ネイルパテラ症候群|clila疾患情報

【目次】

1.ネイルパテラ症候群(爪膝蓋骨症候群)/LMX1B関連腎症とは
2.ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症の原因
3.疫学
4.ネイルパテラ症候群の症状
5.LMX1B関連腎症の症状
6.ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症の診断方法
7.ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症の治療
8.ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症の経過、予後

 

1.ネイルパテラ症候群(爪膝蓋骨症候群)/LMX1B関連腎症とは

 ネイルパテラ症候群(爪膝蓋骨症候群)は、爪の形成不全、膝蓋骨の低形成または欠損、肘関節の異形成、腸骨の角状突起を4徴とする遺伝性疾患です。責任遺伝子はLMX1B遺伝子で、遺伝形式は常染色体優性遺伝となります。

 

 本症では、爪の低形成あるいは欠損を認めます。膝蓋骨は形成不全あるいは欠損し、膝蓋骨を認める場合には習慣的な膝蓋骨脱臼を呈することがあります。肘関節は可動域制限や外反肘変形を認めます。腸骨(骨盤を形成する骨)の角状突起はレントゲン所見として確認することができます。また30〜50%に血尿やタンパク尿などの腎障害を認めます。その他、緑内障、眼圧亢進を一般集団よりも頻度が高く、またより若年で発症するという報告があります。

 

 本症に対する根本的な治療法はありません。膝や肘関節に関しては、日常生活に支障が出る症状に対し、対症的に手術を行うことがあります。また緑内障、腎障害に対しては積極的に治療を行います。本症の予後は、腎障害の発症の有無とその重症度に影響されます。腎障害は出生後いつでも起こりうるため、定期的な尿検査を行い、腎障害の早期発見に留意します。
LMX1B関連腎症は、ネイルパテラ症候群で認められる腎症状だけを認め、爪や膝蓋骨など腎外病変は見られません。

 

2.ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症の原因

 本症は、遺伝子の異常による疾患であることがわかっています。責任遺伝子はLMX1B遺伝子です。LMX1B関連腎症の一部にもLMX1B遺伝子の異常が同定されています。
 

 本症は常染色体優性遺伝の形式をとりますので、次世代に50%の確率で遺伝します。遺伝子の突然変異により発症する孤発例もありますが、本症の88%は同じ疾患の親を持つという報告があります。

 

3.疫学

 本症の有病率は50,000人に1人という報告があります。しかし、軽症例では診断されていない(気づかれていない)ことが考えられるため、実際にはより高くなる可能性があります。
また、人種間、男女間の有病率の差はないとされています。

 

4.ネイルパテラ症候群の症状

1)爪形成不全

両側性に出生時から、爪の欠損、再生不良、分割、薄いなど爪の形成に異常を認めます。典型的には、母指が最も症状が強く、示指から小指にかけて徐々に形成不全の症状が軽くなります。
示指から小指の遠位指節骨間関節(指の第一関節)の屈曲の減少により、第一関節背側の皮膚のシワが消失していることがあります。
 

2)膝蓋骨形成不全

小さい膝蓋骨、膝蓋骨の形状の不整、欠損などを認めます。
関節の弛緩性があるため、繰り返す膝蓋骨の亜脱臼・脱臼の既往、あるいは診察時に亜脱臼や脱臼を診察手技によって誘発できる場合があります。
 

3)肘関節の形成異常

肘関節の伸展、回内、回外など、可動域制限を認めます。
橈骨頭の脱臼を伴うこともあります。
外反肘、翼状肘など外観の異常を認めます。
 

4)腸骨の角状突起 (Iliac horn)

レントゲン所見として、腸骨(骨盤を形成する骨)に見られる両側性の骨の突起は本症の特徴の一つとされ、70〜80%に認めます。
 

5)腎障害

本症の30〜50%に認められます。初期の兆候はタンパク尿で、血尿を伴う場合と伴わない場合があります。タンパク尿は出生以降、どのタイミングでも発症する可能性があるため、定期的な尿検査が早期発見には重要です。
慢性腎障害へ移行する率は5%未満〜15%と報告されています。

本症の腎障害に特徴的とされるのが腎組織の電子顕微鏡所見です。腎糸球体基底膜の肥厚と虫食い像(moth-eaten appearance)が特徴で、肥厚した糸球体基底膜中央の緻密層やメサンギウム基質内にIII型コラーゲン線維の沈着を認めます。
 

6)眼症状

本症の10〜25%に目への影響を認め、緑内障や眼圧亢進を健常な集団よりも高率に認めます。
 

7)胃腸障害

本症の1/3が便秘や過敏性腸症候群の問題を抱えているといわれています。
 

8)その他

末梢神経の異常が25%に認められ、手足のしびれ感・ヒリヒリ感などの知覚異常を多く認めます。
側弯、肩甲骨低形成を認めることもあります。
てんかんを合併する例もあります。

 

5.LMX1B関連腎症の症状

LMX1B関連腎症では、ネイルパテラ症候群で認められる腎臓病だけを呈し、腎臓以外の臓器に症状はありません。

 

6.ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症の診断方法

 爪、膝蓋骨、肘の症状から本症を疑えば、骨盤のレントゲン撮影を行い腸骨の角状突起を確認します。これが確認できれば本症と診断します。
遺伝子診断は可能ではあるものの、すべての患者さんにLMX1B遺伝子異常が認められているわけではないため、異常がない場合でも本症を除外することはできません。

 


<診断基準> 難病情報センターHPより引用

 (1)ネイルパテラ症候群の診断基準

Definiteを対象とする。

 

