流産・切迫流産|疾患情報【おうち病院】

記事要約

流産とは妊娠22週未満で妊娠が終了することです。また、切迫流産とは、妊娠22週未満において胎芽・胎児および付属物が排出されていない状態であり、流産へ進行する可能性があると判断される臨床症状を呈する場合を言います。流産・切迫流産の原因・症状・治療方法などを、医師監修の基解説します。

流産・切迫流産とは

流産とは妊娠22週未満で妊娠が終了することです。受精卵側の要因など残念ながら防ぐことができない場合もあり、妊娠初期の流産は約15%の確率で起こります。そのうち80%以上は妊娠12週未満の早い時期で生じています。切迫流産とは、妊娠22週未満において胎芽・胎児および付属物が排出されていない状態であり、流産へ進行する可能性があると判断される臨床症状(性器出血、腹痛、子宮頸管長短縮など)を呈する場合を言います。切迫流産から流産へ進行する方は全妊娠の7.5%程度とされています。

流産・切迫流産の原因と診断

妊娠12週未満の流産の原因は胎児(赤ちゃん)の染色体異常の可能性が高く、その場合、どのような対策を行っても残念ながら流産を防ぐことができないことがほとんどです。
妊娠12週から22週にかけての流産は、胎児そのものに問題が無くても子宮に問題がある場合に起こります。子宮筋腫がある方や子宮頸管無力症という子宮口を閉じる筋肉がうまく働かない状態があると子宮口が開いてしまい胎児を支えられなくなり、流産になる可能性があります。他にも、胎児を包んでいる膜(絨毛膜、羊膜)の周辺の組織が感染により炎症を起こす絨毛膜羊膜炎、胎児を包む膜と子宮の壁の間に血液がたまる絨毛膜下血腫なども流産の原因となります。絨毛膜下血腫が消失しない場合や血腫が大きい場合、感染を生じた場合には流産のリスクが高くなります。
また、甲状腺機能異常や糖尿病は流産のリスクを高めることが指摘されており、甲状腺自己抗体や高血糖による赤ちゃんの染色体異常の増加が関与しているといわれています。血液凝固因子(血栓性素因)異常によっても流産・切迫流産は生じます。血液が固まりやすくなると血流が低下します。これにより赤ちゃんに栄養が届きにくくなり発育不全や胎盤異常が起こり、流産・死産を繰り返す場合があり、抗リン脂質抗体症候群やプロテインS欠乏症などが代表的な病気です。習慣流産・不育症の原因検査のためにこれらの項目を血液検査で精査します。

流産の分類

流産の状態により、稽留(けいりゅう)流産と進行流産に分類されます。

稽留流産

妊娠22 週未満に胎芽あるいは胎児が子宮内で死亡後、症状がないまま子宮内に停滞している状態を言います。出血などの症状を伴い、かなりの期間、胎芽あるいは胎児が子宮内に留まる場合は遷延流産といいます。
稽留流産は経腟超音波検査にて子宮が進行的に増大しない場合、またはβ-hCG定量値が妊娠期間に対して低値あるいは48~72時間以内に2倍とならない場合に疑われます。超音波検査で胎児心拍の消失、胎児の頭殿長が7mmを超える時期に心拍が認められない、胎嚢の平均径が25mmを超える時期に胎芽がみられない場合に確定診断となります。

進行流産

胎芽あるいは胎児とその附属物が子宮外に排出されてきている状態で、「完全流産」と「不全流産」に分けられます.  

  1. 完全流産:胎芽あるいは胎児とその附属物が完全に排出された状態です。完全流産の場合、ほとんどの症例で子宮は十分に収縮し、子宮口は閉鎖します。  
  2. 不全流産:胎芽あるいは胎児および附属物が完全に排出されず、一部が子宮内に残存し、子宮が十分に収縮せず子宮口も閉鎖しないまま、出血などの症状が持続している状態です。
    妊娠はするものの2回以上の流産や死産または生後1週間以内の早期新生児死亡により、赤ちゃんが得られない病気を不育症と言いますが、流産を繰り返す「反復流産」や「習慣流産」も不育症に含まれます。欧米の文献によれば習慣流産は約1%、反復流産は約5%とされています。

