臍帯血に関する医療情報|clila疾患情報

【目次】

1.臍帯血とは
2.臍帯血がなぜ注目されているのか
3.臍帯血の採取・保存について(さい帯血バンク)
4.臍帯血を用いた治療の現状と展望

 

1.臍帯血とは

臍帯血(さいたいけつ)は、妊娠中に母体と胎児をつなぐ臍帯(いわゆるへその緒)と胎盤の中を流れている血液のことをいいます。妊娠中、母体側は母体の血液中にある酸素や栄養を胎盤を通じて胎児側に供給しています。また胎児側は、二酸化炭素などの不要な物質を母体側へ受け渡しています。胎盤内では絨毛組織を介してこれらのやりとりが行われているため、母体の血液と胎児の血液が直接的に交わることはありません。つまり、臍帯血は胎児自身の血液という事になります。
臍帯血の中には、「造血幹細胞」と呼ばれる赤血球・白血球・血小板のもとになる細胞が多く含まれています。造血幹細胞は、臍帯血以外では骨髄内に存在し、骨髄で細胞分裂を行い、赤血球・白血球・血小板へと分化しています。この血液成分を作り出す造血幹細胞を用いた「造血幹細胞移植」は、白血病をはじめとする血液疾患の治療法として確立されています。また国内外では、脳性麻痺や新生児仮死、自閉症スペクトラム障害への臨床研究が始まっています。さらに、まだ研究段階ではあるものの脊髄損傷患者への治療の可能性も示唆されています。
臍帯血は、公的さい帯血バンクあるいは民間さい帯血バンクで凍結保存することができ、さい帯血バンクと連携した産科施設での出産時に採取することができます。

 

2.臍帯血がなぜ注目されているのか

先に述べたように、臍帯血には「造血幹細胞」という赤血球や白血球、血小板といった血液細胞に分化することのできる細胞が多く含まれています。血液成分を作り出すことができる能力を白血病などの血液疾患の治療に応用したのが「造血幹細胞移植」になります。造血幹細胞移植には、臍帯血を用いた臍帯血移植の他に、骨髄移植、末梢血幹細胞移植があります。

骨髄移植は、HLAの適合した血縁者もしくは骨髄バンクに登録されたドナー(提供者)から骨髄の提供を受け、ドナーの骨髄から採取したドナー由来の造血幹細胞を輸血することにより血球成分を作り出していきます。骨髄移植ではHLAが完全に一致していることが必要です。また骨髄の採取時は全身麻酔が必要なため、ドナーの負担が大きいといったデメリットがあります。
末梢血幹細胞移植は、造血因子である顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) を注射することで、造血幹細胞を骨髄から末梢血中に出現させ、この造血幹細胞を含んだ白血球を採取し、移植する方法です。ドナーはG-CSFを4、5日間皮下注射する必要があり、採取時には全身麻酔は必要ないものの一般的には入院が必要となります。また、G-CSF投与による長期的安全性の確認が必要であると考えられています。

1.臍帯血移植の利点

  • ドナーへの侵襲が小さい

造血幹細胞移植に臍帯血を使用する大きな利点は、採取時のドナーへの侵襲(体への負担)が小さいことが挙げられます。出産時に胎児とともに娩出された胎盤・臍帯から採血するため、ドナー(母親と胎児)に麻酔をかけることなく無痛で実施することができます。

  • HLAが全て一致していなくても移植可能

骨髄移植と異なり、HLAが全て一致していなくても移植できることが多いとされています。これは臍帯血に含まれるリンパ球が未熟なため、重篤な免疫反応が起こりにくい可能性が考えられます。しかし、移植を受ける側がHLA抗体を保持している場合、その標的となるHLAを発現しない臍帯血を優先して選択することが妥当とされています。その他、移植の成功率をあげる要因として、臍帯血中の有核細胞の多さが挙げられます。

  • 必要時にすぐに使用できる

採取された臍帯血は、各さい帯血バンクに凍結保存されているため、必要時に比較的早く使用できるというメリットがあります。病状の進行が早い症例や再発のリスクが高い場合には、移植を急ぐ必要があります。

