが国ではミエロペル オキシダーゼ(myeloperoxidase; MPO)に対する ANCA (MPO-ANCA)が 97.4%と圧倒的に多く、プロテイネース 3(proteinase 3; PR3)に 対 す る ANCA(PR3-ANCA)は 2.6%です。一方,欧米のMPAでは MPO-ANCA が 40~58%, PR3-ANCA が 26~50%であり、日本に比べ PR3-ANCA 陽性比率が高いとされます。 

 

5.顕微鏡的多発血管炎の症状

 MPA は、腎や肺、皮膚、神経系などの各臓器内に分布 する、おもに小型血管(毛細血管、静脈、細動脈など) に壊死性血管炎を認め、このために様々な症状が生じます。MPA では、同じANCA 関連血管炎に属する多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA) と異なり,肉芽腫性炎症を認めない疾患として定義されています。  

 MPA による代表的な小型血管炎として、腎臓では巣状・ 分節性壊死性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎があり、肺では肺毛細血管炎による肺胞出血があります。MPA は多臓器障害性疾患であり、各臓器に分布する血管炎による症状が出現します。基本的には、血管の破綻・梗塞 による出血・梗塞症状と炎症による症状です。全身症状としては、発熱、全身倦怠感、食欲低下、体重 減少などがありますが、これに伴い、腎臓や肺の障害が短期間に急激に進行する場合が多くみられます。また、それだけでなく、緩徐に進行する間質性肺炎など、慢性に経過する場合もあります。

 

【主な症状】

  1. 全身症状:発熱、倦怠感、体重減少など。
  2. 腎症状:血尿、蛋白尿、赤血球円柱などの尿検査異常、足の浮腫みなど腎機能が低下することによっておきる症状。これが比較的急速に月単位あるいは週単位で進行し、急速進行性糸球体腎炎をきたすと腎不全に至ることがあります。
  3. 肺病変:空咳、息切れ。血痰(痰に血が混じる)を生じる場合には、肺胞出血という重篤な症状の可能性があります。
  4. 皮膚症状:紫斑、網状皮斑、皮結節など
  5. 眼病変:結膜充血、複視、視力低下、眼痛など
  6. 耳鼻咽喉症状:中耳炎による難聴
  7. 神経症状:手足のしびれや感覚がない、力が入らないなどの症状(多発性単神経炎)
  8. 消化器症状:腹痛、下血など

 

6.顕微鏡的多発血管炎の検査所見

 血管炎による炎症所見と各臓器障害所見を認めます。炎症反応を示す所見としては,C 反応性蛋白(CRP)・ガンマグ ロブリンの増加、赤血球沈降速度(ESR)亢進、末梢血白 血球数・血小板数の増加があります。

 腎病変では、腎炎を示す尿異常所見(蛋白尿、糸球体性血尿、赤血球円柱、顆粒円柱)、および腎機能低下を示す eGFR の低下、BUN・血清クレアチニンの上昇を認めるこ とがあります。MPA では急速進行性腎炎症候群を呈すること が多く、経過を追った eGFRの測定が重要です。

 肺病変では,肺胞出血を示す非区域性の浸潤影がみられることがあります。間質性肺炎も生じます。眼病変では上強膜炎が,耳鼻咽喉病変では聴力検査で 感音性難聴所見が認められます。
血清中の抗体である抗好中球細胞質抗体が診断に重要であり、MPO-ANCA陽性は診断に重要な所見です。

 また、血管炎の証明のためには、症状や異常がみられる臓器や部位の一部を生検し、顕微鏡で確認する病理組織診断が必要です。頻度が多いのは腎臓ですが、腎生検が困難な場合は、病変がみられる皮膚や神経、筋、肺などから確認できる場合もあります。

 

7.顕微鏡的多発血管炎の診断

 病理組織診断や血清学的診断を含めた顕微鏡的多発血管炎の診断基準(1998年作成)があり、これを参考に診断します。

1998年厚生省MPA診断基準


(1)主要症候

  1. 急速進行性糸球体腎炎
  2. 肺胞出血もしくは間質性肺炎
  3. 腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など

(2)主要組織所見

  • 細動脈
  • 毛細血管
  • 後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤

(3)主要検査所見

  1. MPO-ANCA陽性
  2. CRP陽性
  3. 蛋白尿・血尿、血清BUN、Crの上昇
  4. 胸部レントゲンにて肺胞出血を疑う浸潤影や間質性肺炎像

(4)判定

  1. 確実(definite)
    1. 主要症候の2項目以上を満たし、組織所見が陽性
    2. 主要症候の(a)及び(b)を含め2項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性
  2. 疑い(possible)
    1. 主要症候の3項目を満たす
    2. 主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例

