多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)|疾患情報【おうち病院】

記事要約

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、月経異常、卵巣の多嚢胞性変化、男性化徴候(多毛など)を主要な特徴とする疾患です。多嚢胞性卵巣症候群の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

他嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは

多嚢胞性卵巣症候群(Polycistic Ovarian Syndrome、以下PCOS)とは、月経異常、卵巣の多嚢胞性変化、男性化徴候(多毛など)を主要な特徴とする疾患です。肥満、耐糖能異常、不妊の病態と関連しているなど、表現の現れ方が多彩で幅の広いことも特徴的な疾患の側面です。女性の代謝内分泌疾患の中で一番頻度の高いものの一つとしても知られています。

ここでは、成人における多嚢胞性卵巣症候群について記載しています。

原因・リスク因子(2)

PCOSの原因は明らかではありません。歴史的には、視床下部ー下垂体ー卵巣のホルモンバランスの異常による病態という説明がなされていましたが、近年はインスリン抵抗性、遺伝的要素、環境因子などの関連についても研究が進んでおり、複数因子の交差により発症したり増悪したりするのではないかと考えられています。

以下のような病態のグループが、PCOSのハイリスク群として考えられています。

・稀発排卵を伴う不妊症

排卵の時期に向けて主席卵胞が育ちにくくなっている病態は、卵巣の局所変化(AMH(抗ミュラー管ホルモン)過剰によるFSH(卵胞刺激ホルモン)の反応不良、過剰なアンドロゲン分泌による卵胞閉鎖など)が関連しているのではないかと考えられています。他のホルモンバランス異常(例:視床下部性無月経など)に起因する不妊症群に比べ、PCOS群ではクロミフェン(排卵誘発剤)を使用した時の妊娠率が、やや低いことが知られています。そのようなことから、排卵頻度が少ないことに加えて、まだ解明されていないPCOS特有の不妊症の病態があるのではないかと考えられています。

・肥満

・耐糖能異常

・1型、2型糖尿病、もしくは妊娠糖尿病既往者

インスリン抵抗性(インスリン過剰)が下垂体からのLH及び卵巣におけるアンドロゲンの分泌亢進に影響を与えていることが示唆されています。しかし、肥満がインスリン抵抗性を高めることは分かっていますが、肥満でないPCOSの症例でもインスリン抵抗性が高くなっていることは報告されています。最近では、肥満はPCOSの主原因ではなく、何らかの内分泌的動態がアディポネクチン(脂肪細胞が分泌するアディポサイトカインの一つで、動脈硬化や糖尿病予防に働くと考えられている物質)の分泌を減少させ、その影響でインスリン抵抗性とアンドロゲン分泌亢進が起こっているのではないかと考えられています。

・同じ家系におけるPCOSの集簇発生

双胎研究報告(PCOSとの相関:一卵性双胎では71%、二卵性双胎では38%)(3)や、一親等家族においてPCOSがよくみられること(有病率が20~40%程度)(4)等から、PCOSの発生には何らかの遺伝因子が関与している可能性が示唆されています。

・バルプロ酸の使用

抗てんかん薬であるバルプロ酸を使用するグループにおいて、PCOSの発生頻度がやや高くなることが知られています。バルプロ酸は卵巣莢膜細胞のアンドロゲン産生を促進する作用と関連があるのではないかと考えられています(6)。

疫学的整理・海外動向

欧米では、以下の4つのPCOSのフェノタイプ を網羅する包括的な診断基準、Rotterdam criteriaが広く用いられています。

【Rotterdam criteria】

以下の3つの項目のうち、2つが当てはまる場合、PCOSと診断されます。

  • 稀発/無排卵
  • 臨床的高アンドロゲン血症または血液検査で高アンドロゲン血症を認められる場合
  • 超音波断層検査により多嚢胞卵巣が認められる場合

*PCOSの4つのフェノタイプ*

  1. フェノタイプ A:高アンドロゲン血症、稀発排卵、多嚢胞性卵巣を全て認めるタイプ。
  2. フェノタイプ B:高アンドロゲン血症、稀発排卵を認めるタイプ。
  3. フェノタイプ C:高アンドロゲン血症、多嚢胞性卵巣を認めるタイプ。
  4. フェノタイプ D:稀発排卵、多嚢胞性卵巣を認めるタイプ。

