原発性胆汁性胆管炎|疾患情報【おうち病院】

記事要約

原発性胆汁性胆管炎とは、肝臓の中のとても細い胆管が壊れる病気です。原発性胆汁性胆管炎の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

原発性胆汁性胆管炎とは

肝臓の働きの一つに胆汁をつくるという働きがあります。胆汁は肝臓の中の肝細胞で作られ、胆管を通り、一度、胆嚢で蓄えられた後に、十二指腸に流れ込みます。原発性胆汁性胆管炎は肝臓内にある胆管が破壊され、胆汁の流れが滞ってしまうことで慢性的に肝内胆汁うっ滞をきたす疾患です。血液検査でALPやγGTPが高い数値になり、血液の中に抗ミトコンドリア抗体という自己抗体が検出されるのが特徴です。シェ―グレン症候群、関節リウマチ、橋本病といった他の自己免疫疾患の合併も多く、中高年女性に好発します。

原発性胆汁性胆管炎の原因

この病気の原因はまだわかっていませんが、自己抗体である抗ミトコンドリア抗体が特異的かつ高率に検出されることや、慢性甲状腺炎やェーグレン症候群等の自己免疫性疾患をしばしば合併することからも、胆管が壊れる原因として免疫反応の異常、すなわち、自己免疫反応が関与する自己免疫疾患であることが明らかになりつつあります。肝生検における肝組織像において、胆管障害の機序にはT細胞が重要な役割を担っていることが想定されています。本疾患は英語では Primary Biliary Cholangitis といい、頭文字をとって PBC と呼ばれます。

相談の目安

血液検査で肝機能検査異常(ALP、γGTPなどの上昇)を指摘されたとき皮膚病変を伴わない皮膚掻痒感、黄疸を自覚するとき

疫学的整理

2018年に厚生労働省が行った全国疫学調査によると、全国のPBC患者数は推定約37000名、2004年~2018年の14年間で患者数はおよそ3倍に増加し、ほぼ欧米並みとなっています。男女比は2004年に約1:7でしたが、2018年には約1:4.3であり、相対的に男性患者が増加しています。また男女別の好発年齢は女性50歳代、男性60歳代となっています。

上図:原発性胆汁性胆管炎の診断時年齢分布

歴史的背景

歴史的には原因不明の胆汁性肝硬変として診断されていたので、2015 年までは原発性胆汁性肝硬変と呼ばれていました。最近では診断するための検査の開発や病気についての知識が広まったため、症状がない、あるいは軽い時期に診断されることがほとんどであり、多くの患者は肝硬変には至らず、胆管炎の状態に留まっています。このため 2016 年からは全世界で病名が原発性胆汁性胆管炎に変更されました。

原発性胆汁性胆管炎の症状

初期は無症状で、健診などで行われた血液検査で肝機能検査異常を指摘されたことが診断の契機となることが多く、診断時に無症状であった症例の70~80%は自覚症状がなく、その大部分は生命予後は一般集団と変わらないとされています。また注意深く医師が問診をすると初期の段階でおよそ30%程度の症例が本疾患に特徴的である胆汁うっ滞に基づく皮膚掻痒感を自覚しているとのデータもあります。

原発性胆汁性胆管炎の患者における皮膚掻痒は通常、皮膚病変を伴わず、部位も一定ではなく、季節や時期によって消退を繰り返すといった特徴があります。表れる症状としては、まず皮膚に痒みが現れ、数年後に黄疸が出現する経過をたどります。

原発性胆汁性胆管炎において、日本では重要視されていませんが、疲労感は欧米では最も一般的な症状として挙げられ、心理的因子との関連が強いと考えられています。また口や眼の乾燥症状が出る場合もあります。胆汁うっ滞が持続すると黄疸や脂質異常症に伴う眼瞼黄色腫、骨粗鬆症による骨病変や骨折が出現することもあります。通常、肝硬変に伴って出現する食道・胃静脈瘤が、肝硬変に進展していない早い段階からみられることもあるので注意が必要です。さらに進行すると、黄疸や腹水、肝性脳症など、肝硬変に伴う症状が出現し肝不全の状態まで進行する場合があります。