  • 移植後の移植片対宿主病 (GVHD) が低率で、比較的軽症である

GVHDは、同種移植といって他人の正常な造血幹細胞を移植する場合に起こりうる合併症で、ドナー由来のリンパ球が移植を受ける側の臓器を異物として攻撃することによります。重症のGVHDでは命に関わることがあるものの、一方で、腫瘍細胞を異物として攻撃することでもあります。したがって、軽症GVHDの発生は移植関連死のリスクを上げることなく、抗腫瘍効果を発揮することが報告されています。
 

2.臍帯血の欠点

  • 血球や免疫の回復が遅いことがある
  • 生着率が他の方法よりも低い

骨髄移植に比べると、血球や免疫の回復が遅いことがあるため、免疫が回復するまでの間は感染症のリスクが高く、感染症予防に気を配ることが重要です。また、血球の回復が遅いだけでなく、移植された細胞が患者の骨髄に生着せず、十分な血球回復が見られない「生着不全」の症例が1〜2割程度みられます。

2019年度日本における造血幹細胞移植の実績
http://www.jdchct.or.jp/data/slide/2019/transplants_2019_JDCHCT_20200331.pdf

  • 採取できる量が少ない

1人の提供者から採取できる臍帯血は、約30ml程度と限られています。以前は、臍帯血移植を受ける患者は体重15kg程度の小児が中心でしたが、現在では成人でも十分治療が可能な量であると考えられています。しかし、特に体が大きい患者では臍帯血量が十分でなく、有効な治療を行うことができないこともあります。
 

3.臍帯血の採取・保存について(さい帯血バンク)

造血幹細胞移植に用いるための骨髄・末梢血幹細胞・臍帯血の適切な提供を推進するため、「造血幹細胞移植法」が改正され、非血縁間の臍帯血提供に関わるさい帯血バンクの許可制や支援機関の指定が規定されています。

提供された臍帯血を移植に使用するためには、臍帯血の調整・保存・検査などが必要です。そのため、採取した臍帯血を適切に保存する機関(さい帯血バンク)が必要になります。臍帯血バンクには、公的さい帯血バンクと民間さい帯血バンクの2種類があり、先の法令によって業務に関わる禁止事項などが規定されています。

1.公的さい帯血バンク

臍帯血供給事業者として厚生労働省の認可を受けた業者は全国に6ヶ所あります(北海道さい帯血バンク、関東甲信越さい帯血バンク、近畿さい帯血バンク、九州さい帯血バンク、中部さい帯血バンク、兵庫さい帯血バンク)。公的さい帯血バンク全体で約10,000本の臍帯血が保存されていると公表されています。

公的さい帯血バンクと提携している採取施設は以下で検索することができます。
https://www.bs.jrc.or.jp/bmdc/generalpublic/m1_02_04_saitai.html

臍帯血の提供は、公的さい帯血バンクと提携している産科施設で出産をする場合のみ可能です。ただし、出産の時間帯や状況によっては採取が行えないこともあります。また、臍帯血はボランティアとして無償で提供することとなります。なお、「へその緒」はもらえることが多いようですが、産科施設によって異なります。「へその緒」を希望する場合には、事前に産科施設に確認しておくことが大切です。
公的さい帯血バンクに善意で提供された臍帯血は適切に保管され、採取から10年間は移植に使用することができます。しかし、移植を受ける機会を公平に保つため、提供者やその家族であっても必要時に優先的に移植を受けることはできないと規定されています。また現状では、臍帯血は造血幹細胞移植術が治療法として確立されている白血病や再生不良性貧血といった厚生労働省令で定められた特定の疾患に限定して提供されています。
臍帯血移植では、HLAと呼ばれる白血球型がドナーと患者で6抗原(現在は8抗原)の一致率が高いことが必要と考えられています。公的さい帯血バンクでは、90%以上の方で4抗原以上のHLA適合臍帯血が見つかっていると報告されています。

