神経線維腫症|clila疾患情報

【目次】

1.神経線維腫症とは
2.神経線維腫症の原因
3.相談の目安
4.疫学的整理
5.症状
6.診断
7.治療
8.遺伝相談
9.経過観察
10.まとめ

 

II. 神経線維腫症II型
1.神経線維腫症II型とは
2.原因
3.相談の目安
4.疫学的整理
5.症状と診断
6.検査所見
7.治療
8.遺伝相談
9.経過観察・予後
10.まとめ

 

1.神経線維腫症とは

 神経線維腫症は神経皮膚症候群と言われる疾患のひとつです。皮膚の多彩な症状と様々な臓器の神経系腫瘍を特徴とします。常染色体優性の遺伝性疾患ですが、半数以上は孤発例であり突然変異により生じるとされます。

 神経線維腫症は臨床的には8型に分類されますが、1型が最も頻度が高くみられます。

 神経線維腫症1型はレックリングハウゼン病ともよばれています。次いでみられるのは聴神経腫瘍を主体とする神経線維腫症2型であり、ほかは非常に稀です。

 1型は神経堤起源細胞由来の母斑症で、神経線維腫、色素斑、多臓器の神経系腫瘍を特徴とします。

  様々な皮膚症状を呈しますが、その中でも重要なのは生下時から多発する色素斑(カフェオレ斑)、小児期以降に出現する柔らかい腫瘤(神経線維腫)、貧血母斑などが重要です。

 2型は両側聴神経の神経鞘腫(前庭神経鞘腫)が主体となります。聴力障害やめまいを起こし、腫瘍の拡大によって四肢の麻痺や知覚低下も生じます。皮下の神経鞘腫症も認めます。1型のカフェオレ斑とは異なる褐色斑がみられることがあります。

 

I. 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)

 

2.神経線維腫症の原因

 原因遺伝子は第17染色体に存在することがわかっています。これは一種の癌抑制遺伝子であり、神経線維腫症1型ではこの部位に変異が生じて細胞増殖が進むとされます。症状の程度の差はあれ、この遺伝子に以上を持つ人は全て発症します。

 

3.相談の目安

 1型では生下時から存在するカフェオレ斑が、本症を疑う兆候として重要です。色素斑のみの小児期に確定診断は難しいことがありますが、カフェオレ斑が6個異常存在し、腋窩に小レックリングハウゼン斑がみられれば可能性は高いです。扁平母斑との鑑別は難しく、年齢によって出現する症状が異なりますので疑ったら1年に1度程度経過を観察します。(遺伝相談については後述)

 

4.疫学的整理

 本邦の患者数は約 40,000 人と推定されており、出生 約 3,000 人に 1 人の割合で生じるとされます。罹患率に人種によ る差はないとされています。

 

5.症状

(1)主な症状について

①カフェオレ斑

 多くは出生時からみられる扁平で盛り上がりのない斑であり,色は淡いミルクコーヒー色から濃い褐色に至るまで様々で色素斑内に色の濃淡はみられません。通常大きさは 1 ~ 5 cm 程度で形は長円形のものが多く、丸みを帯びた滑らかな輪郭を呈します。10㎝くらいまでを大レックリングハウゼン斑、1㎝以下を小レックリングハウゼン斑と呼びますが、個々の皮疹は扁平母斑(茶色いあざ)とはくべつできません。腋窩にみられる小レックリングハウゼン斑は特徴的とされます。

 出生時に70%が存在します。乳児期以降、通常、数の増加はあまりみられません、

②神経線維腫

 皮膚の神経線維腫は常色あるいは淡紅色の弾性軟の腫瘍であり、思春期頃より全身に多発します。色は皮膚色から淡黄褐色、やや隆起する柔らかい結節です。時に大きく垂れ下がるものはびまん性蔦状神経線維腫と呼びます。

 このような腫瘤が小児期から思春期にかけて出現し、以後進行性に増大、増加します。末梢神経内に神経線維腫が生じると、皮下の神経走行に沿って紡錘形のやや硬い腫瘤として触れ圧痛や放散痛を伴うことがあります。