A.主項目

爪の低形成あるいは異形成

(手指に多く、特に母指側に強い。足趾にある場合は小指側が強い。程度は完全欠損から低形成まで様々である。三角状の爪半月のみを呈する場合や、縦走する隆起やさじ状爪、変色、割裂等がみられることもある。生下時から認められることが多いが、軽症であると気づかれにくい。)

 

B.副項目

  1. 膝蓋骨形成不全
  2. 肘関節異常
  3. 腸骨の角状突起

 

C.遺伝学的検査

LMX1B遺伝子のヘテロ接合体変異

 

D.鑑別診断

  1. Meier-Gorlin 症候群(OMIM224690)
  2. Genitopatellar症候群(OMIM606170)
  3. DOOR症候群(OMIM220500)
  4. 8トリソミーモザイク症候群
  5. Coffin-Siris症候群 (OMIM135900)/BOD症候群(OMIM113477)
  6. RAPADILINO症候群(OMIM266280)

 

E.参考項目

  1. ネイルパテラ症候群の家族歴
  2. 腎障害(血尿、蛋白尿あるいは腎機能障害)
  3. 腎糸球体基底膜の特徴的電顕所見

(腎障害があった場合に腎生検を検討するが、本症の診断上は必須ではない。病理像としては腎糸球体基底膜の肥厚と虫食い像(moth-eaten appearance)が特徴的である。肥厚した糸球体基底膜中央の緻密層やメサンギウム基質内にIII型コラーゲン線維の沈着が見られる。これらの線維成分はリンタングステン酸染色あるいはタンニン酸染色で染色される。)

 

<診断のカテゴリー>

Definite:Aを満たし+Bの1項目以上あるいはCを満たし+Dを除外したもの

 

 

(2)LMX1B関連腎症の診断基準

Definiteを対象とする。

 

A.主項目

  1. 腎障害 (血尿(定性で1+以上)、蛋白尿(尿蛋白0.15g/gCr以上)又は腎機能障害(eGFR<90mL/分/1.73m2以下))
  2. ネイルパテラ症候群の診断基準を満たさない。

 

B.副項目

腎糸球体基底膜の特徴的電顕所見

(腎生検病理において、腎糸球体基底膜の肥厚と虫食い像(moth-eaten appearance)を認め、さらにリンタングステン酸染色あるいはタンニン酸染色により基底膜内に線維成分が染色される。)

 

C.遺伝学的検査

LMX1B遺伝子のヘテロ接合体変異

 

注.尿所見異常あるいは腎機能障害があり、腎生検所見で腎糸球体基底膜の特徴的電顕所見が有った場合あるいは常染色体優性遺伝形式を示す家族歴を有する場合にLMX1B遺伝子検査を考慮する。

 

<診断のカテゴリー>

Definite:Aの2項目+BあるいはCの少なくとも1項目を満たすもの

ただし、腎障害を来す他の原因(腎の形態異常やLMX1B以外の腎疾患の原因となる既知の遺伝子異常)を有するものは除外する。

 


7.ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症の治療

1)膝、肘関節

保存的治療:

痛みに対し消炎鎮痛剤、装具の装着などを行います。

手術治療:

膝蓋骨脱臼を繰り返し日常生活に使用がある場合は、装具の使用を考慮しますが効果的でない場合は手術が必要になります。
肘関節の可動域制限、持続する疼痛に対しても手術を行うことがあります。

いずれも手術をするにあたっては、MRIによる病態の確認が推奨されており、その結果によって術式を決定します。
 

2)腎障害

本症の腎障害に特異的な治療法はありません。腎機能に応じた慢性腎不全の治療を行います。慢性腎不全に至った場合には、透析や腎移植を考慮します。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬などの腎不全予防薬は一定の効果があるとされています。しかし、本薬剤は胎児への影響が報告されており、妊婦及び妊娠している可能性のある女性に対しては禁忌となっています。したがって、投与中に妊娠が判明した場合は、直ちに投与を中止するよう注意喚起がなされています。
腎障害は妊娠中に発症したり、妊娠によって悪化する可能性があります。したがって本症の妊婦には、頻回の尿検査、血圧測定が推奨されます。
 

3)緑内障、眼圧亢進

眼圧をコントロールする目的で、点眼薬の使用や手術治療があります。
治療可能な症状であるため、定期的な眼科受診を行い、適切な治療を受けることが大切です。

 

8.ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症の経過、予後

本症の予後は、腎障害の発症の有無とその重症度に左右されます。腎障害は出生後いつでも起こる可能性があり、また発症時期の予測もできないため定期的な尿検査で早期発見することが重要です。
 

上野 ゆかり 整形外科医  2003年国立大学医学部卒業。整形外科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み、小児から高齢者まで幅広い年齢層に対応。家族の仕事により移住したフィリピンにて、邦人に対する医療アドバイス、健康診断フォローアップ事業を開始。現在はドイツ(フランクフルト )にて医療・健康アドバイザーとして活動する傍ら、医療相談、オンライン診療などで臨床活動を継続中。

 

<リファレンス>

難病情報センター 
ネイルパテラ症候群(爪膝蓋骨症候群)/LMX1B関連腎症(指定難病315)

https://www.nanbyou.or.jp/entry/5470

https://www.nanbyou.or.jp/entry/5471

 

小児慢性特定疾病情報センター 
ネイル・パテラ (Nail - Patella) 症候群(爪膝蓋骨症候群)
https://www.shouman.jp/disease/details/02_02_018/

 

GeneReviews® [Internet] Nail - Patella Syndrome

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1132/

 

ARB及びACE阻害剤の妊婦・胎児への影響について

https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/316_2.pdf

 

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