タナトフォリック骨異形成症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

タナトフォリック骨異形成症とは、線維芽細胞増殖因子受容体3 (FGFR3) 遺伝子の突然変異によって胎児期に発症する骨系統疾患です。タナトフォリック骨異形成症の原因・治療方法・診断のコツなどを医師監修の基解説します。

タナトフォリック骨異形成症とは

タナトフォリック骨異形成症は線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)遺伝子の突然変異によって胎児期に発症する骨系統疾患です。以前は「致死性骨異形成症」という疾患名でしたが、必ずしも致死性ではないことや患者家族の心情等の考慮から2013年5月に現在の疾患名に変更されました。

本症は出生20,000〜50,000に1人の割合で発症するとされ、本邦では100人前後の患者さんがいると推定されています。著明な四肢骨の短縮、肋骨の短縮による胸郭の低形成を認め重度の呼吸障害を呈します。

本症は2つの病型に分類され、1型は弯曲した大腿骨および変形の少ない頭蓋骨が特徴で、2型は大腿骨の弯曲は少ないが、中等度から高度のクローバー葉頭蓋を呈します。いずれの病型も胸郭の低形成による、著明な呼吸障害を認めます。

本症に対する根本的な治療法はなく、呼吸不全に対し人工呼吸器などを使用し呼吸管理を行います。呼吸管理の進歩により1年以上の生存も報告されています。

タナトフォリック骨異形成症の原因

本症はFGFR3遺伝子の異常が原因で胎児期に発症します。本症は、健常な両親から遺伝子の突然変異によって発症するので、その母親が次回の妊娠で再び本症に罹患した児を持つ可能性は極めて低いとされています。

原因となる変異は、1型では90%以上、2型ではほぼ100%の確率で認めるため、FGFR3の遺伝子診断による確定診断も可能です。

タナトフォリック骨異形成症の疫学

本症は出生20,000〜50,000に1人の割合で発症するとされ、本邦では100人前後の患者さんがいると推定されています。

タナトフォリック骨異形成症の症状

【外見的特徴】

  • 著明な四肢長幹骨の短縮(特に大腿骨、上腕骨)
    四肢は常に伸展位で、いわゆる「操り人形」型の肢位
    相対的な(骨が短いことによる)皮膚過剰による鄒壁が特徴
  • 頭蓋、前頭部の突出、鼻根部の陥凹
    特に2型では、クローバー葉頭蓋(※1)を認めます。
    ※1 頭蓋縫合早期閉鎖によって側頭部が膨隆しクローバーの葉のような形態をした頭蓋
  • 肋骨の短縮、胸郭の低形成
  • 腹部膨満

【レントゲン所見】

  • 顔面、頭蓋底の低形成、側頭骨の膨隆
  • 肋骨の短縮による胸郭の低形成、ベル型の胸郭
  • 大腿骨の湾曲(特に1型)、この湾曲変形は「電話の受話器様の変形」と表現されています。
  • 長幹骨の骨幹端の杯状変形
  • 脊椎骨の扁平化
  • 腸骨の低形成

【胎児期の所見】

 長幹骨の短縮は、妊娠16〜18週以前から始まっており妊娠22週以降に明確になります。少なくとも妊娠22週以降28週未満では4SD以上、妊娠28週以降は6SD以上の短縮が見られると報告されています。

 その後、大腿骨の成長はほとんど見られず、また胸郭の低形成や羊水過多などの特徴を超音波検査で確認できるようになります。

分娩予定日前後になると、比較的巨大頭蓋のため児頭が大きいことから児頭骨盤不均衡と判断され、帝王切開が選択されることが多くなります。

タナトフォリック骨異形成症の診断方法

 本症は妊婦検診での超音波検査所見(著名な四肢短縮など)から疑われることも多く、羊水細胞を用いた遺伝子検査でFDFR3遺伝子の変異が検出されれば診断が確定します。
出生後の診断については、「厚生労働科学研究費補助金による研究班」によって診断基準が作成されています。

<診断基準> 難病情報センターHPより引用

本診断基準によりタナトフォリック骨異形成症1型又は2型の診断を確定する(Definite)。それぞれの項目については下の解説を参照すること。

A.症状

  1. 著明な四肢の短縮
  2. 著明な胸郭低形成による呼吸障害
  3. 巨大頭蓋(又は相対的巨大頭蓋) 