③その他の皮膚病変

 貧血母斑がみられることがあります。これは、入浴や摩擦によって周囲の皮膚が赤くなった際に、境界明瞭な皮膚が蒼白となった部位が出現するものです。

 また、幼児の顔面および頭部に黄色の小腫瘍が出現し、数年で消退する黄色肉芽腫などがあります。

④その他の症状

 中枢神経病変として脳神経や脊髄神経の神経線維腫などによるけいれん発作、知能低下などをきたすことがあります。脊柱側弯や胸郭の変形、下腿骨の湾曲・骨折、頭蓋骨の骨欠損などの骨の異常がみられます。脊椎の変形は10歳ごろから始まり、約10%に認められるとされます。変形は側彎、後彎、前彎などがあり側彎が最も多くみられます。眼ではLisch結節と呼ばれる交際の結節を生じたり、眼窩内の神経線維腫による眼球突出を生じることがあります。

(2)主な症状の出現率と出現時期

カフェ・オ・レ斑     95%     出生時 
皮膚の神経線維腫     95%     思春期 
神経の神経線維腫     20%     学童期 
びまん性神経線維腫    10%     学童期 
悪性末梢神経鞘腫瘍     2%     30 歳前後が多い(10-20% は思春期頃) 
雀卵斑様色素斑      95%     幼児期 
視神経膠腫        7-8%     小児期
虹彩小結節        80%     小児期 
脊椎の変形        10%     学童期 
四肢骨の変形・骨折    3%      乳児期 
頭蓋骨・顔面骨の骨欠損  5%      出生時 
知的障害(IQ<70)   6-13%     幼児期 
限局性学習症       20%     学童期 
注意欠如多動症     40-50%     幼児期 
自閉スペクトラム症   20-30%     幼児期 
偏頭痛          25%     学童期 
てんかん         6-14%    小児期 
脳血管障害         4%     小児期

 

6.診断

(1)診断基準は以下のようになります。

日本皮膚科学会【神経線維腫症 1 型(レックリングハウゼン病)の診断基準 2018】

 (概念) カフェ・オ・レ斑,神経線維腫を主徴とし,皮膚,神経系,眼,骨などに多種病変が年齢の変化とともに出現し,多彩な症候を呈する全身 性母斑症であり,常染色体優性の遺伝性疾患である. (診断基準) 

1)遺伝学的診断基準 NF1 遺伝子の病因となる変異が同定されれば,神経線維腫症 1 型と診断する.

2)臨床的診断基準 

  1. 6 個以上のカフェ・オ・レ斑
  2. 2 個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫など)またはびまん性神経線維腫
  3. 腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling) 
  4. 視神経膠腫(optic glioma) 
  5. 2 個以上の虹彩小結節(Lisch nodule) 
  6. 特徴的な骨病変の存在(脊柱・胸郭の変形,四肢骨の変形,頭蓋骨・顔面骨の骨欠損) 
  7. 家系内(第一度近親者)に同症 

7 項目中 2 項目以上で神経線維腫症 1 型と診断する.

 <その他の参考所見> 

  1. 大型の褐色斑 
  2. 有毛性褐青色斑 
  3. 若年性黄色肉芽腫 
  4. 貧血母斑 
  5. 脳脊髄腫瘍 
  6. Unidentified bright object(UBO)
  7. 消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor, GIST) 
  8. 褐色細胞腫 
  9. 悪性末梢神経鞘腫瘍 
  10. 限局性学習症(学習障害)・注意欠如多動症・自閉スペクトラム症 (診断のポイント) 

(2)診断する上での注意点

 カフェオレ斑と神経線維腫がみられれば診断は比較的容易です。色素斑のみの小児期に確定診断は難しいことがあるが、カフェオレ斑が6個異常存在し、腋窩に小レックリングハウゼン斑がみられれば可能性は高いです。

