色素性乾皮症|疾患情報【おうち病院】

記事要約

色素性乾皮症とは、小児期から日光暴露によって異常な反応を生じ、成人期には日光露光部に発がんが見られるのが特徴的な疾患です。色素性乾皮症の原因・治療方法・診断のコツなどを、医師監修の基解説します。

色素性乾皮症とは

小児期から日光暴露によって異常な反応を生じ、成人期には日光露光部に発がんが見られるのが特徴です。露光部の皮膚にしみがたくさん生じ、皮膚が乾燥し、皮膚がんが普通の人の数千倍多く生じます。半数以上の患者さんで神経症状が現れます。A-G群とV型の8つの病型が知られていますが、それらの症状はどの病型かによってもその程度や現れ方が異なります。色素性乾皮症の本邦での頻度は 2.2 万人に 1 人と稀ですが、 欧米では100 万人に 1 人なので本邦における頻度は高いといえます。

色素性乾皮症の原因

現在 A~G 群、V 型の全ての原因遺伝子がわかっています。A~G 群の遺伝子は、紫外線によって生じたDNA 損傷を修復する過程に必要な蛋白を作り、V型の遺伝子は損傷乗り越え複製に必要な蛋白を作ります。 色素性乾皮症では、これらの遺伝子の欠損により、傷をもった遺伝子が増えてしまうため、ガンを発生すると考えられています。

この病気は常染色体劣性遺伝という遺伝形式で遺伝します。両親のうちの両方がこの病気の遺伝子を持っている(保因者)場合、その両親から生まれた子供が発症する確率は1/4となります。

しかし、強い日焼け症状の出現、多形皮膚萎縮についての発症機序はわからないところもあります。 また合併する神経症状の出現の理由もはっきりしていません。

色素性乾皮症の相談目安

小児期より「顔面や首、手など、日に当たる部分に限り、広範囲に30個以上のしみができている」「異常に激しい日焼けを起こす」、成人の場合には「50歳前に日に当たる部分に皮膚がんが多発する」「原因不明の進行性脳・神経障害(難聴や歩行障害など)がある」などが診断に必要な症状になります。重症の場合には乳児期から日光に当たることにより異常に真っ赤になるなどの反応を生じることもあります。疑われる場合には遺伝子検査でによる診断確定が必要なのでご相談ください。

色素性乾皮症の疫学的整理

色素性乾皮症の本邦での頻度は 2.2 万人に 1 人と稀ですが、 欧米では100 万人に 1 人の頻度であることと比べると高いといえます。本邦では300 – 600名の患者さんがいると推定されます。また、皮膚症状,神経症状ともに最重症型である A群が 55%を占め,皮膚症状のみのV群が 25%でこれに次ぎます。A群の保因者頻度は日本人100人に 1人で、欧米症例と異なり、本邦 D 群患者では神経症状を示さない方が多くみられます。

色素性乾皮症の症状

病型によって症状は異なります。共通する症状は、早期からの日光暴露に対する過敏症状と日光露光部に発生する皮膚がんです。この疾患の方は、中年期以降に皮膚がんの発生頻度が非常に高いことが大きな特徴です。最初のうちは日光に繰り返しあたるうちに、露光部の皮膚にしみが増え、皮膚が乾燥します。A群では光線過敏症状が非常に強く、生後初めての日光曝露後に健常人と比べてはるかに激しい日焼けの反応が生じます。眼の白目の部分も赤く充血します。このようなことを繰り返すうちに日に当たる部位に1−2歳でそばかす様の色素斑が目立ってきます。 

C群やV群については、日焼けの反応がひどいという症状ははっきりしないことも多く、日の当たる部位に10歳までにしみがたくさん生じます。日光暴露の程度にもよりますが、20歳頃から露光部に皮膚がんが生じ始めます。中年以降皮膚がんが多発して初めて初めて色素性乾皮症と診断される場合もあります。

神経症状については、日本ではA群の患者さんで多くみられます。頚のすわり、寝返り、つかまり立ち、歩行などは、通常よりやや遅れが見られるもののほぼ年齢相応に成長します。運動機能のピークは6歳頃で、次第に転びやすいなどの神経症状が出始めますが、通常の意思の疎通は十分に行なえます。学童期前半で聴力レベルの低下が見られると、学童期後半では補聴器装用が必要となることもあります。本邦では過半数の症例で精神運動発達遅滞などの中枢・末梢神経系の異常を合併し、その進行度や重症度 が患者予後に大きく影響します。