B.出生時の単純エックス線画像所見(正面・側面)

  1. 四肢(特に大腿骨と上腕骨)長管骨の著明な短縮と特有の骨幹端変形
  2. 肋骨の短縮による胸郭低形成
  3. 巨大頭蓋(又は相対的巨大頭蓋)と頭蓋底短縮
  4. 著明な椎体の扁平化
  5. 方形骨盤 (腸骨の低形成) 

C.遺伝子検査

線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3:FGFR3)遺伝子のアミノさん変異を生じる点突然変異

<診断のカテゴリー> 

次の1)と2)の両方を満たせば診断が確定する(Definite)。また1)は満たすが、2)は満たさない又は明確ではない場合は、1)と3)の両方を満たせば診断が確定する(Definite)。

  1. A.症状の1)~3)の全てを満たすこと。
  2. B.出生時の単純エックス線画像所見の1)~5)の全てを満たすこと。
  3. C.遺伝子検査でいずれかの変異が同定されること。

<解説>

A.症状

1)著明な四肢の短縮は、特に近位肢節(大腿骨や上腕骨)にみられ、低身長となるが、体幹の短縮は軽度又はほぼ正常である。

骨の短縮に対して、軟部組織は正常に発育するため、四肢で長軸と直角方向に皮膚の皺襞が生じる。

2)著明な胸郭低形成により呼吸障害や腹部膨隆を示す。胎児期には嚥下困難による羊水過多がほぼ必発で、しばしば胎児水腫を呈する。

多くは出生直後から呼吸管理が必要で、呼吸管理を行わない場合は、呼吸不全により新生児死亡に至ることが多い。

3)巨大頭蓋は頭蓋冠の巨大化によるもので、顔面中央部は比較的低形成となり、前頭部突出や鼻根部陥凹(鞍鼻)と中央部の平坦な顔貌を示す。

なお、相対的巨大頭蓋(relative macrocephaly)とは実際には頭蓋の大きさは標準値と変わらないか軽度の拡大であるが、胸郭低形成、四肢の長管骨の著明な短縮と椎体の扁平化により生じた低身長など、四肢体幹が小さくなるため、頭蓋が相対的に大きく見えることを意味する。

4)その他の症状としては筋緊張の低下、大泉門開大、眼球突出などがある。短管骨も短縮するので短指趾症となり、三尖手(trident hand)を示すこともある。また、加齢により皮膚の黒色表皮腫が出現することが多い。

B.出生時の単純エックス線画像所見(正面・側面)

エックス線画像では骨格異常の全体パターンの認識が重要であり、上記の個々の所見の同定にあたっては、診断経験の豊富な医師の読影意見や成書の図譜等を参照し、異常所見を診断することが必須である。

なお、これらのエックス線画像所見の診断は出生時(出生後満28日未満の新生児期)に撮影された画像を対象とする。 

1)四肢(特に大腿骨と上腕骨)長管骨は著明な短縮を示す。しかし四肢長管骨の短縮の程度を客観的に評価するための出生後の身体計測やエックス線的計測値は報告されていない。

ひとつの指標としては出生前の超音波検査の胎児大腿骨長(femur length:FL)計測値で、少なくとも妊娠22週以降28週未満では4SD以上、妊娠28週以降は6SD以上の短縮がみられる。

出生後の身体計測やエックス線的計測においてもこれらの値を指標としうる。

また、特有の骨幹端変形があり、長管骨の骨幹端は軽度不整と骨幹方向への杯状陥凹(cupping)、軽度拡大(flaring 又はsplaying)を示し、骨幹端縁は角状突起様(spur)となる。

これらの所見により近位端骨幹端には骨透亮像を認める。

1型では大腿骨の彎曲が著明で電話受話器様変形(French telephone receiver femur)を示す。2型では大腿骨は直状で短縮の程度は1型よりやや軽度のことが多く、彎曲は認めないかきわめて軽度である。