Rotterdam criteriaは、完全には解明されていない発生機序を考慮した上で、一番現状に適した診断基準だろうと考えられています。この基準を用いると、身体所見と月経の状態からPCOSの診断を下すことも可能となりますが、患者に現れている徴候の原因(例:甲状腺機能異常、副腎過形成、高プロラクチン血症等)の除外が確実に行われていることがまず診断の前提であることも、合わせて強調されています。

数十年の間に診断基準が少しずつ変わってきていることから、今後の原因やリスク因子に関する研究の成果によっては、診断基準が改定されていくことも予想されます。

Rotterdam criteriaを用いた場合のPCOSの成人における有病率は10%程度、月経不順について明記のある診断基準を用いる場合には6%程度になるため、全体のPCOSの有病率は6~10%程度と考えられています(7)(日本産科婦人科学会の文献では5~8%(1))

症状・徴候

PCOSの患者によくみられる症状・徴候として、以下が挙げられます。

《1》月経周期の異常
排卵頻度が少ない、あるいは無排卵周期と関連のある稀発月経、無月経が比較的よくみられます。思春期の時期から月経不順が遷延しているタイプや、正常な月経周期が体重の増加後不順な月経周期に変わっていくタイプなど、別の関連因子の出現によって、病状が変化していくこともあります。

《2》不妊
不妊症の原因のうち、排卵障害が疑われる場合、各種検査によりPCOSと診断される事があります。

《3》肥満
日本のPCOS患者の約25%がBMI25以上の肥満であるという報告があります(8)(米国の報告ではPCOS患者の約半数が肥満)。

《4》多毛、痤瘡、男性型脱毛
高アンドロゲン血症によるものと考えられています。

欧米ではPCOS患者におけるこれら徴候の出現頻度は日本での頻度に比べてかなり高く、生化学的検査においても、約5〜9割に高アンドロゲン血症が見られるという報告もあります。一方日本においては、出現頻度は多毛、男性化徴候それぞれ10.5%,2.5%程度と少なく、実際診断のための血液検査においても高アンドロゲン血症を示す症例は多くないため(正常アンドロゲン値、高LHパターンもよく見られる)(いわゆるフェノタイプDの患者が比較的多い)、日本の診断基準はその地域性が反映されたものとなっています(5.診断の方法参照)。

《1》〜《4》の徴候の中で、日本では月経不順・無月経等の月経周期異常や不妊の傾向が、受診動機になる事が多いと思われます。

診断の方法

日本では通常日本産科婦人科学会によりまとめられた診断基準を用いることが一般的です。以下の通りです。

【日本産科婦人科学会による診断基準(2007)】

以下の1〜3の全てを満たす場合を、多嚢胞性卵巣症候群とする。

  1. 月経異常
  2. 多嚢胞卵巣(超音波断層検査で、両側卵巣に多数の卵胞が見られ、少なくとも一つの卵巣で2~9mmの小卵胞が10個以上存在するものをさす)
  3. 血中男性ホルモンの高値、またはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常

注1:月経異常は、無月経、稀発月経、無排卵周期症のいずれかをとる

注2:多嚢胞卵巣は、超音波断層検査で両側卵巣に多数の小卵胞が見られ、少なくとも一方の卵巣で2〜9mmの小卵胞が   10個以上存在するものとする。

注3:内分泌検査は、排卵誘発薬や女性ホルモン薬を投与していない時期に1cm以上の卵胞が存在しないことを確認の上で行う。また、月経または消退出血から10日目までの時期は高LHの検出率が低いことに留意する。

注4:男性ホルモン値は、テストステロン、遊離テストステロンまたはアンドロステンジオンのいずれかを用い、各測定系の正常範囲上限を超えるものとする。

注5:LH高値の判定は、スパック-Sによる測定の場合はLH≧7mIU/ml(正常女性の平均値+1x標準偏差)かつLH≧FSHとし、肥満例(BMI≧25)ではLH≧FSHのみでも可とする。