重症例では、生まれてすぐの日光浴で日に当たった部分が赤くはれ、治まるのに1週間から10日かかりますが、そのようなことを繰り返すうちにしみ、皮膚の乾燥などが増えてきます。そのままほっておくと、10歳以下でも皮膚がんが日光にあたる部位に多数出現します。神経症状を伴う型では、症状の程度にもよりますが、20歳くらいになると歩くのが難しくなり誤嚥などを起こすこともあり、そのために肺炎をひきおこしたりすることもありますので、胃ろうを作る事が多いです。夜,無呼吸発作が生じる事も有り、そのような場合には、命にかかわりますので、気管切開をします。

色素性乾皮症の診断

色素性乾皮症(XP)の新診断基準(確定診断のためのガイドライン)

Definite,Probable を対象とする.

A 症状

  1. 臨床的光線過敏の慢性期の症状(年齢に比して著明な露光部に限局した特徴的な色素斑:皮膚萎縮,毛細血管拡張などを伴うこともある)
  2. 臨床的光線過敏の急性期症状(日光曝露後の高度の日焼け)(注)
  3. 50 歳以前に露光部の皮膚がん(基底細胞癌,有棘細胞癌,悪性黒色腫など)皮膚外症状,検査所見
  4. 原因不明の進行性脳・神経障害(難聴・歩行障害など)

注)日光曝露後の高度の日焼けで,以下の様な特徴を持つ

健常人が日焼けを起こすより遥かに少量の紫外線線量で日焼けを起こし,健常人では見られない様な,高度の炎症性浮腫,水疱形成を来す事, 日焼けの発現のピークが遅れ,日光曝露後 4 日目くらいがピークとなり,消退するのに 10 日くらいかかるなど.

B 検査所見

1.末梢神経障害(深部腱反射の低下,末梢神経伝導速度では感覚優位の軸索障害)

2.患者細胞での DNA 修復試験での異常所見(紫外線致死感受性試験で高感受性,紫外線照射後の不定期 DNA 合成能の低下) 3.患者細胞での紫外線感致死高感受性,または,カフェイン存在下での感受性増強 4.聴力障害(聴性脳幹反応でのI・II波の異常,オーディオグラムでの聴力レベルの低下)

C 鑑別診断

以下の疾患を鑑別する。

ポルフィリン症、遺伝性対側性色素異常症

D 遺伝学的検査

1.XPA,XPB,XPC,XPD,XPE,XPF,XPG,XPV 遺伝子の変異

<診断のカテゴリー>

definite XP:

(1)A の症状を認める,または家族内発症から疑い,遺伝子検査で XP 関連遺伝子に病的変異が同定された場合

(2)A 症状の 1,2,3,のいずれかがあり,B-2 を満たし,遺伝的相補性試験により既知の XP 遺伝子導入により修復能が回復するが, 遺伝子検査で XP 関連遺伝子の病的変異が未確定あるいは遺伝子解析未実施の場合

probable XP:

(1)A 症状の 4 のみがあり,B-2 を満たし,遺伝的相補性試験により既知の XP 遺伝子導入により修復能が回復するが,遺伝子検査で XP 関連遺伝子の病的変異が未確定あるいは遺伝子解析未実施の場合

(2)A 症状の 1,2,3,全てを満たす場合

possible XP:

(1)A 症状の 4 のみがあり,B-2 を満たし,遺伝的相補性試験により既知の XP 遺伝子導入により修復能が回復しない,もしくは遺伝的 相補性試験未実施の場合

(2)A 症状の 1,2 の全てを満たす場合

(3)A 症状の 1,2 のいずれかのみを満たすが,同様症状を呈する疾患が否定される場合 (4)A 症状の 1,2,3,4 のいずれかを満たし,同朋が XP と診断されている場合

色素性乾皮症の治療

今のところ、色素性乾皮症を根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。そのため、定期的に病院を受診して検査を受け、症状に対する治療を受けます。