2)肋骨の短縮により胸郭は低形成となりベル状胸郭となる。

3)巨大頭蓋と頭蓋底短縮のために、前頭部が突出し、顔面中央部は比較的低形成である。

2型では側頭部の膨隆により頭蓋骨のクローバー葉様変形(cloverleaf skull)を認めることが多いが、これは1型でも認めることがあり、また2型でも認めないことがあるので、1型と2型の確定には大腿骨の所見が優先される。

また、大後頭孔の狭窄による脳幹圧迫症状を呈することが多い。

4)著明な椎体の扁平化により椎間腔は拡大し、椎体は正面像ではH字又はU字型を示し、側面像では前縁がやや丸みを帯びる。

正面像での腰椎椎弓根間距離の狭小化は診断のための客観的な指標であるが、在胎週の早い例では目立たないこともある。

5)方形骨盤(腸骨の低形成)は骨盤骨の所見として重要である。腸骨は低形成で垂直方向に短縮し、横径は相対的に拡大する。

腸骨翼は正常の扇型を示さず方型である。坐骨切痕は狭く短縮し、臼蓋は水平化している。Y軟骨部分の陥凹骨突起と組み合わせは三尖臼蓋として観察される。  

C.遺伝子検査

遺伝子検査は確定診断としての意義が大きい。

1)1型:線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3:FGFR3)遺伝子の点突然変異によりアミノ酸の置換や終止コドンへの置換が生じることが原因である。

アミノ酸の置換(c.742C>T⇒Arg248Cys、c.746C>G⇒Ser249Cys、c.1108G>T⇒Gly370Cys、c.1111A>T⇒Ser371Cys、c.1118A>G⇒Tyr373Cys、c.1949A>T⇒Lys650Met)や、終止コドンのアミノ酸への置換(c.2419T>G⇒stop807Gly、c.2419T>C又はc.2419T>A⇒stop807Arg、c.2421A>T又はc.2421A>C⇒stop807Cys、c.2420G>T⇒ stop807Leu、c.2421A>G⇒stop807Trp)などが報告されている。

日本人ではArg248Cysが1型の約60~70%にみられ最も多く、次いでTry373Cysが20~30%に見られる。それ以外の変異や既知の変異が検出されないものが、~10%程度存在する。

2)2型:全例でFGFR3遺伝子のc.1948A>G⇒Lys650Glu変異が報告されている。

3)遺伝子変異については新たな変異が報告される可能性があるので、必ずしも前項の変異に限定されるものではないが、アミノ酸変異を伴わない遺伝子変異では疾患原因とはならない。こうした遺伝子変異の情報についてはウェブ上のGeneReviews®(米国NCBIのサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/の中のデータベース)などの記載を参考にする。

4)理論上は常染色体優性遺伝形式をとるが、出生後の新生児期から乳幼児期に死亡することが多く、ほとんどは妊孕性のある年齢に至らないことや、その年齢に至ったとしても妊孕性は期待できないことから、実際の発症は全例が新生突然変異である。従って発症頻度は出生児(死産を含む)の1/20,000~1/50,000程度と稀である。

タナトフォリック骨異形成症の治療

本症に対する根本的な治療法はなく、重篤な呼吸不全に対する呼吸管理を対症的に行います。

タナトフォリック骨異形成症の経過、予後

出生後すぐに亡くなることも多い疾患ですが、呼吸管理を行うことで1年以上の長期生存が可能であった症例も報告されています。

2012年に行われた全国調査(※2)では、周産期死亡率は56%、生産時のうち呼吸管理非実施例(25例)は全例2日以内に死亡、呼吸管理実施例は全例(24例)周産期脂肪を起こさなかったと報告しています。また、生産児の31%が1年以上生存したとも報告しています。

さらに、同報告書では調査時年齢22歳の患者さんを含め6名の長期生存者の発達状況についても報告しており、長期生存者の在宅治療、介護を含めた生活の様子を知ることができます。

<リファレンス>

難病情報センター タナトフォリック骨異形成症(指定難病275)
難病情報センター タナトフォリック骨異形成症(指定難病275)
GeneReviews Japan 致死性骨異形成症
厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患等政策研究事業 指定難病に該当する胎児・新生児骨系統疾患の現状調査と診療ガイドラインの改訂に関する研究
※2 致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究 : 平成24年度総括・分担研究報告書 : 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等克服研究事業 (難治性疾患克服研究事業)
胎児骨系統疾患フォーラム

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