近年では原発性胆汁性胆管炎の生命予後の改善、患者の高齢化に伴い、以前は原発性胆汁性肝硬変には稀と考えられていた肝細胞癌が発症することも少なからずみられます。一方で発熱や腹痛の症状がみられることはまずありません。

重症化しやすい場合

原発性胆汁性胆管炎には症状の有無による無症候性、症候性の分類法があり、強い皮膚掻痒感、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症などを伴う症候性は無症候性の原発性胆汁性胆管炎に比べて予後が不良であることが示されています。皮膚掻痒感が軽度の場合は初期の段階でもみられるため予後は不良ではないとされています。ウルソデオキシコール酸治療が奏功せず、総ビリルビンが上昇し黄疸が出現すると進行性で予後不良となります。重症進行例では肝移植を検討し、血清総ビリルビン値が常に3mg/dLを超えるあたりをめどに、主治医の先生と相談しながら移植専門医へのコンサルテーションが必要となります。日本では生体部分肝移植が定着しており、移植成績は良好です。

原発性胆汁性胆管炎の予後・治療

原発性胆汁性胆管炎は難病法による指定難病であり、皮膚瘙痒感など症状を伴う場合は医療費助成の対象となります。また指定難病ではありますが治療法が確立されており、早期発見と早期治療によって病状の進展の阻止が可能となり予後は良好とされています。70~80%の方はウルソデオキシコール酸による治療の効果が半年ほどで現れ、その場合の生命予後は一般人とほぼ同等とされています。しかし、ウルソデオキシコール酸による治療の効果がなく血清ALP値が低下しない場合は同薬の増量や他の薬剤等の追加治療が必要となります。また、シェーグレン症候群、慢性甲状腺炎、関節リウマチなど他の自己免疫疾患の合併も多く、原発性胆汁性胆管炎よりそれらの症状が表立ち、合併する疾患に予後が左右される場合もあるため、合併症の把握はとても重要となります。

原発性胆汁性胆管炎の診断の方法

臨床経過・血液検査・画像診断によりウイルス性肝炎、薬物性肝障害、胆石症、悪性疾患など他の原因を除外した上で、(1)ALP、γGTP(胆道系酵素)の上昇、(2)血清中の抗ミトコンドリア抗体陽性、(3)肝生検において特徴的な肝組織像 *1、の3点のうち、2点が揃えば概ね原発性胆汁性胆管炎と診断します。胆道系酵素の慢性的な上昇、および抗ミトコンドリア抗体陽性の所見が揃えば、肝生検は必ずしも必須ではなく、この段階でPBCと診断可能です。またALT上昇や抗核抗体陽性の場合、抗ミトコンドリア抗体陰性例などの非典型例では肝生検は必須です。血清抗ミトコンドリア抗体が陽性である一方で肝機能検査異常がなく、ALP、γGTPともに基準値範囲内である場合はこの段階ではPBCと診断するべきではなく、肝生検を行う必要もありませんが、ALP・γGTP値に関して定期的な検査が必要となります。

原発性胆汁性胆管炎の特殊な病態として、血液検査にて抗核抗体陽性・IgG高値など自己免疫性肝炎の病態を併せ持ちALTが高値を呈する病態があり、PBC-AIHオーバーラップと呼ばれます。この自己免疫性肝炎(AIH:Autoimmune hepatitis)の合併例では、副腎皮質ステロイドの投与によりALTの改善が期待できるため、原発性胆汁性胆管炎の典型例とは区別して診断する必要があります。

*1  慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC:chronic non-suppurative cholangitis)肉芽腫、胆管消失など

原発性胆汁性胆管炎の診断の難しさ

専門的な血液検査や画像診断によって他の肝疾患との鑑別を十分に行う必要があります。最終的に肝生検という侵襲的な検査で確定診断を行う必要がある場合もあります。専門的な判断や治療が必要な場合は肝臓専門医に相談することが望ましいです。

<リファレンス>

厚生労働省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班:原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2017年)

厚生労働省  難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究>原発性胆汁性胆管炎(PBC)

おうち病院
おうち病院