脊髄髄膜瘤|疾患情報【おうち病院】

記事要約

脊髄髄膜瘤とは、二分頭蓋や無脳症などとともに神経管閉鎖不全症に包括される疾患です。脊髄髄膜瘤の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

脊髄髄膜瘤とは

本来であれば脊髄神経は硬膜、脊椎、皮膚といった組織で覆われています。しかしこれらに覆われず脊髄神経が皮膚外へむき出しになったまま出生する疾患を脊髄髄膜瘤といいます。

脊髄神経や脳は中枢神経系と呼ばれます。中枢神経系の元になる神経管は妊娠6週ごろ(受精4週)には既に完成しています(神経管の閉鎖)。この時にうまく神経管が閉鎖しないことが脊髄髄膜瘤の原因です。なぜ神経管がうまく閉鎖しないのかは不明です。

神経管が閉鎖しない状態を神経管閉鎖障害といいます。神経管閉鎖障害には無脳症、脳留、脊髄髄膜瘤、潜在性二分脊椎などが含まれます。

このうち、潜在性二分脊椎は脊髄神経が脊椎や硬膜といった神経周囲の組織には覆われていないものの、皮膚には覆われて保護されている疾患です。脊髄髄膜瘤は皮膚で覆われず露出していることから開放性二分脊椎とも呼ばれます。よく似た疾患ですが、潜在性二分脊椎は難病指定されていません。

脊髄髄膜瘤の原因

栄養因子、環境因子、遺伝因子が3つのリスク因子とされています。
約半数の症例では血清中の葉酸(ビタミンB9)が不足しDNAの合成が障害されて、上記の神経管閉鎖障害が発症しています。

妊娠初期の妊婦に葉酸を投与すると、二分脊椎を含む神経管閉鎖不全症の約70%の発生リスクを軽減できるとされています。このことから、厚生労働省は神経管閉鎖障害の発生リスクを低下させるために、健常な女性でも1日あたり400μgのモノグルタミン酸型の葉酸摂取を勧めています。

疫学的整理

脊髄髄膜瘤の日本での発生頻度は、40年前は0.01~0.02%でしたが最近では0.03~0.04%と増加しています。年間500~600名の患児が出生しています。

また10〜20%の患者で遺伝することがわかっています。第1子が脊髄髄膜瘤であると、第2子における本症の発生率は約5%とされています。

脊髄髄膜瘤の症状

損傷を受けている脊髄神経高位以下の麻痺を生下時より認めます。足部や股関節脱臼などの骨変形は生下時から認める症例もありますが、成長に伴って変形が現れてくる症例もあります。

  • 水頭症、キアリ(Chiari)II奇形、知能障害、てんかん
    脳脊髄液の流れが病変部で停滞したり、脳全体が下方へ落ち込むことにより生じるます。
  • 歩行障害、足部変形
    麻痺により足部の変形や歩行障害を認めます。
    変形のため靴ずれや傷ができやすく、また知覚障害もあるため早期に傷を自覚することが難しく、感染などを伴い重症化することがよくあります。
  • 脊椎側弯、脊椎後弯、股関節脱臼など
    麻痺により筋肉のバランスが崩れるために起こります。座位のバランスが悪くなり安定して座れなくなるなどの問題が生じます。
  • 褥瘡
    自分の意思で寝返りを打ったり、足を動かすことができないため褥瘡ができやすくなります。
  • 尿失禁、膀胱機能障害、排便機能障害など
    排尿・排便を調整する神経が麻痺するため様々な程度の直腸膀胱障害を認めます。
    泌尿器系の奇形や水腎症などを伴う症例も認められます。
  • 髄膜炎
    脊髄神経が露出した状態で生まれてくるため、早期に露出部を閉鎖する手術を行わないと感染率が高くなります。
  • ラテックスアレルギー
    脊髄髄膜瘤を含む二分脊椎の患児は入院を繰り返し、ラテックス抗原に頻回に接触するため、ラテックスによる重篤なアナフィラキシー反応を引き起こすことがあります。家族及び医療従事者はラテックスに対する予防策を施ずる必要があります。

脊髄髄膜瘤の診断法

出生前診断

超音波検査が用いられます。専門的な施設で精密な検査を行うことにより確定診断されます。またMRIも有用であり、病変の精密検査に用いられることもあります。

出生後診断

患児の背部を観察することで容易に診断できます。合併している異常を診断するためには超音波検査、MRIが使用されます。

脊髄髄膜瘤の治療法

出生前に診断された症例では、脊髄髄膜瘤が破れないようにするため分娩方法は帝王切開となります。また肺の成熟を待ち、妊娠36週以降の正期産での帝王切開が一般的です。

<脳神経外科的治療>

脊髄髄膜瘤閉鎖術

出生後24ないし48時間以内に閉鎖術を行うのが一般的です。体外に露出した脊髄周囲のクモ膜を剥離・切開し、脊髄を覆うように硬膜、筋層を縫合閉鎖します。次いで皮膚を閉鎖します。

脳室-腹腔シャント術

水頭症を合併している場合

後頭下減圧術

キアリ奇形による呼吸障害が顕著な場合

<整形外科的治療>

生下時から認める足部変形に対しては、早期からギプスを用いた変形矯正を行います。

経年的に出現、悪化する足部変形に対しては、変形矯正術や腱延長・腱切り術が行われます。

股関節の脱臼に対し観血的脱臼整復術、脊椎後弯に対し、後弯部切除術が行われます。

その他、直腸・膀胱障害に関しては、清潔間欠導尿法、膀胱砕石術、膀胱拡大術、膀胱尿管逆流根治術、尿道スリング手術、人工尿道括約筋埋め込み術、順行性浣腸法など症状に合わせた治療が必要となります。

治療に関するトピックス

脊髄髄膜瘤胎児手術

脊髄神経が羊水に暴露され損傷したり、髄液の体外への漏出を早期に防ぐことで出生後の神経機能の改善を目的にした治療です。母体の子宮内にいる胎児に対し、髄膜瘤修復術を施すというものです。

近年の研究により、胎児期に髄膜瘤閉鎖術を行い、髄膜瘤を早期に羊水から遮断すると脊髄神経の損傷を軽減することができ、神経予後が改善することがわかってきました。

アメリカでは子宮切開での修復術を行い、その効果と安全性を他施設共同研究しています。ドイツでは内視鏡を用いた方法での胎内手術の研究が始まっています。日本ではまだこの脊髄髄膜瘤胎児手術は行われていませんが臨床研究(海外で行われている脊髄髄膜瘤胎児手術を、日本で安全に行えることを評価することが目的)が始まっています。

脊髄髄膜瘤の予後

近年の医学水準の向上により、平均寿命は延長し、患者のQOLは大きく改善しているとされます。しかし、水頭症の管理、排尿・排便の管理、身体機能のリハビリテーションなどは生涯必要なのが現状です。

<リファレンス>

難病情報センター 脊髄髄膜瘤(指定難病118)

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書

日本胎児治療グループ 脊髄髄膜瘤胎児手術の早期安全性試験

脊髄髄膜瘤胎児手術の現状と展望

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