 


参考事項

  • 主要症状の出現する1-2週間前に先行感染(多くは上気道感染)がみられる例が多い
  • 主要症状(a)、(b)は約半数例で同時に、その他ではいずれか一方が先行する
  • 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と並行して変動する
  • 治療を早期に中止すると、再発する例がある
  • 鑑別すべき諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる

*鑑別すべき疾患

結節性多発動脈炎、多発血管炎性肉芽腫症(旧称:Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/Churg-Strauss症候群)、川崎動脈炎、IgA血管炎(旧名Henoch-Schönlein紫斑病。紫斑、皮下出血、腹痛、関節痛、IgAの沈着を伴う血管炎)、他の膠原病(抗GBM抗体病、クリオグロブリン血管炎、白血球破砕性血管炎、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、悪性関節リウマチ、皮膚筋炎、強皮症、Sjögren症候群、MCTDなど)

感染症や悪性腫瘍、薬剤、ほかの膠原病による血管炎を除外する必要があります。ANCA(特にに PR3-ANCA)は,血管炎 以外にも感染性心内膜炎や全身性エリテマトーデスなどの 膠原病でも陽性を示すことがあります。感染性心内膜炎との鑑 別には、歯科治療の既往、血液培養、心エコー所見が重要です。

上記が除外され,原発性の中・小型血管炎が考えられ たときには、他の ANCA 関連血管炎を分類します。最初に、喘息の有無、 末梢血好酸球の増多の有無などて好酸球性多発血管炎性肉芽腫症゙を除外し、次 に、眼、耳、鼻などの上気道、および肺などに肉芽腫を示す所見の有無により多発血管炎性肉芽腫症を 除外します。 こ れ ら 2 疾 患が除外され糸球体腎炎の尿所見、紫斑など小型血管炎の所見を認め、ANCA 陽性のときには MPA の可能性が高くなります。

 MPAは、初めはひとつの臓器障害のみでも、その後に各臓器障害が経過中に次々に出現することがあり注意が必要です。

 

8.顕微鏡的多発血管炎の治療

 血管炎の重症度に応じて、ステロイド薬や免疫抑制薬を用いて、血管の炎症を完全に消失させる寛解導入療法を行います。その後、その状態を維持する寛解維持療法が必要です。生命に危険が及ぶ可能性のある場合には、大量の副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬シクロホスファミドなどの投与が必要となります。また、重症例や難治例についてはシクロホスファミドの代わりにリツキシマブという生物学的製剤を使用することも可能になりました。

 診断後速やかに治療が開始され、症状が改善すれば約3~6か月で寛解に至ることが期待できます。寛解に至った場合、ステロイドを減量し、より副作用の弱い免疫抑制薬(アザチオプリン)に切り替えた維持療法を少なくとも1~2年間は継続します。ステロイド薬と免疫抑制薬による治療により感染症がおこりやすくなりますので、治療を成功させるためには感染症の予防と適切な治療が大切です。

 

9.顕微鏡的多発血管炎で注意すべき点

 治療によって免疫が抑制されると、細菌やウイルスなどの感染症への抵抗力が低下し重篤な感染症にかかりやすくなります。感染症にかかると血管炎の病状を悪化させることもあるため、注意が必要です。また、ステロイドの副作用として高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が悪化することがあるため、規則正しい生活を心掛けることが重要です。

 顕微鏡的多発血管炎は再度病気の勢いが悪くなる(再燃する)ことがしばしば見られるので、定期的に通院して専門医から診察を受け、治療中に異変を感じたら速やかに病院を受診する必要があります。

 

永井 弥生   皮膚科医  皮膚科医として群馬大学病院准教授まで務め、豊富な経験を持つ。その後、医療安全担当者として大きな問題となった医療事故を発覚させ、3年半に渡って担当。医療者と患者の間のコンフリクト(苦情・クレーム・紛争等)対応の第一人者として、講演や研修などを行う。2017年オフィス風の道を立ち上げ、医療者と患者を繋ぐための活動を開始。皮膚科医としても群馬県内の病院にて診療している。

 

<リファレンス>

血管炎症候群のガイドライン(2017年改定版)合同研究班
https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2017_isobe_h.pdf

ANCA関連血管炎診療ガイドライン
https://minds4.jcqhc.or.jp/minds/ANCA/anca.pdf

顕微鏡的多発血管炎(MPA) 日本リウマチ学会
https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/mpa/

難病情報センター 指定難病43 顕微鏡的多発血管炎
https://bit.ly/2ThTr1n

KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト 顕微鏡的多発血管炎  http://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000616.html

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