進行性多巣性白質脳症(PML)|clila疾患情報

【目次】
1.進行性多巣性白質脳症(PML)とは
2.進行性多巣性白質脳症(PML)の原因
3.進行性多巣性白質脳症(PML)の疫学的整理
4.進行性多巣性白質脳症(PML)の症状
5.近年注目されている薬剤関連PMLについて
6.進行性多巣性白質脳症(PML)の診断方法
7.進行性多巣性白質脳症(PML)の治療法
8.進行性多巣性白質脳症(PML)の経過、予後

 

1.進行性多巣性白質脳症(PML)とは

進行性多巣性白質脳症 (Progressive Multifocal Leukoencephalopathy: PML)は、JCウイルスの中枢神経感染によって起こる大脳白質の進行性脱髄疾患です。JCウイルスは健康な人の約80%に潜伏感染しているとされますが症状はありません。PMLは、ヒトの免疫力が極めて低下した状態を背景にJCウイルスが活性化し引き起こされると考えられています。免疫力が極めて低下する状態としては、HIV感染、血液系の悪性腫瘍、免疫抑制剤の使用、最近では生物学的製剤の使用が挙げられます。本邦でのPMLの発生頻度は、人口1,000万人に対し0.9人と報告されています。

PMLの症状は、亜急性に進行する認知機能障害、構音障害、片麻痺や失語など多彩であると報告されています。頭部MRIでは多巣性の白質病変を認め、髄液検査ではPCRでJCウイルスDNAが検出されます。
JCウイルスに対する特異的な抗ウイルス薬はなく、治療の基本は免疫機能の回復になります。PMLは亜急性に進行しますが、免疫機能の回復が得られれば進行が止まり回復することもあります。しかし、一般的には生命予後が非常に悪い疾患です。

 

2.進行性多巣性白質脳症(PML)の原因

PMLの原因は、JCウイルスの感染です。JCウイルスはヒトのポリオーマウイルス属に分類されます。JCウイルスは、経口または経気道的に体内に侵入し扁桃でウイルスが増殖し、初感染が成立します(無症状)。その後、血行性に腎臓や骨髄に到達し潜伏感染すると考えられています。健常な人の約80%がJCウイルスに感染していると考えられますが、症状は認めません。
JCウイルスは、ヒトの免疫機能が極めて低下したときに再活性化し、中枢神経系に感染しPMLを発症させます。しかし、どのような機序でJCウイルスが再活性化し中枢神経系で増殖するのかはわかっていません。

また、PMLは遺伝することはなく、発症したヒトから他のヒトへ感染することはありません。

 

3.進行性多巣性白質脳(PML)の疫学的整理

本邦でのPMLの死亡率(≒ 発生頻度)は、人口1,000万人に対し0.9人と報告されています。また、諸外国における頻度もほぼ同様であるとされます。

死亡時の平均年齢は58歳で、50〜60歳代が全体の半数を占め、やや男性が多いと報告されています。

PMLの背景にある免疫機能を低下させる基礎疾患は、欧米ではHIV感染症が約85%を占めるのに対し、本邦ではHIV感染症は40%程度であり、そのほかに血液系悪性腫瘍、膠原病、慢性腎不全とさまざまです。近年、治療法の確立によりHIV感染症を基礎疾患とするPMLの頻度は低下傾向にあります。その一方で、免疫抑制剤や抗悪性腫瘍薬、生物学的製剤の開発によりこれらの治療薬の重大な副作用としてPMLが報告されており、基礎疾患の治療法とPML発生のリスクについて検討する必要があります。

 

4.進行性多巣性白質脳症(PML)の症状

PMLは、大脳、小脳、脳幹とどの部分の白質にも脱髄変化が生じるためさまざまな神経症状を呈します。初発症状としては、認知機能障害、四肢麻痺、片麻痺といった運動障害、構音障害がよく見られます。その他、小脳症状、嚥下障害、精神症状などがあります。病巣の増加に伴ってさまざまな神経症状が出現します。症状の経過は速く週単位から月単位で悪化し、膀胱・直腸障害やけいれんなども伴うようになり数ヶ月のうちに無言・無動の状態に至ります。

 

5.近年注目されている薬剤関連PMLについて

PMLの発症に関連する薬剤として、ステロイド製剤、抗癌剤、免疫抑制剤、生物学的製剤などがあります。その中でも、多発性硬化症 (MS) の再発予防薬として使用されるナタリズマブはPMLの発病頻度が比較的高く、治療患者1,000人に1人と報告されています。

薬剤関連PMLの初発症状は、認知機能障害、構音障害、失語、運動機能障害など多岐にわたり、HIV関連PMLに見られる症状との明らかな違いは認めません。

MS患者におけるナタリズマブ関連PMLの発症リスクとしては、①抗JCウイルス抗体陽性、②2年以上のナタリズマブ投与歴、③過去の免疫抑制剤使用歴が知られています。MSは中枢神経系の炎症性脱髄疾患であるため頻回にMRIが行われることがあり、しばしば症状が出る前(無症候性)に薬剤関連PMLが発見されることがあります。無症候のうちに発見し、早期にナタリズマブを中止すればPMLによる障害を最小限に抑える可能性があることが示されています。したがって、ナタリズマブ使用に際しては、定期的なMRI検査が大切です。

 

6.進行性多巣性白質脳症(PML)の診断方法

PMLは一般的血液検査では特異的な異常が見られないため、診断は臨床症状、頭部MRI、脳脊髄液検査でのJCウイルスDNAの検出、病理所見などによって行います。また、白質病変を呈する他の疾患を鑑別し除外することも必要です。