反復流産

流産を2回繰り返した場合を反復流産と言います。近年、反復流産の病歴のある方も流産の原因がないかどうかを精査することが大切と考えられるようになってきています。

習慣流産

流産を3回以上繰り返した場合を習慣流産と言います。出産歴がない原発習慣流産と、 出産後に流産を繰り返す続発習慣流産に分けられます。続発習慣流産の場合、胎児染色体異常が原因のことが多く、原因精査をしても明らかな原因は見つからないこともよくあります。厚生労働科学 研究班によると、妊娠歴のある35~79 歳の女性うち、3 回以上の流産は0.9%、2回以上の流産は 4.2%、1回の流産は38%の方が経験していると報告されています。

流産・切迫流産の症状

正常の経過の妊娠中でも妊娠初期には特に少量の出血や軽い腹痛を感じることがよくありますが、流産や切迫流産で起きる場合もあります。生理の時より出血量が多い場合や、腹痛がひどい場合には異所性妊娠(以前は「子宮外妊娠」と呼ばれていました)や進行流産の可能性があるため、早めに医療機関を受診することが勧められます。逆に自覚症状がなくても流産が起こってしまうこともあります。

出血

妊娠初期は、胎児を包む膜と子宮の壁の間に血液がたまる絨毛膜下血腫が起こり出血することがあります。血管が破綻することにより出血し、血腫が形成されますが、血管破綻の修復が進むと出血量が減少し、最終的には止血して血腫は消失すると考えられています。出血は鮮紅色から赤褐色、褐色へと変化してくれば絨毛膜下血腫の消失が期待できる徴候です。問題無く胎児が育っている場合は、安静を継続し、様子を見ていれば大丈夫なことが多いですが、絨毛膜下血腫が消失しない場合や血腫が大きい場合、感染を生じた場合には流産のリスクが高くなります。
流産ではありませんが、出血した場合に深刻な場合があります。胞状奇胎という病気は、胎盤の絨毛が水腫性に腫大して増殖し、嚢胞化するもので正常妊娠ではありません。超音波診断で妊娠5~6週で認められ、しばらく経過観察をした後で確定診断されます。
異所性妊娠は受精卵が卵管内など子宮以外の場所に着床し成育した状態をいい、全妊娠の0.5~1%の確率で発生するとされています。妊娠を継続することが出来ないことがほとんどで、出血と同時に激しい腹痛を伴います。
子宮頚管ポリープはほとんどが良性のポリープですが、柔らかいため少しの刺激で出血することがあります。妊娠中に発見された場合は、ポリープ切除を行うことにより子宮内に影響を与え、流産や破水を誘発するリスクがあるという否定的な考えと、ポリープ自体が出血・感染源となるので予防的に切除した方がよいという肯定的な考えがあります。子宮内膜から連続する脱落膜ポリープの場合は切除すると流早産のリスクが上がることから注意が必要です。

腹痛、お腹の張り

妊娠初期は出血と同様に、腹痛が正常妊娠でも起こることがあります。そのため、症状だけでは流産なのか、正常なのかの判断は出来ません。生理痛のような鈍い痛みからピリピリとする腹痛まで様々ですが、症状を感じたとしても流産とは限りません。出血を伴う激しい腹痛を認める場合は早めに受診するようにして下さい。

流産・切迫流産の治療

妊娠初期に出血や腹痛があり切迫流産と診断されたとしても正常妊娠であることも多く、赤ちゃんが元気で子宮頸管が閉じていれば安静にし経過観察となります。重いものを持たず、動くときは休憩をとりながら身体に負担がかからないように気を付けます。妊娠12週までの切迫流産に対して流産を予防するための有効な薬剤はないといわれています。子宮の中身が一部が子宮内に残ってしまう不全流産、子宮内に胎芽あるいは胎児が留まっている稽留流産の場合、流産手術を行うか、自然に排出されるのを待機するか経過をみながら判断します。自然排泄されるのを待った場合には、出血や腹痛により救急受診となることが多いため、診断確定後、約1週間で自然排出しない場合には流産手術を検討します。

<リファレンス>

産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020
日本母性保護産婦人科医会研修ノート 流産・早産の管理
臨床婦人科産科 74巻10号 (2020年10月)
Recurrent miscarriage. N Engl J Med. 2010 ;363 : 1740-1747

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