その他の測定系による場合は、スパック-Sとの相関を考慮して判定する。

注6:クッシング症候群、副腎酵素異常、体重減少性無月経の回復期など、本症候群との類似の病態を示すものを除外する。

上記のように、通常診断においては問診による月経症状の確認及び、超音波断層検査と血液検査が必要となります。日本の診断基準においては血液検査が必須であるという点が、欧米の診断criteria(3.疫学的整理・海外動向参照)とは異なっています。

治療

PCOSは表現型が複数あり、また病態も複雑であるため、以下がPCOSの治療のゴールを一つにまとめることはできません。包括的に考えると、治療のゴールは以下のようにまとめることができます。

  • 高アンドロゲン症状の改善
  • 2型糖尿病と心血管系疾患の予防
  • 子宮内膜増殖症と子宮体癌の予防
  • (妊娠を希望しない場合には)より確実な避妊(不規則な排卵により予期せず生じる望まない妊娠を予防する)
  • (妊娠を希望する場合には)排卵誘発

以下、治療の概要について記載します。

【全般的に】

ライフスタイルの改善(体重の減少を目指した食事・運動療法)は高アンドロゲン症状・インスリン抵抗性・妊孕性いずれにも効果を期待する事ができるため、特に体重が標準を超えているPCOS症例については、まず取り組むべき内容と考えられています。

【妊娠を希望しない場合】 

《1》低用量ピル 

月経周期の調整と、将来の子宮内膜増殖症、子宮体癌の予防の観点から第一選択薬として考えられるのは、低用量ピルです。避妊効果や多毛症状、痤瘡症状の改善効果も共に期待する事ができます。しかし、上記以外の男性化徴候、インスリン抵抗性、肥満について直接的な効果はあまり期待できません。

低用量ピル使用においては、事前に

・妊娠の有無 

・静脈血栓塞栓症のリスク因子がないか(年齢(40歳以上・BMI30以上・喫煙・高血圧等の既往症)

について確認する必要があります。

静脈血栓塞栓症のリスクやその他の理由により低用量ピルの使用が困難な場合には、代用としてプロゲスチン周期投与もしくは持続投与、あるいはプロゲスチン成分含有IUDを使用するといった選択肢もあります。

《2》メトフォルミン

低用量ピルほど月経周期を強力に整える効果はありませんが、穏やかに月経周期を修復していく作用は期待する事ができる可能性があるとして、低用量ピルの代用として使用されることもあります。特に、インスリン抵抗性を認める症例において、特に有効性が高いと考えられています。避妊効果はありません。

《3》スピロノラクトン

多毛症状の改善目的で低用量ピルが使用できない場合に代用される事があります。しかし、日本では保険適応ではありません。避妊効果はなく、妊娠中の使用により胎児が男児の場合、外性器の発育を阻害する影響があるため、使用中は妊娠が起こらないよう注意が必要です。

【妊娠を希望する場合】

《1》排卵誘発剤

クロミフェンクエン酸塩(以下クロミフェン)の使用が昔から広く行われてきましたが、最近は多胎のリスク及び子宮内膜菲薄化作用が少ないという事で、レトロゾール(アロマターゼ阻害薬)が選択されることも増えてきています。ただし、日本ではレトロゾールは月経異常などについて保険適応がないため、使用の際には適切なインフォームドコンセントが必要です。 

ゴナドトロピン療法が選択されることもありますが、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の発症リスクがあり注意が必要です。

《2》メトフォルミン

単独で用いられることは少なく、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクを軽減する等の目的で、他の排卵誘発剤と併用される事が多いです。

《3》外科的治療:腹腔鏡下卵巣開孔術

クロミフェンなどの内服による排卵誘発効果が乏しい場合に検討される方法です。術後の自然排卵やクロミフェン感受性の改善が期待できます。また術後は多胎妊娠のリスクが少なくなります。

社会的影響とその対策(10)

PCOSは月経異常や不妊症との関連だけではなく、以下のような疾患のリスク因子とも考えられています。

・2型糖尿病 

・循環器疾患

・メタボリックシンドローム

肥満人口の多い欧米では、高インスリン血症とBMIの高値が重なる場合にメタボリックシンドロームの発症が多いという認識が広く持たれていますが、肥満人口の少ない日本も含めたアジア諸国においては、非肥満PCOS患者でもメタボリックシンドロームの発症が多いという報告(8)もあります。