早期にこの病気を診断して、遮光を確実に行うことで、皮膚がんの発症は、以前よりもかなり防げるようになってきています。しかし、病気の発見が遅れた場合などでは、それまでに当たった日光(紫外線)の影響で、次々と皮膚がんが生じてきます。できた皮膚がんは、大きくならないうちに、早めに切除します。

歩行困難に対しては、整形外科で手術を受けたり、装具をつけて矯正したりする場合があります。食べ物や飲み物が正しく飲み込めない人は、胃ろうを作ることがあります。また、夜に無呼吸発作を起こす人は、命に関わるので気管切開をします。

色素性乾皮症の予防

日常生活では遮光を徹底することが重要です。サンスクリーンはSPF30以上のものを用い、汗などで流れる場合には2時間おきに塗り直します。規定の量を塗布しなければ、表示されている遮光効果は得られません。サンスクローン剤は現在の日本の医療制度では化粧品の扱いになり、健康保険の適応はありません。しかし、地方自治体によっては補助を出しているところもあります。

保育園、学校での患児に対する遮光対策は、地方自治体により対応が異なります。日常の生活圏内の校舎の窓ガラスなどに遮光フィルムを貼ってもらう場合には、入園、入学の2−3年前から、関係部署と相談のうえ、対応をお願いしたほうが良いでしょう。

紫外線量を測定する器機は用いる端子、集光や測定精度の善し悪しが機器によって異なり、その精度に10倍程度の開きがあるのが実情です。また、精密機械ですので、定期的な校正も必要です。そういう事を考えますと、いたずらに紫外線の線量を測定するよりは、遮光の原則を守るのが安全で現実的といえます。成人になってからも、定期的な皮膚がんチェックが重要です。

色素性乾皮症の遺伝相談・生活相談

色素性乾皮症は遺伝性疾患であり、遺伝相談、遺伝カウンセリングの適応となります。遺伝子解析は確定診断目的のみならず、確定診断後の予後の推定という意味でも有用性は高いものです。保因者診断、出生前診断は本邦では最重症型で簡易・迅速診断が可能な A 群に限られ、その施行にあたっては検査施行施設における倫理委員会での厳重な審査やク十分なインフォームド コンセントが必要です。 

XP-A が多い本邦では患者の予後は不良で、皮膚症状・神経症状が出現し進行するだ けでなく、厳しい遮光や外出の制限が有る事は患者および家族の QOL (生活の質)を著しく損ないます。しかも治療法がないこと,遺伝する可能性がある(遺伝子が次の世代に 伝わる)などを考慮すれば XP 患者・家族の経済的、肉体的、精神的負担は大きなものです。これらに 伴う患者・家族の QOL 低下に対しては看護師、遺伝カウンセラー、臨床心理士などによる精神的ケアも必要になります。また患者家族会を通じた情報交換など、患 者家族同士の交流も有益です。

色素性乾皮症の予後

XP-A の典型例では、むせや嚥下困難が 15 歳前後 から生じ、声帯麻痺や咽頭ジストニアのために20歳頃に気管切開となる場合があります。その後は誤嚥下,感染症,外傷などにより 30 歳前後で死亡する場合もあります。近年、診断が早期に行われるようになっ たため,皮膚悪性腫瘍での死亡例はほとんどありません。従って、皮膚型 XP では早期診断が正しくなされ、適切な遮光が実施されていれば予後は良好です。

まとめ

治療では、皮膚科、小児科・神経内科、眼科、耳鼻科、整形外科、歯科、泌尿器科など多くの診療科の医師がチームを組んで、遮光指導、皮膚がんチェック、補聴器装用、リハビリ指導などにあたります。

現在、世界中で大勢の医学者や研究者が、色素性乾皮症の原因解明や治療薬開発のために、日々研究を進めています。細胞や動物の実験で、遺伝子治療の効果が得られたという報告も出てきています。

色素性乾皮症の診断は各種 DNA 修復試験,遺伝子解析を駆使してなされるますが,できる だけ若い年齢での確定診断と専門スタッフによる遮光指導、リハビリなどのケア、皮膚悪性腫瘍の早期発見と治療が、患者さんやご家族の QOL 向上に大きく関わります

<リファレンス>

難病情報センター(指定難病159)
色素性乾皮症診療ガイドライン(日本皮膚科学会)
色素性乾皮症 遺伝疾患プラス
全国色素性乾皮症連絡会

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