<診断基準> 難病情報センターHPより引用

Definite、Probableと診断されたPMLを対象とする。 

診断のカテゴリー

Definite PML:下記基準項目の5を満たす。

Probable PML:下記基準項目の1、2、3及び4を満たす。

Possible PML:下記基準項目の1、2及び3を満たす。

  1. 成人発症の亜急性進行性の脳症(1)
  2. 脳MRI で、白質に脳浮腫を伴わない大小不同、融合性の病変が散在(2)
  3. 白質脳症を来す他疾患を臨床的に除外できる(3)
  4. 脳脊髄液からPCR でJCV DNA が検出(4)
  5. 剖検又は生検で脳に特徴的病理所見(5)とJCV 感染(6)を証明

(1)免疫不全(AIDS、抗癌剤・免疫抑制剤投与など)の患者や生物学的製剤(ナタリズマブ、リツキシマブ等)を使用中の患者に後発し、小児期発症もある。発熱・髄液細胞増加などの炎症反応を欠き、初発症状として片麻痺/四肢麻痺、認知機能障害、失語、視力障害、脳神経麻痺、小脳症状など多彩な中枢神経症状を呈する。無治療の場合、数か月で無動性無言状態に至る。

(2)病巣の検出にはMRI が最も有用で、脳室周囲白質・半卵円中心・皮質下白質などの白質病変が主体である。病変はT1 強調画像で低信号、T2 強調画像及びFLAIR 画像で高信号を呈する。拡散強調画像では新しい病変は高信号を呈し、古い病変は信号変化が乏しくなるため、リング状の高信号病変を呈することが多くなる。ガドリニウム増強効果は陰性を原則とするが、まれに病巣辺縁に弱く認めることもある。

(3)白質脳症としては副腎白質ジストロフィーなどの代謝疾患やヒト免疫不全ウイルス(HIV)脳症、サイトメガロウイルス(CMV)脳炎などがある。しかし、AIDS などPMLがよく見られる病態には、しばしばHIV脳症やCMV 脳炎などが合併する。

(4)病初期には陰性のことがある。経過とともに陽性率が高くなるので、PML の疑いがあれば再検査する。

(5)脱髄巣、腫大核に封入体を有するグリア細胞の存在、アストログリアの反応、マクロファージ・ミクログリアの出現

(6)JCV DNA、mRNA、タンパク質の証明又は電子顕微鏡によるウイルス粒子の同定 


 

7.進行性多巣性白質脳症(PML)の治療法

現在のところ、JCウイルスに特異的な治療薬はありません。したがって、治療の主体は基礎疾患に伴う免疫機能低下を改善または正常化することになります。
HIV関連PMLでは、HIV感染に対する免疫不全対策である抗レトロウイルス療法 (ART) が推奨され、ARTは延命効果があると報告されています。ARTはHIV増殖を抑制し、患者の免疫不全状態が改善するため、間接的にPMLにも効果を示すと考えられています。また、ARTに抗マラリア薬である塩酸メフロキンを併用し効果を認めたという報告が複数あり、まだ十分な科学的根拠はないものの塩酸メフロキンの追加投与は考慮に値すると考えられています。

薬剤関連PMLでは、誘因薬剤の中止、除去により免疫機能の回復を図ることが基本となります。特に発病頻度の高いナタリズマブによるPMLでは、ナタリズマブの中止と血漿交換療法を用いることがあります。

治療にあたり注意すべきことの一つに免疫再構築症候群 (immune reconstitution inflammatory syndrome: IRIS) があります。IRISは、治療により患者の免疫が改善することで免疫応答が炎症反応を生じさせ、PMLの症状が一過性に増悪することをいいます。ARTやナタリズマブ中止によってIRISを認めることがあります。ART開始やナタリズマブ中止から数ヶ月以内にPML症状の増悪を認め、頭部MRIで浮腫や造影増強効果を伴う所見を認めます。IRISは通常は一過性のため、基礎疾患の治療や誘因薬剤の中止は継続します。しかし、IRISが重篤な場合はステロイドパルス療法を考慮します。また脳浮腫などへの対症療法として、グリセオールやマンニトールといった浸透圧利尿薬を併用してもよいとされています。

 

8.進行性多巣性白質脳症(PML)の経過、予後

PMLは、週単位から月単位といった速いペースで病状が進行し、予後の悪い疾患です。生命予後は基礎疾患によって異なり、HIV関連PMLの中央平均生存期間は1.8年、非HIV関連PMLでは3ヶ月とされています。また、ナタリズマブ関連PMLの死亡率は約23%と報告され、一般的なPMLより予後が良いと考えられています。

治療が有効であったり、患者の免疫機能が改善する場合には、症状の進行が止まって回復することもあり、長期生存例も報告されています。しかしその場合にも機能障害を残すことが多く、全身的なケアが必要になることがあります。

 

上野 ゆかり 整形外科医  2003年国立大学医学部卒業。整形外科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み、小児から高齢者まで幅広い年齢層に対応。家族の仕事により移住したフィリピンにて、邦人に対する医療アドバイス、健康診断フォローアップ事業を開始。現在はドイツ(フランクフルト )にて医療・健康アドバイザーとして活動する傍ら、医療相談、オンライン診療などで臨床活動を継続中。

 

<リファレンス>

難病情報センター 進行性多巣性白質脳症 (PML) (指定難病25)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/126
https://www.nanbyou.or.jp/entry/278

厚生労働科学研究
プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する研究班
http://prion.umin.jp/pml/gaiyo.html
http://prion.umin.jp/guideline/guideline_PML.html

進行性多巣性白質脳症 診療ガイドライン2020
http://prion.umin.jp/guideline/pdf/guideline_PML_2020.pdf

臨床神経学雑誌第51巻第11号 
難治性神経感染症 update 進行性多巣性白質脳症
https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/051111051.pdf

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