・子宮内膜増殖症、子宮体癌

PCOSのない集団に比べて、PCOS患者において子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクがやや上昇することが言われています。(50歳以下の女性においては1.3/10000の頻度)。プロゲステロンの分泌が不十分で稀発月経、無月経状態が遷延している場合には、エストロゲンの子宮内膜への慢性的な刺激が関与していると考えられています。

・妊娠初期流産

PCOS患者群において、初期流産の発症率が20〜40%ほど上昇するという報告もあります。

その他にも、睡眠時無呼吸症候群等、睡眠に関連する疾患やうつ病等の気分障害が、PCOS患者に比較的多く見られるということも知られています。

上記のように、PCOSは潜在的に、単なるホルモンバランスの変調に関連する疾患の枠に留まらず、女性の人生において様々な影響を与える可能性のある疾患という事が分かっています。

しかし現実においては、PCOSは

  • 疾患の名称(多嚢胞性卵巣症候群)に専門的な響きがあり、どのような健康問題であるのか分かりにくい。
  • 病態自体が複雑であり、一般の人に理解が難しいかもしれない。

ということが言われており、併せて社会における理解が進んでいないことも問題提起として挙げられています。上記の理由のためかどうかは分かりませんが、PCOSの患者が自分の症状の病状理解のために複数の医療者に相談をしたり、診断と治療に至るまでに時間がかかってしまうことも多いようです。

将来の妊孕性、また学業や職業における生産性への影響について考えた場合、女性は年齢や婚姻関係の有無といった条件を問わず、月経周期の異常が慢性化しているような場合、またPCOSに関連する症状や徴候を伴うような場合には、専門家への相談の機会が障壁なく得られることが望ましいでしょう。

また、他の女性疾患と同様に、それぞれの女性そして取り巻く社会が、より女性特有の体の特徴について認識を深めると同時に、疾患についての啓蒙や教育活動がより普及していくことも併せて望まれます。

<リファレンス>

(1)産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020

(2)峯岸敬、篠崎博光(2012) 下垂体性腺系の異常とその治療 日本内科学会雑誌 101, 985~991

(3)Vink JM, Sadrzadeh S, Lambalk CB, Boomsma DI. Heritability of polycystic ovary syndrome in a Dutch twin-family study. J Clin Endocrinol Metab. 2006 Jun;91(6):2100-4. doi: 10.1210/jc.2005-1494. Epub 2005 Oct 11. PMID: 16219714.

(4)Kahsar-Miller MD, Nixon C, Boots LR, Go RC, Azziz R. Prevalence of polycystic ovary syndrome (PCOS) in first-degree relatives of patients with PCOS. Fertil Steril. 2001 Jan;75(1):53-8. doi: 10.1016/s0015-0282(00)01662-9. PMID: 11163816.

(5)Sirmans, Susan M, and Kristen A Pate. “Epidemiology, diagnosis, and management of polycystic ovary syndrome.” Clinical epidemiology vol. 6 1-13. 18 Dec. 2013, doi:10.2147/CLEP.S37559

(6)Nelson-DeGrave VL, Wickenheisser JK, Cockrell JE, Wood JR, Legro RS, Strauss JF 3rd, McAllister JM. Valproate potentiates androgen biosynthesis in human ovarian theca cells. Endocrinology. 2004 Feb;145(2):799-808. doi: 10.1210/en.2003-0940. Epub 2003 Oct 23. PMID: 14576182.

(7)Bozdag G, Mumusoglu S, Zengin D, Karabulut E, Yildiz BO. The prevalence and phenotypic features of polycystic ovary syndrome: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod. 2016 Dec;31(12):2841-2855. doi: 10.1093/humrep/dew218. Epub 2016 Sep 22. PMID: 27664216.

(8)松崎利也 2016 「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)治療の必要性 【メタボリックシンドロームの発生率が高いため,肥満PCOS患者の治療には減量が重要】」『週間日本医事新報』(4788):59

(9)Kim MJ, Lim NK, Choi YM, et al. Prevalence of metabolic syndrome is higher among non-obese PCOS women with hyperandrogenism and menstrual irregularity in Korea. PLoS One. 2014;9(6):e99252. Published 2014 Jun 5. doi:10.1371/journal.pone.0099252

(10)働く女性の健康増進白書2018年

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