 遺伝性の疾患ですが、両親ともに健常のことも多く患者の半数以上は孤発例です。幼少時期にはカフェ・オ・レ斑以外の症候はみられないことも多いため,時期をおいて再度診断基準を満たしているかどうかの確認が必要です。個々の患者にすべての症候がみられるわけではなく,症候によって出現する時期が異なります。

 

7.治療

 根本的な治療方法はなくそれぞれの症状に対する治療となります。カフェオレ斑に対してはレーザー治療が行われますが、満足する結果が得られないことが多いです。目立つ部位の神経線維腫は外科的切除を行うこともあります。大型のびまん性蔓状神経線維腫も切除の対象ですが、大出血をきたすことがあり注意が必要です。

 脊椎側彎などの変形に対しては軽度ならばコルセット着用でよいですが、重症例では脊椎固定術が必要となります。

 

8.遺伝相談

 神経線維腫症1型は常染色体優性の遺伝性疾患であり、浸透率は ほぼ 100% であるので本人が本症に罹患している場合 には子供に遺伝する確率は常に50%となります。ただし、 両親ともに健常であっても突然変異によって生じると考えられています。

 遺伝子診断を行う際には遺伝診療科等よる事前の遺伝カウンセリングが望ましいですが、現在診断目的で NF1 の遺伝子検査を行っている施設はありません。出生前診断は技術的には可能ですが、個々の患者の重症度に大きな差のある疾患に出生前診断を行うことに対する社会的同意が得られていないのが現状です。仮に胎児が罹患していたとしても倫理的な観点からも人工妊娠中絶の是非を判断することは難しいので、本邦においては現在、遺伝子診断は行われていません。

 

9.経過観察

 小児では1年に1度程度で経過を観察します。CT、MRI、脳波などの検査は症状がなければ必ずしも行う必要はありません。 成人は皮膚のみでなく他部位の神経腫瘍の合併に注意して画像検査を含めた経過観察が望ましいです。
生命予後は良好で、悪性末梢神経腫瘍の発生は数%以下です。

 

10.まとめ

 厚労省特定疾患の1つですが、重症度分類で、びまん性の神経線維腫、悪性末梢神経鞘腫瘍、高度の脊椎変形、中枢神経症状などを合併した重症例のみが対症となっています。

 原因遺伝子が明らかになっていますが、現在のところ根治的治療法はありません。しかしながら、皮膚病変の存在がいかに患者やその家族に精神的苦痛を与え,社会生活をしていく上で大きな障害となっているかということを十分に認識して、個々の患者さんの希望に応じた適切な治療を行う必要があります。
 

《参考》

日本皮膚科学会 神経線維腫症 1 型(レックリングハウゼン病) 診療ガイドライン 2018
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/NF1_GL.pdf

 

II. 神経線維腫症II型

1.神経線維腫症Ⅱ型とは

 両側に聴神経腫瘍(神経鞘腫)が診られるのが特徴で、その他に髄膜腫、神経鞘腫などを生じます。神経鞘腫は単発のことが多いですが、遺伝性の場合には多発します。脳神経、末梢神経、脊髄神経根に好発し、脳神経の場合には脳腫瘍全体の8〜10%を占めます。

 

2.原因

 常染色体優性遺伝、第22番めの染色体22qにあるNF2という遺伝子の変異でメルリンという蛋白が正常に働かなくなって起こります。

 

3.相談の目安

 聴力低下、耳鳴り、めまい、ふらつき、顔と舌のしびれが主な症状です。特に片耳の聞こえが悪いという症状が始まりのことが多いです。画像診断と専門医への相談が必要となります。

 

4.疫学的整理

 50,000〜100,000に1人の頻度で発症し、約50%は突然変異で生じ、両親は健常です。

 

5.症状と診断

 聴力低下、耳鳴り、めまい、ふらつき、顔と舌のしびれが主な症状です。

 MRI又はCTで両側聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)が見つかれば神経線維腫症II型と診断します。また、親・子ども・兄弟姉妹のいずれかが神経線維腫症II型のときには、本人に①片側性の聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)、または②神経鞘腫・髄膜腫・神経膠腫・若年性白内障のうちいずれか2種類が存在すれば診断が確定します。