2.民間さい帯血バンク

万が一、自身や家族が将来病気になった時に、再生医療など何らかの治療に役立つよう臍帯血の自己保存を希望する場合には、民間のさい帯血バンクを利用することになります。
民間さい帯血バンクは、国の認可を受けた事業者ではないものの、厚生労働省に「臍帯血取扱事業届」を提出することが求められています。これにより、公衆衛生上及び契約者保護の観点から民間さい帯血バンクの業務内容や保管体制などを公にしています。

現在、届出を行なっている民間さい帯血バンクは以下の2社になります。

  • 株式会社ステムセル研究所
  • 株式会社アイル


臍帯血の保管を希望する場合には、民間さい帯血バンクと保管委託契約を結び、有料で保管するという流れになります。公的さい帯血バンクと異なるのは、臍帯血を自身や血縁者の必要時にいつでも引き出して利用することができるという点です。また、許可なく第三者へ臍帯血を提供することは造血幹細胞移植法違反になります。

民間さい帯血バンクでは、臍帯血の利用は白血病などの血液疾患に限られておらず、臨床研究段階に入っている新生児仮死や脳性麻痺にも利用が可能です。 ただし、これらの状態に対し臍帯血を利用した再生医療が実施できる施設は限られていることや、病状によっては治療の対象にならないこともあるため保存していた臍帯血を有効に使用できない場合があることは知っておく必要があります。
今後の展望としては、海外で臨床研究されている、自閉症スペクトラム障害、難聴、先天性心疾患などにおける再生医療への利用が国内でも望まれています。長期的には、現段階で根治的な治療法が確立していない疾患に対し、新たな治療法が発見される可能性も否定できません。

 

4.臍帯血を用いた治療の現状と展望

臍帯血を用いた造血幹細胞移植は、採取できる臍帯血量が少ないことから体の大きな成人では十分な細胞を移植できないことがあるが、比較的体格の小さい日本人では成人患者に対しても十分対応できる症例が多いことがわかっています。また単一民族であること及び臍帯血移植ではHLA不一致が2つまで許容できることから、ほぼ全ての患者に適合する臍帯血を公的さい帯血バンクで見つけることができるため、諸外国に比べ臍帯血の利用が急速に増えています。移植後の血球回復に時間がかかったり、生着不全率がやや高い問題はありますが、おそらく今後も臍帯血移植は増えることが予想されています。
臍帯血移植は、白血病や再生不良性貧血といった造血器腫瘍の治療法の一つとして確立されています。現状では、臨床研究段階ではあるものの新生児仮死、脳性麻痺に対しても臍帯血を用いた治療が行われています。海外に目を向けると、自閉症スペクトラム障害、難聴、先天性心疾患、肝硬変、Ⅰ型糖尿病に対しても臨床研究が行われ、その一部では有効性が報告されています。しかしながら、これらの再生治療には公的さい帯血バンクからの臍帯血を使用することはできません。臨床研究の進行に合わせて、公的さい帯血バンクの適用範囲の拡大や、さい帯血バンクそのものの規模拡大が必要になってくると考えられています。

 

上野 ゆかり整形外科医
2003年国立大学医学部卒業。整形外科医として大学病院、地域基幹病院にて臨床経験を積み、小児から高齢者まで幅広い年齢層に対応。家族の仕事により移住したフィリピンにて、邦人に対する医療アドバイス、健康診断フォローアップ事業を開始。現在はドイツ(フランクフルト )にて医療・健康アドバイザーとして活動する傍ら、医療相談、オンライン診療などで臨床活動を継続中。


 

<参考>

厚生労働省 移植対策 関係法令
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/ishoku/hourei.html
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/ishoku/dl/190214_08.pdf

厚生労働省 赤ちゃんを出産予定のお母さんへ(臍帯血関連情報)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/ishoku/saitaiketsu.html

造血幹細胞移植情報サービス
https://www.bs.jrc.or.jp/bmdc/m0_01_02_qa.html

日本骨髄バンク
https://www.jmdp.or.jp/

 

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