ストレスに対応できない脳領域がうつ病を引き起こす可能性がある

  • 持続的なストレスはうつ病を引き起こす可能性がありますが、慢性的なストレスがどのようにしてうつ病につながるのかは不明です。
  • 最近の研究では、うつ病を発症していない人はうつ病の人とは異なり、日常的なストレスの上昇に対してストレス反応を制御する脳領域である、内側前頭前野の反応が変化することで適応することがわかっています。
  • 日常的なストレスの高まりに対して適切な反応ができないと、うつ病になる可能性があります。
  • また、ストレスに対する適切な反応ができないと、程度によって日常生活に支障が出ると予測されています。

臨床的なうつ病として知られる大うつ病性障害(MDD)は、米国で最も一般的な精神疾患の1つです。
米国国立精神衛生研究所(NIMH)によると、2017年には成人の約7.1%が抑うつエピソードを抱えていました。

さらに米国疾病対策予防センター(CDC)が実施した最近の研究Trusted Sourceによると、現在のCOVID-19パンデミックのストレスが、特に30歳以下の成人における自己申告のうつ病や不安症状の増加と関連している可能性が示唆されています。

今回のパンデミックのように、長期間にわたるストレスを経験すると、うつ病の発症につながります。

うつ病の主な症状の一つに、快感が得られない「無快感症」があります。
しかし慢性的なストレスがどのようにしてうつ病を発症させるのか、また無快感を伴う症状がどのようなものなのか、研究者たちは包括的に理解していません。

その結果、報酬の処理やストレス反応の制御に関与する脳領域である内側前頭前野(mPFC)が、これらの慢性的なストレスの影響を媒介している可能性が示唆されました。

mPFCはストレス反応の制御に関与しているが、急性および慢性ストレスはmPFCにも変化をもたらします。
ネズミを用いた研究では、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸が、急性ストレスを受けるとmPFCの神経細胞から放出されることが明らかになっています。

しかし、慢性的ストレスにさらされたネズミでは、新たな急性ストレスに直面したときに、mPFCでのグルタミン酸の放出量が低下することがわかりました。

科学者たちは、慢性的なストレスによってmPFCのグルタミン酸反応がこのように低下することは、ストレスに対する保護的な適応の可能性があると考えています。

StudiesTrusted Sourceでは、うつ病ではmPFCのグルタミン酸活性が変化することがすでに示されていました。

今回、米国エモリー大学の研究チームが発表した研究によると、うつ病の人は無症状の人とは違い、日常的なストレスが急に増加した場合に、mPFCのグルタミン酸レベルを適応的に減少することが出来ないことがわかりました。

さらに うつ病患者がこのような適応反応を欠いているかどうかで、日常生活における無気力感のレベルが予測されました。
「本研究の筆頭著者であるJessica Cooper博士は、「ストレスに対する神経の反応が、日常生活で経験することにいかに意味があるかを示すことができた。
本研究では、ストレスがうつ病にどのように関与しているかを調査するための具体的な手がかりとなる、大規模で豊富なデータセットを得られた。」
と述べています。

本研究は、NatureTrusted Sourceに掲載されています。

グルタミン酸放出の適応的な変化

うつ病におけるmPFCの役割を調べるために、研究者たちはうつ病ではない65人と、薬を服用していないMDDの23人を募集しました。
実験の11〜12日前に、Perceived Stress Scale(PSS)を用いて、過去1カ月間の主観的、自覚的なストレスレベルを測定したのです。

実験当日、被験者は急性ストレスを誘発する課題に取り組みました。
研究チームは、非侵襲的なイメージング技術である磁気共鳴分光法(MRS)を用いて、急性ストレス試験の前後におけるmPFCのグルタミン酸レベルの変化を測定しました。

その結果、急性ストレス試験によるmPFCのグルタミン酸レベルの変化の大きさが、無症状の人の自覚的なストレスレベルと関連していることがわかりました。

うつ病がなく、PSSで測定した直近の知覚的ストレスが低い人は、テスト後にmPFCのグルタミン酸レベルの上昇が見られました。
一方、うつ病ではないが知覚されたストレスが高い人は、mPFCのレベルに変化がない、または減少していました。

うつ病の人では、急性ストレステスト中にmPFCのグルタミン酸レベルに変化が見られたましたが、その変化はPSSスコアとは相関していませんでした。

著者らは、mPFCのグルタミン酸レベルに適応的な変化がないことが、うつ病などのストレス関連精神疾患の発症に関与している可能性を示唆しています。

抑うつと無気力

急性ストレステスト中のmPFCのグルタミン酸反応が、日常生活の機能と関連しているかどうかを確立するために、研究者らはうつ病の参加者を対象に、ストレステストの後4週間にわたって1日おきに調査を行いました。

この調査では、参加者の生活活動に対する楽観主義または悲観主義と、それらの活動の実際の結果を評価しました。このデータをもとに参加者の楽観的・悲観的な予想の正確さを判断しました。

MDDの参加者は、無症状の参加者に比べて、より不正確な悲観的な予想を持っている可能性が高かった。

次に、無症状の被験者のmPFCグルタミン酸反応のデータを用いてモデルを作成しました。これをもとに、MDD患者のmPFCグルタミン酸反応が、うつ病ではない患者と比べてどの程度乖離しているかを数値化したのです。

このスコアを「不適応グルタミン酸反応(MGR)」と呼びました。MDD参加者のMGRスコアは、不正確な悲観的予想と正の相関がありました。

このように、MDDの参加者が急性ストレス時にmPFCのグルタミン酸レベルを適応的に低下させない程度は、快楽を予期できない、あるいは予期的な無気力と関連していました。

限界と結論

著者らは、本研究にはいくつかの限界があったことを認めています。

例えば著者らの努力にもかかわらず、知覚的ストレスレベルを推定するために用いたPSSスコアの範囲が、MDDの人と無症状の人との間では重複しなかったことを指摘しています。

しかし、 ”このことは我々が観察した不適応なグルタミン酸反応が、主にMDDにおける知覚されたストレスの高さによるものなのか、現在のうつ病の存在によるものなのか、あるいはその両方によるものなのかを判断する能力を制限するものである” と指摘しています。
「これらの結果は、ストレスに対する神経生物学的適応についての理解を進めるものであり、人のストレス関連疾患における新たな治療標的や治療反応のマーカーを特定する上で貴重な役割を果たす可能性がある"」

と著者らは結論付けています。


この記事は、MEDICAL NEWS TODAYに掲載された「https://www.medicalnewstoday.com/articles/inability-of-a-brain-region-to-adapt-to-stress-may-lead-to-depression」を翻訳した内容です。

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