 

6.検査所見

 造影MRI、聴力検査、眼科的検査が必要で、特に造影MRIと聴力検査は毎年1~2回定期的に行う必要があります。

 頭部造影MRIでは、前庭神経鞘腫・三叉神経鞘腫を始めとする各脳神経鞘腫、髄膜腫、脳室内髄膜腫や眼窩内腫瘍もみられます。また、脊髄造影MRIでは、多発する脊髄神経鞘腫と髄内腫瘍(多くは上衣腫)がみられます。これらの腫瘍は、成長せずに長期間同じ大きさでとどまることもあるが、増大することもあり、成長の予測は困難です。

 聴力検査としては、純音聴力検査、語音聴力検査、聴性脳幹反応検査を行います。聴力レベルと前庭神経鞘腫の大きさは必ずしも相関せず、聴力レベルが長期間不変のことや急に悪化することもあります。

 眼科的には白内障検査と視力検査を行います。若年性白内障(posterior subcapsular lenticular cataract)は外国では80%と高率に報告されています。

 

7.治療

 治療方針としては、何もしないで様子をみる、放射線治療をする、手術で腫瘍をとる、の3つになります。それぞれの利点と欠点があり、それぞれの患者さんの年齢や聴力の程度、生活状況等を含めてよく検討して決定します。基本的には良性腫瘍であり、症状が軽度であれば経過観察も可能です。多くは放射線治療でも軽快が期待できるので、よほど大きな腫瘍の場合に開頭手術を検討します。

 治療の目的は聴力を保つことと顔面神経麻痺を生じさせない、ということになります。

 腫瘍は多発することもありますが、治療を要するかどうかは慎重な検討が必要です。両側の聴神経腫瘍は難しいので詳しい専門の脳外科医に相談する必要があります。

 近年、ラパチニブやベシツズマブといった薬物治療が有効という報告もありますが、まだ一般的なものとはなっていません。

 

8.遺伝相談

 神経線維腫症2型のリスクが50%の妊娠における出生前診断は、通常、妊娠約15-18週に行われる羊水穿刺か10-12週に行われる絨毛生検で得られる胎児の細胞から抽出したDNA解析により可能です。 

 

9.経過観察・予後

 神経線維腫症II型は、腫瘍があっても何年も無症状で経過することもありますが、特に若年者では腫瘍が成長して、急速に難聴などの神経症状が進行することもあります。両側聴神経鞘腫など頭蓋内腫瘍のが急速に増大する場合には生命の危険もあります。

 過去の調査では、5年・10年・20年生存率は各々85%・67%・38%であったとされます。

 聴力やその他の神経症状の程度により特定疾患の対症となります。

 

10.まとめ

 神経線維腫症2型は、聴力やその他の神経症状の程度により特定疾患の対症となります。

 患者さんは聴力の低下、顔面神経麻痺、歩行が不安定、体の痛みなど身体面での障害をかかえるために生活の質が低下していきます。病気に対する精神的なストレス、将来への不安に加えて、日常的な個人あるいは家庭生活、生活費の問題なども生じ、公的な精神面での健康管理と生活補助が求められます。

 

永井 弥生   皮膚科医  皮膚科医として群馬大学病院准教授まで務め、豊富な経験を持つ。その後、医療安全担当者として大きな問題となった医療事故を発覚させ、3年半に渡って担当。医療者と患者の間のコンフリクト(苦情・クレーム・紛争等)対応の第一人者として、講演や研修などを行う。2017年オフィス風の道を立ち上げ、医療者と患者を繋ぐための活動を開始。皮膚科医としても群馬県内の病院にて診療している。

 

<リファレンス>

難病情報センター 神経線維腫症
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3992

遺伝子疾患情報リスト
神経線維腫症1型
http://grj.umin.jp/grj/nf1.htm

神経線維腫症2型
http://grj.umin.jp/grj/nf2.htm

    コメントを書くにはが必要です。

    カテゴリー

    タグ